小森人志と言う男――③

「女だ……」


 しかも二人……。


 保険の営業か? まずそれが、小森の脳内に浮かびあがった。


「いや、それはない……」


 しかし、すぐに自身でその考えを否定する小森。


「営業は髪染めたりしねえだろ」


 何故なら女のうちの一人は、赤い髪をストレートにおろしていたのだ。

 気の強そうな美人で、おまけに巨乳――。


 もう一人のほうは黒い髪をポニーテールに結んだ、いかにも身持ちが堅そうって感じの女だった。

 隣の20代くらいの赤髪のほうに比べ、黒髪の子はさらに一回り若そうな容姿。

 ワンチャン10代かもしれないと、その時小森は思った。


「それじゃあ、宗教の勧誘か……?」


 女日照の小森にとっては、それ以外に考えられなかった。


「すみません。僕、腹イタでトイレに籠っている時以外は無神論者なんです。だから、お引き取りお願いします」


 ドアを開けた小森は、独特な感性と丁寧な言葉遣いで二人に応対した。


「ん? 無神論者……? あぁ、すまない。宗教かなんかと勘違いさせてしまったな」


 小森の言葉に、赤髪の女が男勝りな口調で答える。


「わたしたちは日本冒険者協会、直属の者なんだ。国内で三人しかいないXランクである君に折り入って頼みがあって、ここに来たんだ」


「えっ!? 日冒の人?」


 赤髪の女の言葉に驚いた様子の小森。

 日本冒険者協会――通称、日冒。ダンジョンや、出現する魔物。登録している冒険者やその者が持つスキルなど、日本の冒険者業の全てを管轄する国営の組織。

 小森が日本で冒険者業を出来ているのは、この組織が発行する冒険者ライセンスのおかげだ。


 言うなれば日冒は、日本に所属する全冒険者にとっては絶対の存在。

 それの直属となれば尚のこと、企業に所属している社員がその会社の社長に逆らえないように無下な対応は取れない。


 そんな小森が次に取った行動は……。


「あ、そうなんすね。僕、今からゲームするんで頼みごとは他の人に願いします」


 私情の優先だった。

 小森は日本最高峰のXランク。故に媚びへつらうようなことはしない。

 何故なら自分が最強だと自負しているからだ。


「そうか、すまない……。ただ、こちらの頼みも緊急なものなんだ。有楽町にXランクのモンスターが出現したのは知ってるか?」


「えぇ、知っていますよ」


「なら、話は早い。同じランクである君に、そのモンスターの討伐を依頼したいんだ」


「拒否します」


 赤髪の女の頼みにきっぱりと言い切る小森。


「モンスターは極めて強力なんだ。このままだと町が……、いや下手したら日本そのものが崩壊しかねない。頼む! 何でもするから、力を貸してくれないか?」


「ん? 何でもする?」


 今までそっけない態度を取っていた小森だったが、この一文に反応を示した。


「あぁ、わたしたちに出来ることならば……」


「それじゃあ……」


 二人を頭のてっぺんから足先まで、品定めするような視線で見る小森。

 舌なめずりしているのを悟られぬよう、小森は手で口元を隠していた。


「ヤ〇せてくれないか?」

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