第24話 腹を割る


「……。ねぇ、ひどくない?マジ、ありえないんだけど」


ハチミツ酒をたかりにきたミレイユが見たものは、打撲で腫れあがって内出血した顔。

折れた腕。鼻血でべとべとになった枕やシーツ。

痛みにこらえる僕の姿だった。


「アタシさ。群れから離れたって言ったじゃん?離されたんじゃないんだよね」


ミレイユの全身が淡く、金色っぽく光っている。


「花の妖精ってさ、弱いんだよね。助け合って生きていくのが当たり前なんだよね」


「だからさ、同族をケガさせるってのが理解できないんだ」


「このままだと、殺されちゃうんじゃない?」


ミレイユの発する光は、じんわり暖かい。


「ありがとう、ミレイユ…」


「いいのよ。シュンはアタシのとっ…とっ……ともっ…友達でしょ!!」


「ごめんね、怒ってくれて…」


「いいのよ。アタシさ、こう見えてお姉さんだから!」


ミレイユが小さい体をふんぞり返らせてニヤリと笑ってる。

あれ?痛みが少し引いてきた?


「ねぇ、ミレイユ。この光って…」


「ん?花魔法だよ?」


「花魔法?」


「そう、花魔法」


「あのさ、痛みが引いてきた気がするんだけど…」


「そうね、気のせいじゃないよ。【モルダナ】使ってるからね」


「そっか。ありがとう…」


「…」



静かな時間がゆっくりと流れていく。


「ごめん、【モルダナ】って回復魔法?」


「ううん。【モルダナ】は花魔法でしょ?」


「え?うん。そうなんだ…」


「そうよ!」


「そっか、花魔法か…。ミレイユはすごいね!」


「ちょっと、さっきから何よ?嫌味?シュンって、ひどくない?」


「え?どういうこと?」


「とぼけちゃって!ミレイユって使えねぇ!って思ってるんでしょ?」


「いやいや、なんで突然、キレてんの?」


「いやいやじゃない!怒るでしょ?フツー!アタシは善意でシュンを助けようとしたのに「ミレイユはすごいねぇ(ニヤニヤ)」ってアタシが【ラニウム】使えないのバカにしてんでしょ?」


「ごめん、【ラニウム】ってなに?」


「ちょっと待って…。アタシの怒りが今、有頂天になるわよ?」


「たぶん、それ、違う。有頂天じゃなくて頂点に達しただと思う」


「フン!いいのよ!アタシが成長無効のスキルあるの忘れてんでしょ?」


「ごめんって。話しについていけてないんだけど…」


早とちりしたミレイユをなだめてすかして…。


僕が花魔法という言葉を聞いたのが人生で初であること。

成長無効のスキルで、ミレイユの花魔法を3つ以上覚えられないし使えないこと。

死にかけてる姿の僕をみて、本当に心配してイライラしていたこと。


お互いに腹を割って話して夜は更けていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る