第16話 歯車が一つ回る



「シュン。シュンは何になりたい?何をやりたい?」

父さんは一言目から直球を放ってきた。


「比べるわけじゃないけど、テオドラちゃんは魔法学校を9年間、主席のままで卒業した。今はお店で働いている。だけど、シュン。お前はどうだ?今はフラフラ毎日を生きていて恥ずかしくないのか?」


「……」



「シュン。明日から父さんの工房を手伝いなさい」



「え?どういうこと?」


花を植えた日の夕飯の席で、父は真剣な目で僕に言う。


「どういうこともない。シュン、お前は、毎日フラフラ遊んでまわってばかりじゃないか!」


「いや、だって、まだ子供だし…」


「いやじゃない。違う。隣のテオドラちゃんなんて小さい頃から家の手伝いをしている。村の子だって、みんな何かしら働いている。だけど、シュンは違う。一日中遊びまわっているじゃないか!」


「働くって…何かできるわけじゃないのに」


「いいや、できるさ。やろうと思っていないだけだ!父さんだって、父さんの父さん。お前のおじいちゃんの手伝いで工房に通って手伝いをしていた」


「知らないよ、そんなこと。お父さんはそんなこと何も言ってなかったし」


「シュン。お前が剣士になりたいと真剣に頑張っていたから、父さんは何も言わなかった。でも今はどうだ?さっきも言ったが何もしていない。フラフラ遊んでばかりじゃないか」


「遊んでるわけじゃないよ。花を咲かせようとしているし、ハチミツを集めようとしているよ」


「花を咲かせて何になる?ハチミツ?簡単に集まるようだったら誰も苦労していない。お前が言ってるのは現実逃避だ」


「いや、本当に僕は…」


「うるさい!口答えをするな!いいか!シュン。お前は明日から父さんの工房で働くように!」


「………」


「返事は!」


「……」


「返事をしろ!」


「……。僕は鍛冶師になりたいわけじゃない」


パンと乾いた音が左のほおから響いた。


「なりたい、なりたくないじゃない。父さんは働きなさいと言っている!」


「嫌だ!僕は世界を見てまわ…」


言い終える前に、また左ほおから乾いた音が響いた。

そっか、ビンタされてるんだ…。



「シュン!よく聞け!お前は鍛冶師カグ・ボネアルの息子だ!鍛冶師の息子は鍛冶師になる。これは運命だ。今まで剣士になると息まいていたから12歳の誕生日まで待ってやるつもりだったが、今は違う。お前はもう鍛冶師の跡取りとして生きていかなければならない!いいか、明日、絶対に工房まで来い。遊んで暮らすのはもう、終わりだ!」


「シュン…。お父さんもお母さんもシュンのことが心配なのよ?わかる?」


「いいよ、母さん。シュンも大きくなればわかるはずさ!」


一人で興奮して子供に手をあげる父。

その父が全面的に正しいと思い、子供をかばわない母が視界に入る。


痛みもさることながら、矢野峻やのしゅんの頃の両親の方が、理解があったなと冷めた気持ちになった。


塩気の効いたスープは、口の中でひりひりと痛んだ。

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