第14話 冒険のニオイ

ラサ。


今の僕が住んでいる村は、南の国レツエムにある小さな田舎の村でラサという。


ゲームの話しになるけど。

千年王国記最大のシュメール山脈近くの城塞都市からゲームが始まると、環境からソロプレイヤーは簡単に「つむ」状況になる。

その代わりとはいってはなんだけど、得難い味方や経験が得られる。


対し、このラサという村はシュメール山脈からほど遠く、徘徊している魔獣は初心者向けといえる好ポジション。


僕は非常に運がいい。


2階の自室、窓から眺めた景色は牧歌的で、街道が一本、緩やかな丘まで続き、さらにその奥、山の方まで伸びている。

見上げた空は、高いところで鳥が飛んでいる。


転生直前は11月の第2週目で、曇天が続いていて、そろそろコートが欲しいなと思う季節だった。


僕の作ったゲームの千年王国記は、オープンワールドで基本的に見えるところは、どこまででも、行ける。


この世界も矢野峻やのしゅんだったころと同じくリアルな場所で、同じように、僕はどこまでも行ける。

シュン・ボネアルの残滓のような思いは、剣士になって、この村を、この国を守りたかったのかもしれない。

だけど、僕は、矢野峻やのしゅんの意識は、「この世界の果てまで、行けるところは行きたい」という冒険者のそれだった。


シュン・ボネアルの「剣士になりたい夢」においては素振りは有効だったかもしれない。

だけど、世界を見て回るにはスキルの生成に偏りがでてしまう。

スキルツリーを埋めていく有効打はいつだって「実践」と「行動」の4文字に限る。

女神ミリアムの「僕のゲームを参考にして作られた世界」ということであれば同じように「実践」と「行動」の4文字が必須になるはずだ。


腰に挿した短剣に意識が行く。

短剣はズシリと重い。


父が鍛えた一本で、子供の体でも扱えるサイズではあるものの、木剣より小さく、包丁よりも分厚い。


レザーのガンベルトのようなウエストポーチには、銃弾のかわりに魔法薬が詰められている。



「シュン!バカか、お前は!帰れ!」


「村と外」の境目にある関所で自警団の一人が口を開いた。


「いや、僕も外で魔獣と戦って…」


「ごっこ遊びじゃねぇんだから!お前、この前もピーピー泣くだけで何もできなかっただろう?」


「そうだ、帰って素振りでもしてろよ」


「ガキは家の手伝いでもしてろ」



困った。


自警団のメンバーに見つからず村の外にでていかなければ、戦うことすらできないという事実に直面した。

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