第12話 再び女神の園庭



キィィィ、ガタン。



古めかしくずっしりと重そうな木製のドアが閉まる音が聞こえた。

ハッとすると、僕は古めかしいテーブルセットのイスに座っていた。

よく晴れた空の下。花が満開に咲いている。

右手の方には、以前と変わらず、非常に大きく古めかしくて真鍮のような飾りがついた木製のドアがポツンと立っているのが見えた。


ここを、僕は知っている。女神カテリアの園庭だ。


視線を前に戻すと女神カテリアが以前と変わらず、ティーカップを持って微笑んでいた。


「あれ?なんでまたここ?」


「お久しぶりです。そうですね。まずは矢野峻やのしゅんさん、あなたのことをお話しましょう」


「僕の?」


「えぇ。矢野峻やのしゅんさん、まずあなたの転生した姿、シュン・ボネアルの体は死にかけています」


「え?なんで?というか僕、本当に転生していたんだ…」


「えぇ。転生して、矢野峻やのしゅんさん、あなたの「矢野峻やのしゅん」としての記憶を、私が封印しておりました。しかし、その封印を解いている最中です」


「ふーん、そうなの?封印したのに、わざわざ解く理由がわからないけど」


「簡単に申し上げると、この千年王国には7つの封印が施されています」


「封印?」


「えぇ。矢野峻やのしゅんさん、あなたの作ったオリジナルの千年王国記に「不滅の門」がありましたよね?」


「不滅の門?あれは、封印じゃなくて賢者の発生イベント用のオブジェクトだよ?」


「えぇ、存じてます。以前お伝えしたとおり、この千年王国は、矢野峻やのしゅんさん、あなたのオリジナルを模倣した世界。こちらの世界で7つの封印を解くと、魔王を発生させるイベントがあります」


「え?魔王?作ったの?」


「はい、魔王です。作りました」


「いやいや、なんでまた作ったの?」


「そうですね。面白そうじゃないですか。魔王を退治して訪れる平和な世界って」


「じゃあ、なに?イベント戦ってこと?」


「いえ、残念ながら、それは違います。魔王は魔王で独立した意思と思想を持って、世界を滅亡…。いえ。正確ではありませんね。世界を魔王の理想とする破壊と混沌に塗り替えることを目的としています。イベント戦ではないため、魔王は魔王で死に物狂いで戦いに望んでいますし、放っておけば着実に世界を侵略していきます」


「うへぇぇぇ。そんな面倒臭い奴の封印が解けそうってこと?」


「はい。だから、矢野峻やのしゅんさん。あなたの記憶の封印を解除しようとしていました。魔王と戦いましょう!」


「なんで今頃なの?」


「そうですね。矢野峻やのしゅんさん、あなたの元いた世界にも異世界転生してチートで楽勝な人生を望む声は多くあります。しかし、チートはフェアじゃないと思いませんか?」


「どういうこと?異世界転生をしたい人の話と、封印の話がつながらないんだけど」


「つまり、異世界転生を許可したのは矢野峻やのしゅんさん、あなた一人です。召喚魔法は与えましたが、チートは与えていません。大部分の現地人と同じ条件下、いいえ、むしろハンデキャップですらあるかもしれません。そのあなたが、魔王を倒して世界を平和に導くというストーリーにしたいのです」


「現地人でいいじゃん。僕、死にたくないから戦わないよ?」


「いいえ。残念ながら矢野峻やのしゅんさん、あなたにやってもらいます。だってその方が楽しそうだから。だから今一度、こちらに来てもらいました」


「うん。だけど、僕は、断固拒否して戦わないよ?」


「一つ目の封印は、黒馬の騎士が解こうとしています。黒馬の騎士は、矢野峻やのしゅんさん、あなたのオリジナルにもいましたよね?その彼です」


「え?いきなりハードル高くない?」


「はい。死に物狂いで強くなってくださいね」


「ごめん。僕は死にたくないから、行かないよ?」


「大丈夫です。矢野峻さん、あなたの好奇心は今の気持ちより強いことを知っています」


「僕、絶対戦わないからね?」


「そうですね。今はそれでも結構です。でも、矢野峻さん、あなたの千年王国に対する執着心を、私は知っています」


女神カテリアが指をパチンと鳴らすと、甘い、甘い南国の果物よりも甘ったるい香りに包まれ、僕の意識は落ちていった。

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