第22話 決壊する気持ち

どんな召喚魔法陣にするか?をとにかく考えたかった。


女神カテリアの話だと魔法陣の設計は全て召喚者である僕ができる。と言っていた。

しかし、現実は厳しい。


朝早くから父さんの鍛冶場で働かされることを強要されていて、家に帰ると泥のように眠ってしまう。

修行というわりには、何かを会得しているわけでもなく日々を浪費している気持ちは、強い。


鍛冶場に行きたくない。

サボりたい。

ただただ狭い世界で人生を終えたくない。


爆発したようにイライラが募り始め、今朝、僕は鍛冶場に行かなかった。


父さんより先に家を出ること、そして鍛冶場の掃除を言いつけられていたけど、無視した。

家を出て工房の側にある花畑を通り過ぎた。

うっそうと茂る森は、生き物の息遣いはあるものの、静かで、考え事をするにはちょうど良かった。


悶々とこのままでいいのかと自問自答を続けていると、空が明るくなり始めた。

明るくなり始めた空を背中にうけ、森からでて、街道の方へと足が向いた。

とにかくこの現実から逃げ出したかった。


「よぉ、シュン。どうした?お前の行く方向はこっちじゃねぇぞ?寝ぼけてんのか?」


「え?シュン?はぁ?なんでこんな所にいるのよ?マジで嫌なんだけど…」


声の主は、今日の自警団の当番である、肉屋の息子であるボウと宿屋の娘であるケイだった。

ボウのニヤニヤと小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、ケイは芋虫を見るような忌避感が満面に広がっている。


僕はこの表情を知っている。


いや、正確には「矢野峻」だった頃にこの表情をいやというほど見てきた。


「おい。引き返せよ、泥いじり!俺に近づくな!クセぇ臭いがうつんだろうが!」


「やだ!気持ち悪い!なんなのよ!いったい!一体、私が何をしたっていうの?あっち行ってよ!」

くちぐちに僕を払い退けようとする言葉を投げつけられる。


「早く消えろって!」


ボウの投げた石が僕の右肩にめり込んで激痛が走った。

なんだって僕はここまで嫌な思いをしなきゃならないんだろう。

やりたくもない鍛冶の雑用を強制され、日々、奴隷のように働き、鍛冶師の息子ってことだけで、ここまで嫌われなければならないのだろうか。


それでも涙は零れなかった。


涙は感情と一緒に削がれ落ちたのだろうか?

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