決着
「へえ~。聞いたんだ、俺の能力を中道から……」
戸惑う二人を前に得意げな様子で小森は語る。
「ん? 中道って、あの中道か!? あいつまだ、日冒の会長やってるんだ。日冒も人材不足か? トップが10年近く変わってないなんてよ……!」
「つまりだ、カレン。わたしたちが彼を外に出そうとすることは出来ない」
「そんな、一体どうすれば……」
イキる小森を前にヒソヒソと話す颯とカレン。
「ただ逆に言えば、彼が自らの意思で外に出ればわたしたちにも勝機があるということだ」
「もう五分か……。さあさあ、どうすんの? 残り五分、このまま俺に抱かれてしまうのか!?」
スポーツの実況風に小森は二人を煽った。
「小森君。君は今日、宅配を頼んでいたね」
「ん?」
ふと、颯の発言にキョトンとした顔を浮かべる小森。
「同人誌って言うのかな? わたしはあまり詳しくないのだが……」
「同人誌? 颯さん、何ですかそれ?」
「待て! 待て待て待て待て待て」
だがすぐに小森の表情は焦りへと変わっていった。
「何でもその冊子を作った作家、四年ぶりの新作を出したらしいじゃないか」
何故だ!? 何故そのことを知っている? 小森は脳内で考える。
同人会に現れて御年10年近いベテラン作家――うみイルカ氏。
そんな人気作家の彼が新作を出したと聞くや否や、すぐに小森はネット通販で注文しそれはわずか数時間で売り切れとなった。
今日はその頼んだ品が家にやってくる日。
だから小森は最初、配達員が来たのだと勘違いしたのだ。
「その注文、キャンセルしといたぞ。日冒からこの部屋に戻る前、配達員を見つけてな」
「何っ!?」
「いいのか、小森君? このままだと君の大切な品が他の誰かの手に渡ることになるぞ」
小森は内心、焦っていった。
同人作家は大手出版とは違う個人事業主。故に印刷代で赤字にならなよう刷る冊子の版数を絞る。
つまりは市場に出回る数が少ないのだ。
今日、この注文を逃すと次にいつ商品を手にする……いや、そもそも再販されるかどうかもわからない。
「あぁっ……!」
小森はうなだれる。究極の二択だったからだ。
このまま家に残り颯をモノにするか、すぐに外に出て配達員を追いかけるかを……!
颯はすごくいい女だ。まるで雑誌のグラビアを飾るようなルックスにスタイル。
こいつを抱けるのは男冥利につきる。
ただし、一晩限定。それに彼女とは同じ冒険者と言う職業。
今後も関わりがあって、もしかしたら自分と恋仲になるかもしれない。
しかし、うみイルカ氏は違う。ここを逃すと恐らくもう二度と手に入らない。
それに紙の場合は、その絵に飽きるまで一生使える。
小森の中で結論は出た。
「しかし、便利な時代だな。今は配達員の位置が携帯のGPSでわかる」
颯がそうぼやくと、小森のスマホを彼に向かって優しく投げる。
「クソッ!」
小森はそれをキャッチするとドアを開け、外へと飛び出した。
配達員を追いかけるために……!
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