第19話 彼女の名は…


音速を超える速度で、紫電が僕につきささる。

パチン!と乾いた音がして全身に電気が流れた。

冬場、車から降りてドアを閉めようとしたときの静電気に似た電気。

びっくりはするけど、妖精を掴む手を緩めることはない。



「な!アタシの電撃を防いだ?うそ!ありえない!」

サーっという音が聞こえそうなくらい、顔色が悪くなっていく。


「いや、ビリビリとはしたけど。ねぇ、そろそろ話を聞いてもらえるかな?」


「ぜひもありません!あなた様の貴重なお言葉、お伺いさせていただきます!」


「急にキャラ変わってない?暴れないなら、手を離すけど?」


「いえ!変わっておりません!ましてや、暴れるなど!滅そうもございません!」

手を離すと、すごい勢いで土下座した。この世界にも土下座の文化があるんだ…。


「う、うん…。とりあえず、ハチミツ酒あるけど、一緒に飲まない?」


「え?あなた様とハチミツ酒を?」


「うん。最初に聞いたんだけど、覚えていない?」


「いえいえいえいえいえ、覚えていますとも!あなた様がその高貴な御声で、この汚らわしいメス豚妖精風情なんぞに、ご相伴をお誘いいただいたこと、覚えておりますとも!」


「…。もう、それやめない?きみを傷つけるつもりはまったくないんだけど」


「あらそう?ハチミツ酒?飲みたいんだけど?早く出しなさいよ」


「…。身代わり、早くない?」


「早くないよ。鈍くさいわね。早くハチミツ酒、よこしなさいよ」


「なんかさ、今のきみって、お昼ご飯に向かう信号待ちのOLみたいな立ち方してるよね」


「…。なによ、信号待ちのOLって」


「なんでもないよ。じゃあ、これ。ハチミツ酒」


「あれ?これって本当にハチミツ酒?めちゃくちゃおいしいんだけど」

木のコップに入れてあげると嬉しそうに飲み始めた。


「アタシは、ミレイユ。あんたは?」


「僕?僕はシュン。」


「ふーん」


「ふーんって、ミレイユが聞いてきたんだよね?もう少し興味を持とうよ!」


「さ・ん!」

ミレイユは腰に手をあて、すごんでくる。


「さん?」


「そう、さん。さんを付けなさいよ。アタシの方が年上なんだから」


「そうだね。ミレイユってさ、妖精だよね?」


「いや、だから!さんを付けろよ。このエロ小僧!」


「いやー、さっき、メス豚妖精風情とか言ってたくらいだし。何の妖精?当ててみようか?花飾りすごいし、花の妖精とか?当たり?当たりだよね!花の妖精なのに電撃使うのってなんかずるくない?僕なんてさ契約しないと使えない召喚魔法なのに。他に魔法って使える?」


「……ちょっと。話、聞きなさいよ」


「いいなぁ、魔法。僕は召喚魔法なんだよね。どう、僕と召喚契約結んでくれない?」


「いいよ?」


「…。え?」


「え?じゃないよ。召喚契約?別にいいよ」



僕は召喚魔法に手を付けられるかも知れない。

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