10話 一騎当千


 大声で騎士団長の指示が飛ぶ。


「遠距離攻撃が得意な職業は外壁に上がれ。騎士団の半分は三つに別れ南以外の三門の防衛に当たれ。」


「「「おう」」」


「回復魔法が使える者や調合師は二つに分かれて、王都中央の広場と南の城門内側へ」


「「「はっ」」」


「そして最後に南の騎士団は、平原に横一列に陣をしけ。その後に冒険者達もつけ。騎士団が一当し体勢を崩し、続けざま冒険者達が崩れたモンスターを攻撃。その後、徐々に中央に集まりながら後退し王都の中に避難しろ。切り札を出し門を閉める」


 皆、騎士団長の指示に従い、素早く行動に移っていく。騎士達が率先して冒険者達を誘導し、徐々に部隊が出来上がっていった。


 こういったことは、やはり訓練されてる騎士団に一日の長があるな。


「騎士団長、切り札とは?」


「それは……」


そして、説明の最後の言葉【切り札】に一人の騎士が騎士団長に問いかけた。言い淀む騎士団長。

 自分で言うのも恥ずかしいが、このままだと話が進まない。時間が惜しいので俺は口を開いた。


「俺だ」


(((!!!)))


ギルマスと騎士団長以外の皆が、慌ただしく移動していたが、驚きでその動きが止まる。


「はぁ〜〜〜だそうだ……」


 深い溜め息をついて肯定した。なので俺は、


「大丈夫だ。もし失敗しても被害は俺だけ。その後、体勢を立て直せるだけの余力は十分にあるしな」


 そう説明しても、皆が納得いかない顔をしている。


 誰だ!自殺志願者や、犬死と呟いた奴は?聞こえてるぞ。


「騎士団長、本気ですか?」


 俺を横目で見た後、もう一度問いかける騎士。


 しかし兜で顔が見えないが、あの声は女性か?


「本人と冒険者ギルドマスターからの提案だ。それに彼が言う通り、駄目だったとしても失うのは彼一人。試す価値はあると判断した」


「たしかに……でも、」


「副団長、もう決めたことだ。各自準備を整え配置につけ」


「申し訳ございません……さぁ、皆急ぐぞ」


 よかった。話はついたようだ。


 へぇ〜副団長しっかりしてるな。基本、副官は上官への反対意見を敢えて伝えるとなにかの本で読んだことがある。出来る部下をお持ちですね、騎士団長。


 話が終わり、俺は冒険者ギルドの中に戻ると、丁度探していたルイーズが物資の仕分けの指示を職員達に出していた。


「ルイーズさん、ちょっといいですか?ホルスを頼みます」


「お任せください。ホルスちゃんは命に換えても守ります」


「ははは、そんな事態にならないよう、がんばってきますよ」


 俺は、ホルスを預け笑いながら騎士団長の下へと戻る。


「騎士団長、準備が整い各自配置につきました」


「了解した。開門」

――ザザザザザザザ


先ほどの副団長が報告にくると、門を開き指示通り横一列に騎士団がゴブリン共と対峙する。その後ろには冒険者達。比較的、装備からして前衛職が多そうだ。


「いくぞ、突撃〜〜〜」

「「「うお〜〜〜〜〜」」」


騎士団長の号令が飛ぶと、叫びながら一斉にゴブリン共に皆が向かっていく。しかし、


「緊急報告。外壁の上から確認。まだ森の奥からゴブリン共が湧いて出てきます。かなりの数、森に潜んでいたらしく、全部で千匹に届く勢いです」


「何だと!多すぎる……外壁上から援護で一斉攻撃。合流するゴブリン共を狙え。味方に当てるなよ」


 かなりの数になっていたな。それにこの世界のゴブリンはゲームの時よりかなりずる賢い気がする。知能が高いのか?それともゲームがシステマチック過ぎたのか?


「なら俺も一度上に上がる」


「なに?作戦は?」


「心配するな。外壁から飛び降りるから」


「飛び降りるだと!あっ、おい、待て」


 援護の様子を見ているが、正直心許ない。足止めは出来ているが、ゴブリン共の数がそれほど減っていない。俺は騎士団長の静止を無視して外壁、ちょうど門の上に駆け上がり到着すると、


「あれ?さっきの副団長さん?」


「はい……あなた、どうして上に?」


「援護しようと思ってな。このままじゃ策がうまく嵌まらない。


 そんな会話をしていると、左の外壁から、冷気が漂ってきた。そして、


「大気の水よ、氷と生りて我が敵に降り注げ、アイスレイン」


 水の中級範囲攻撃魔法が放たれた。

 中々やるじゃないか。と思い術者を見ると、ローラで驚いた。すると彼女もこちらを見て目が合うと、なぜかウインクされてしまった。その余裕に場数を踏んであるのがわかった。


 そして俺の後頭部、右の外壁からは何かが燃えているよな熱を感じ、振り向くとあの鑑定士が詠唱を唱えている。そして、


「我が魔力を糧に炎よ 顕現せよ 悪意ある敵を退け ファイヤーウォール」


押し寄せるゴブリン共の群れの中に、突如火柱が立ち上り、横へと広がり焼いていく。


 これは、火の上級範囲魔法。攻撃にも防御にも使えるが、まさかど真ん中に発生されるとは……

 その効果は凄く、群れを手前と奥に二分し、中間にいたゴブリン共は燃えていき黒焦げになっていく。


 なら、俺も負けずにがんばりますか。


「ウインドサイクロン✕2」


 風の上級範囲攻撃魔法を右手に一つ、左手に一つ発生させ、左右から群れを挟み込み、押しつぶす感じで、徐々にすり合わせていく。すると俺の魔法から逃げようと、中央に集まるゴブリン共。


「ま、まさか上級魔法を二つ同時!!!なんて規格外な……」


 副団長の驚きなど気にせず、戦闘の様子を見下ろす。

戦闘を切り上げ、皆が門の中へと戻ってきた。そして殿についていた、ギルマスが最後に入ると同時に門が閉められる。


さて、出番ですかね


 俺は飛び降り、一人だけ閉められた門の外に立つ。そして剣を抜き魔力を流す。身体強化を施し、体を左に限界まで捻り構える。近づくゴブリンの群れ。その先頭の一匹が俺の間合いに入った瞬間、


「魔法剣ウインドブレード」

――シュッ

――ドンッ ズササササササササササササササ……


 剣先から風の刃が一気に伸びる。その超長剣を全力で横薙ぎに振るった。向かっ群れの左端のゴブリンから上半身と下半身が別れ、直ぐに一番前にいたゴブリンをも吹き飛ばす。そして勢いのまま群れの右端にいたゴブリンの手応えを感じ魔法剣を解く。


「ふ〜〜〜〜〜」


息を吐き確認すると群れは全滅。奥にいた、ゴブリンエンペラーまでちゃんと刃は届いたみたいだ。


「「「うお〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」」


 大歓声が門の中の城下町から聞こえてくる。しかし暫く立っても、その大歓声は鳴り止ます、門は開かれない。


「お〜い、誰か開けてくれよ〜〜〜」









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