5話 初依頼
「ふむ、フウガの強さを見込んで一つ頼みがある。もし、この依頼を達成してくれれば、色々と便宜をはかろう」
「取りあえず依頼内容が判らなければ答えようがない」
「それはそうだな……他言無用でたのむぞ」
「わかった」
俺、なんか巻き込まれてる?しかし早くギルドライセンスは手に入れたい。最低でも中級のライセンスは欲しい。
旅する時に、街への入街税も払わなくて済む。ゲーム時代は、低レベルで次のエリアに行けないようにした措置らしいが、今はオープンワールドのリアルだ。冒険者の出入管理の意味が強いのかもな。
「今、この国の王様が御病気でな。その薬の材料を取ってきてほしい。だか難儀な場所いる厄介なモンスターの素材で苦労しとる」
あれ?そのクエスト聞いたことがあるぞ。そしてクリアしたことがある。
念の為に最後まで聞くか?いや、時間の無駄かも。
「病名は?」
「石化病じゃ」
やっぱりか!薬の材料はコカトリスの肝で、それを手に入れるため討伐するクエストだったはず。
場所はここ王都より北の大森林の奥。
デバフをかけてくるモンスターが大量に現れるエリア。
推奨レベル30以上の初級パーティー卒業クエストだったはず。
しかし俺は石化回復薬を既にイベントリーに持っている。どうする?どうする俺?
しかしコカトリスと戦うのも悪くない。相手がエリアボスモンスターなら遠慮せず全力でまだ色々と試せるのだが……
しかしここである疑問が浮かんだ。ゲームではプレイヤー皆がこの依頼を受けれたが、転生後はどうなっているのだろう?
王様の病気が治ったら、このクエストは達成後に無くなるのでは?
それに、この世界に転生したのは俺だけじゃないらしい。もし他の転生者が、このクエストをクリア後だと受けられなくなるのかも……
正直俺は他の転生者と、あまり関わりたくない。
俺の周りの上位ランカー達は、面倒臭い奴らが多かったし、これでも俺は、ギリギリ個人ランキングに入る上位ランカーだった。ソロプレイ中心だと、そこいらが限界だったけど……
パーティーやレイドに助っ人参加はしたが、どうにも攻略、討伐の効率化が中心で俺には楽しくなかった。ゲームを楽しむというより、名声やランキングに取り憑かれている感じだ。もちろん、それを否定するつもりはない。楽しみ方は人れぞれだ。ただ、俺には合わないってだけで。
とりあえず収納から一瓶取り出し、テーブルの上に置く。
「どうぞ」
「これは?」
「石化回復薬だ」
「持っていたのか!」
「あわわ!」
「キュイ?」
ギルマスもルイーズも目茶苦茶驚いてる。ホルスはわからんよな。
「たまたまだよ。鑑定してくれて構わない」
「至急、最優先で鑑定士を呼んできてくれ」
「か、かしこまりました。直ちに」
おいおい、そんなに慌てて落として割るなよルイーズ。そんなテンプレはごめんだ。
連れて来られた鑑定士は魔導士のようだ。顔色が悪い。痩せこけ目の下の隈もかなり濃い。ブラックな職場なのか?彼は開口一番、
「お待たせいたしました。こちらの瓶ですか?」
「うむ、それとここにいるフウガも鑑定してくれ」
「かしこまりました。フウガさんでよろしいでしょうか?」
「構わないぞ」
「鑑定」
「どうじゃ?」
「こちらの石化回復薬は本物です。それと……彼への鑑定は弾かれ無理でした……」
「やはりな……しかしこれは本物か!急いで王城に向かうぞ」
「はい、只今準備いたします」
「少しここで休ませて頂きます……ふぅ〜〜〜」
気持ちはわからんでもないが、二人共気が早いって。そして鑑定士は断った後返事を待たずにソファへと深く座って天上を仰いで目をつぶった。お疲れ様です。
「待ってくれギルマス。まだ、それを譲るとは言ってないぞ」
「すまんすまん……それで、なにが望みだ?」
余程急ぐらしいが、俺は条件やら報酬やら何も聞かされてないんだよな。流石に口約束だけでもしてもらわないと困る。勿論反故にしたらすぐに別の国へと出ていくつもりだが……
俺から条件を出して、ギルマスとの交渉を始める。
「最初に、その薬の出所は絶対に秘密。トラブルに巻き込まれるのはごめんだ。二つ目。もし王様が回復したら中級ライセンスが欲しい。三つ目。これはギルマスに貸一つで」
「最初のはわかる。二つ目もわしが責任を持って用意しよう。しかし最後のは今後高くつきそうだから、ちゃんと報酬を用意させてもらうぞ。がはははは」
「わかったギルマス。契約成立だ。足止めして申し訳ない。明日また出直すよ」
「すまんなフウガ。おい、ルイーズ。王城へ急ぐぞ」
「は、はい。ホルスちゃんまたね〜」
「キュイ」
「それと鑑定士さん。これをどうぞ」
二人が急ぎ部屋から出ていった後、俺は万能薬を鑑定士に手渡した。
「えっ!」
「大変そうですね。顔色が悪すぎる。これを飲んで頑張ってください」
彼の返事を待たず、俺は冒険者ギルドを後にした。ライセンスがなければ依頼も受けられない。それに今日は色々とあって疲れた。
ギルドの外に出ると、夜も更けていた。結構長い時間いたもんだ。先ずは夕食と宿だな。
「キュイ……」
「そうだなホルス、先ずは夕食にしよう」
「キュイキュイ」
ホルスは、腹が減って限界らしい。それは俺もだ。
王都への移動に、卵だったホルスの救出、ゴブリン共の討伐と丸一日忙しかった。
朝食以来何も食べてない……
店を選ぶのも面倒だ。俺はそのまま、冒険者ギルドに戻り併設されている酒場のカウンターに腰を下ろした。
「新顔か。注文は?」
料理人には見えなくもない、前掛けをつけた大柄な男が、カウンター越しに注文を取りに来た。
辺りを見回してもメニューがない。
「腹に貯まるものと、水を頼む」
なので適当に注文する。
「予算は?」
「これで頼む」
「あいよ」
大銅貨二枚を渡すと、直ぐに木のコップで水を出して、また奥へと引っ込んでいった。
「ホルス、とりあえず水だ」
「キュイ」
コップの水を少しだけ掌にためて、懐のホルスに持っていくと、嬉しそうに飲み始める。
少し経つと、エプロン大男が戻ってきた。そして、
「おまち」
目の前に置かれる大皿と碗。
大皿の上に並んであるのは、カットされたパン。ハムにベーコンにソーセージ。それとチーズにドライフルーツ。全部酒のツマミだな。
碗の中身は、細かく刻んだ野菜と豆、それと肉が少し入ったスープだった。スープはとても栄養のバランスが良さそうだ。
「雛の従魔がいるんだが、テーブルの上に出して食事をさせても問題ないか?」
「好きにしろ。ここはそんな行儀のいい場所じゃねぇ」
「ありがとう。助かるよ」
「ふん」
おいおい、照れるんじゃねぇよ。礼を言ったら顔を赤くしやがって。ぶっきらぼうだが、悪い奴じゃないみたいだ。人見知りで照れ屋だからこんな感じの接客なのか?
「ホルスお待たせ。好きなのを食べな」
「キュイ!」
ーーピョコン、ガツガツガツガツ
待ちきれなかったホルスが、俺の懐から飛び出てきて、テーブルに飛び移る。
そして、嬉しそうに喋み始めた。ハムとチーズとドライフルーツが好みたいだな。
俺も食べるか。おっ!期待はしてなかったが、意外とうまいぞ。
それからホルスと一緒に夢中で食事を頬張っていると、
「雛ならこれだ」
エプロン大男が、小さい木皿を差し出してきた。ササミのような生肉が、ほぐされ盛られている。
「助かる。いくらだ?」
「いらん。それより、なるべく食事はここに取りに来い」
「わかった」
なんだよ。やっぱりいい奴じゃねえか!予想通り照れ屋だったんだな。
「ほら、ホルス。お前にだってさ」
「キュイ♪」
ホルスが、エプロン大男に礼をした後、凄い勢いで食べ始めた。時折、ドライフルーツとチーズを食べるが、ハムにはもう見向きもしない。
「キュイ?」
「おかわりか?頼んでみるよ」
それからホルスは、二皿おかわりした。暫く世話になるなら自己紹介しとくか。
「今日からしばらくここを拠点にするフウガだ。よろしくな」
「ドムだ」
――ガシッ
俺との握手を交わしたあとも、ホルスの食べっぷりを優しい目で見るドム。彼は元冒険者で今ではここのマスターをしているらしい。名前負けしない、その体格に笑いをこらえるのが大変だった。
「すまない。今夜の宿を探しているんたが、何処かいい宿を知らないか?」
「なら、ギルドを出て正面右の宿屋がお勧めだ。左は部屋が広くて値段も高いが汚い。右は狭いが安くて清潔だ」
「助かるよドム。なら右一択だな」
「だろ」
「また、明日顔出すよ」
「キュイ」
「おう、待ってるぞ。またなフウガにホルス」
食べ終わり、挨拶を交し冒険者ギルドを出て、勧められた宿屋に泊まった。
確かに部屋は狭かったが、清潔で気持ちよく眠りにつけた。
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