9話 大氾濫


「しかしフウガ、なんで話す気になったんじゃ?レベルでさえ知られるのを煙たがったお主が、どういう心境の変化じゃ?」


「「うんうん」」


 黙っていたギルマスがフウガに疑問を投げかけた。二人も頷いている。


「目立つのは嫌だったんだがな。結局トラブルに巻き込まれるんだったら、信用の置ける協力者を作っておくべきだと思ったんだ。どうせ俺からじゃなくても、いつかはバレる。それに三人は信用できると思ってな」


「ほう〜」


「そんなぁ〜」


「嬉しいこと言うじゃねぇか」


 最後の言葉に顔を綻ばせる三人。


「俺はあんたがギルマスでいるうちは、ここの冒険者ギルドに協力する。その代わり、他の転生者の情報を調べてほしい。俺はなるべく関わりたくないんだ」


「そうか、お主は強さを提供する代わりに、冒険者ギルドの情報網を利用させろと。わかった。それならば力になれるだろう」


「助かるよ」


「しかし、同じ世界から来たのなら仲間ではないのか?」


「う〜ん、同郷というだけで仲間ではないかな」


「なるほどのう、色々とあるんじゃのう」


 とりあえず、話は終わりかと思っていたら、突然部屋のドアがノックされ、返事も待たずに職員が入ってきた。


「緊急で失礼します。突如ゴブリンの群れが現れました」


「はぁ?何だと!どういうことじゃ?」


「しかも、最上位種のゴブリンエンペラーを目視で確認。間違いありません。上位種のジャイアントやマジシャン、ソルジャーなども多数。群れの規模は最低でも五百を超えて、増え続けてます」


「くそっ、直ちに強制緊急依頼を、それと王城に早馬を出し騎士団へ知らせ応援を要請しろ」


「は、はい」


「わ、私も受付に戻ります」


「俺はおやっさんに知らせてくる」


 直様、皆が慌ただしく動き出す。俺は入ってきた職員を、呼び止め訪ねた。


「すまない、教えてくれ。奴らどの方角から現れた?」


「み、南からです。失礼します」


 南だと?俺が来た方角じゃないか!ゴブリンの集落は俺が壊滅させたが、あそこ以外にもあったのか……

 宿の女将やホルスの親が心配だ。しかし、このイベントが起こるとはどういうことだ?


 イベントスタンピード 

 ゴブリンの大宴会

 一定期間の間に、規定数のゴブリンを討伐しないと起こるイベントだったはず。そして少なければ少ないほど、スタンピード時の群れの規模は大きくなる。

 ゲーム時代で起こった数のニ倍だな。それだけゴブリン共を間引くことが今まで出来てなかったということか。

 この世界の冒険者が怠慢なのか、それともゴブリン共が狡猾なのかわからないが、起きてしまったものはしょうがない……

 

「フウガ、早速だが力を貸してくれ。頼む」


「任せろ」


「危機感が無いにも程があるが、凄い自信じゃのう。頼もしいわい」


「因みに被害を最小限にする策があるんだが?」


「なんじゃと?とりあえず聞かせてみろ」


 今の俺のステータスなら問題ない。しかし数が多いのは面倒くさいな。

 俺は策をギルマスに話すと、かなり驚きながらも、その策を騎士団に掛け合ってくれることになった。


◆ ◆ ◆


 打ち合わせが終わり俺はギルマスとギルドの外に出ると、既に大勢の冒険者達が集まっていた。その顔つきはとても暗く静かだ。ローラに三人組、おやっさんや顔色が悪かった鑑定士もいる。万能薬は効いたようだ。

 そして統一されたフルプレートアーマーに身を包んだ一団が、王城からこちらに向かって行進してくる。

 騎士団か。合流して先頭にいた一人がギルマスの下に駆け寄ってきた。兜を脱ぐと、白髪の短髪のイケオジ。あの顔たしか……


「ムスクルス、状況は?」


「騎士団長、一つ策がある。協力してくれるか?」


「先ずはその策を聞いてからだ」


 このキャラ、いや、人が騎士団長だったか。確かこの国の守護神的な役割で、序盤のストーリーイベントでよく登場していたな。しかし、名前を覚えるのが苦手な俺は騎士団長としか覚えてない。


 たしか、女性プレイヤー達の中には、彼を押すファンクラブがあったな。


 そんな事を俺が考えている間に、二人が話し合っていた。多分俺の策を、


「お前がフウガか?」


「ああ、そうだ」


 話が終わって俺に詰め寄る騎士団長。


「ムスクルスから聞いたが、大丈夫なのか?」


「ああ、もし失敗したとしても、犠牲はこの策を言い出した俺一人だ。協力してもらえないか?騎士団長殿」


 騎士団長の鋭い眼光を真っ直ぐに見返す。


「いいだろう。但しお前を信じたわけではない。お前を信じるといったムスルクスを信じて協力しよう」

――ガシッ


お互いに視線をそらさないまま、固く握手を交わす。


 おっ!こんな時に力比べか?多分俺の力量を試しているのだろう。仕方がないな。

少し本気で手に力を込めると、見る見る騎士団長の顔から汗が吹き出てきた。顔色も赤から青に変わっていく。これぐらいでいいだろう。


「すまなかった、少し力を入れすぎた」


「な、なぁに……ど、どうってことはないぞ」


 痩我慢してないで、さっさと治療してもらうことを、おすすめするぞ騎士団長。


「それでは策を伝える。皆の者聞け〜い」


騎士団長が策と指示を大声で伝え始めたが、俺と握手をした右手は赤く腫れ上がっていた。



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