覚醒編

第13話 矢野峻とシュン・ボネアル



現実に戻ってくると、軽い騒ぎになった。



庭でぶっ倒れていた僕を発見し、半狂乱になった母は僕を教会に運んだ。

救護措置でなんとか一命をとりとめ、約1か月、眠り続けたそうだ。


僕としては、女神カテリアの園庭でまどろんだ後、すぐに目が覚めて起きたような感じだったけど、そうではなかったようだ。


それはそうと、僕という存在が非常に不安定に感じる状況にある。

転生前の矢野峻やのしゅんとしての記憶、転生後のシュン・ボネアルとしての記憶が同時に存在していて、例えばそれは子供の頃の記憶が2つあるという状況。


それにあわせて、矢野峻やのしゅんとしての記憶を取り戻す前のシュン・ボネアルの記憶は夢を見ていたような感じになっている。


そうそう。


性格の不一致もある。

そもそも矢野峻やのしゅんとしての性格とシュン・ボネアルの性格は正反対で、嗜好も違う。


あれだけ憧れていた剣士に対しても、今はまったくといっていいほど熱意を見いだせない。


僕はどちらかといえば現実となった千年王国を見て回りたい。

性格や嗜好が一転したことについては、「原因不明の長期的な昏睡状態になっていた」というのがうまく機能していた。



ベッドの上で転がり、一冊の本を手に取る。


「わるいドラゴンをやっつけろ」


この世界にある数少ない絵本の一つ。


5人の勇者が千年王国における最強種であるドラゴンを討伐する物語。

枯れ枝のように細い少年が、剣士になる夢をみて、めげず、折れず、諦めず。

日々鍛錬し、涙をこらえ、喜びをかみしめ、いっぱしの剣士となる。


剣士となった少年は故郷を守るため、さらに鍛錬を重ね、ついには剣王と呼ばれるようになる。


世界をほろぼそうとするドラゴンが復活し、剣王が旅の途中で出会った4人の仲間。

剣王と4人の仲間は3日3晩続いた激闘の末、ドラゴンを倒すことができた。


そして剣王は少年だった頃の故郷に帰っていく。


パーティの中で献身的に剣王をサポートしていた女性を妻と迎えて。


というハッピーエンド付きだ。



矢野峻やのしゅんとしての記憶が戻ったとしても「矢野峻やのしゅんの記憶そのものが空想」ということは否定できなかった。



だけど、女神カテリアがいっていた「矢野峻やのしゅんが作ったゲーム千年王国記を模倣して作られた世界」というのは真実味がある。


このドラゴンの話だけではなく、国の名前や村の名前などいたるところで「知っている」ことが多い。


ここが、この世界が現実であること、矢野峻やのしゅんの記憶は空想ではないことが確固たる事実になってしまった。


あと、ゲームと違って、ステータス画面が中空に出てくるわけじゃない。



神託で受け取った紙に書かれていた「見たこともない文字や記号」も今ならすらすら読める。


だって日本語で書かれているんだから。



そこに書かれていた内容は、「限定召喚」のスキルの詳細だった。



「召喚者と被召喚者が双方の随意により一意の召喚契約を締結し、召喚者の求めと対価に応じ被召喚者を魔法陣により召喚し使役することができる。」



という非常に足枷の強い内容に加えて



「ただし、召喚契約の常時締結最大数は3件とし、召喚契約の満了、召喚者または被召喚者の死亡、その他の事情により契約の更新、継続が困難となる判断される場合に限り、双方の意思を必要とせず召喚契約の破棄を可能とする。前項の規定によらず、召喚者の被相続者及び被召喚者、あるいは召喚者及び被召喚者の被相続者の双方の合意により被相続者にて召喚契約を継続することを可能とする。」



なに?なんなの?この契約文書。



「最終幻想作品」の召喚士をイメージしてたんだけど、


真逆すぎて、ファンタジー要素が低くないですかね?

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