有楽町へ!

「最低……、信じられない……」


 日冒の最上階。ガラス張りの会長室に響くカレンの罵声。


「あんな卑猥な物を買うなんて……! 生きてて恥ずかしくないんですか!」


「何だとぉ!? お前は今、全世界の同人誌オタクを敵に回したな!」


 そんなカレンに食ってかかるのは小森だった。


「大体何ですか、あの表紙は!? わたしあれに似てるキャラ、駅の広告で見たことありますよ! 許可取ったりしてるんですか? 人様のキャラクター、勝手に裸にしたりして!」


「お、お前……。オタクにとって、恋人の経験人数よりも触れづらいことを……!」


 日本の同人出版界隈の暗黙の了解を知らないカレンに、ぐうの音の出ない指摘をされ言葉を詰まらせる小森。


「まあまあ、カレン落ち着け。そうこいつをいじめてやるな」


 カレンを諭すように言ったのは、机に座る白髪交じりの男性。

 日冒の会長、中道修一だった。


「てかお前だろ、中道! 俺の秘めた道楽を白日の下に晒したのは!」


「相変わらずの年上相手でもタメ口のスタンス。久しぶりに会ったが、変わってなさそうで何よりだ」


「質問の答えになってねぇ!!」


 発狂する小森や中道たちのやり取りを、少し後ろから腕を組んで見つめる颯。

 先に行われた颯の貞操とXランクの討伐を賭けた勝負。

 それは希少な同人誌を追いかけるべく、小森が外に出たことによって決着はついた。


 その後すぐに颯の能力で三人一斉に、ここ会長室へと飛んで今に至るというわけだ。


「まあ、そうかっかすんな小森。朗報だ。お前に国から三神器の使用許可が下りた」


「三神器をか!?」


 中道の言葉に颯は驚いた顔を浮かべた。


「そうだ! しかも二つ。日本に古来より伝わる三種の神器。八咫鏡やたのかがみ天叢雲剣あめのむらくものつるぎ八尺瓊勾玉やさかにのまがたま。国で管理するこれらのXランク級の武具は、同じXランクの冒険者以外は扱うことを禁止されている」


「フ……、これは見ものだな。まさかXランクの能力だけじゃなく、三神器の力も拝められるとは」


 興奮を隠せない様子の颯。


「ああ、そして敬え! 三神器の内、二つをも国から引っ張ってこれる俺の政治力をよ!」


「誰が敬うか、ボケ! まあでも、あるにこしたことはねえか。じゃあそれ、さっさと手に取って有楽町に行けばいいんだろ? 日ぃ暮れる前に終わらしたるわ!」


「そうだ、頼んだぞ! なんやかんや、日本で一番強いのはお前なんだからよ。颯、移動を頼めるか?」



***



 倒壊したビル群の中に四人の人影が立っていた。

 一人はスーツを身に纏う赤い髪がトレンドマークの瞬間移動能力持ちのSランク冒険者――赤羽颯。

 そのすぐ横に立つ、刀を持った女子高生。いつの間にかセーラー服に着替えをすましたその少女はAランク冒険者――剣持カレン。

 その二人の前を先導するように歩くのは、顔だけしか見えないような重厚な鎧を身に包んだ颯たちと同じ日冒専属のSランク冒険者――佐倉さくらたける


 そしてそんな彼らの後ろに続く、日本最強の冒険者。


「よし、行くか!」


 崩落した有楽町に、小森の掛け声が響き渡る。

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