小森vs颯――①
富、力、性――。おそらくこの世に生きている多くの人間が、必死になって求めるであろう人生を彩る三つの要素。無論、それは小森にとっても例外ではない。
富と力――。この二つはすでに小森は持っていた。
贅沢をしなきゃ一生家に籠っていられるだけの財はすでにあるし、力も日本最高峰の強さXランク。
となると……、残りは性だった。目の前にいるのはルックスのいい妙齢の女たち。
金や名声などはもう小森には過ぎたるもの。今の小森が一番欲しいものは目の前の女たちだった。
初対面の女をいきなり抱くなんて、社会性や人間性に欠けている?
知ったことではない! と、小森は心の中で憤った。
それもそのはず。彼はもうすでに世俗から外れ、道理を失った重度の引きこもりなのだから……。
「なっ!? 何なんですか、あなたさっきから聞いていれば!」
その時、モラルのない小森の言葉に一人の女が声を荒げる。先ほどまで喋っていた赤髪のほうとは違う、10代くらいの黒髪をポニーテールに結んだほうの女のだった。
「ん? 別にいいだろ? 減るもんじゃないんだし。もしかして処女か?」
「しょ、しょじょ……!? な、何てはしたない……」
顔を真っ赤にして恥ずかしがる黒髪の女。
「まあ、そうカレンくんをいじめないでやってはくれないか?」
「その子、カレンって言うの? あんた、名前は?」
「わたしか?」
小森の責め立てに狼狽えるカレンをかばうように、赤髪の女が話に割って入っていった。
「
「へえ~、颯さん! それで? 俺の頼みは聞いてくれるの?」
「聞くわけないでしょ! 誰があんたみたいな男と……」
「いいだろう」
「颯さん!?」
颯の思わね返事に驚いた様子のカレン。
「ただ、相手はわたしだけにしてくれないか? カレンは見ての通り、まだ未成年だ。君は法律に縛られるような人間じゃないかもしれないが、男としての器量に訴えて後輩には手を出さないと約束してほしい」
「いいよ、別に」
小森はそんな颯の申し出をあっけなく了承した。
これは別に、決して小森が仁義を通したわけではなかった。
ピチッとしたスーツの上からでもわかる、颯のメロンのように実るたわわな胸。
最初から小森の狙いは颯一点だけだったのだ。
彼女とさえ相手できれば、それでいい。
「じゃあ、早速Xランク倒しに……」
「少し、待ってくれ」
携帯を充電コードから抜き出発支度をする小森を突然、颯が呼び止めた。
「とはいえ、わたしもただ黙って抱かれるのは癪だ。こんな喋り口調だが、一応女としてのプライドがある」
「あっ、そう……? 俺は男としてのプライドないけど」
颯の言葉にまるで興味を示さない小森。
「そこでだ。小森君、わたしと少しゲームをしないか?」
「ゲームぅ?」
小森は家にある一番高い、床置きのゲーミングPCに目を向ける。
「あぁ、すまない。ゲームと言っても、コンピューターやら機械やらを使う訳ではないんだ。じゃんけんのような子供でもできる、道具を使わない単純なお遊びのゲームだ」
「ふ~ん、それで?」
「もしもこのゲームにわたしが勝ったら、さっきの一晩相手にする話をなかったことにしてくれないか?」
「質問に質問を返すようで申し訳ないけど、そのゲームを俺が受けるメリットは?」
「もし、君のほうが勝てばさっきのXランク討伐の話はなしにして、情事を重ねることを約束しよう」
「マジで!?」
着替え途中の服のボタンをとめている小森の手が止まった。
「そんなん、やり得じゃん! それで? ゲームって何すんの?」
「10分以内に君をこの家の外に出せるかどうかの勝負だ。もし出せればわたしの勝ち。出せなければ君の勝ちだ」
「ハッ、何それ!」
小森は小さく笑う。
「そんなの、俺が10分間ずっとここに居続けたらいいだけじゃん? ゲームにもなりやしねえよ」
「そうだな。もし、我々がただの一般人だったらな」
刹那、颯の体から流れ出る白い瘴気のようなオーラ。
「お互い、人にはない特殊な力を持っているだろ?」
颯の体から出るオーラの正体は魔力の放出。
魔力とは人や魔物が持つ、スキルや魔法を使うための源。
「なるほどね」
さきほどまでケロっとした様子の小森だったが今、颯を見る目は真剣だった。
「スキル使って力づくで追い出すってわけか。Xランクであるこの俺を」
「あぁ。さっき女としてのプライドがあるっと言ったな? あれは嘘だ。単純に自分の一つ上のランクが、果たしてどれほどの強さを持つものなのか興味がある」
「ふ~ん。てことは、颯さんってSランク。そいつはすげえや! Xなんて3人しかいねえんだから、それ抜きにすると実質トップみてえなもんだ」
饒舌に話す両者であるが、その間には刺すような空気が流れる。
「でもねぇ……。XランクはSとA、AとBの上下とはわけが違うんだ。次元が違う。Sになってあと一歩で、夢のXランクだと有頂天になってるとこ申し訳ないけど」
「フッ……、わかってる。それでも確かめずにはいられないんだ」
颯がニヤりと笑みを浮かべた。
「まあいいよ、別に。はい、よーいスタート!」
小森が手元にあるスマホをタップし、ストップウォッチ機能で勝手に計測を始める。
「なっ!? いきなり始めるなんて! こっちの準備も考えないで」
「ん、こっち? ひょっとして、バージンちゃんも参加する?」
「バ、バージン!?」
小森の言葉にカレンは耳までも真っ赤にして狼狽える。
「いや、カレンは参加しない」
そう言って颯がカレンの肩をポンと叩くと、ヒールを脱ぎ小森の部屋へと上がっていく。
「土足厳禁お気遣いどうも」
余裕しゃくしゃくな様子で小森は言った。
「というのも……」
颯は一人ぼやきながら、ゆったりとした足取りで小森へと近づいていく。
その瞬間、小森の目の前から突然消えた颯の体。
突然の出来事に小森が度肝を抜かれると、彼の肩に乗せられた手。
振り返ると自身の後ろに、先程消えた颯がいつの間にか立っていたのだ。
「お前っ! 瞬間移……」
「もう終わる」
動揺するの束の間、颯の姿が一瞬で小森の家から消えて無くなっていった。
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