小森人志と言う男――②
小森人志は重度の引きこもりだ。
外出するのもゴミ出しと、三日に一片の食料品の買い出しに近所のスーパーに向かうくらい。
仕事もせず、好きな時に寝て起きたい時間に置きる。
そのせいで昼と夜が逆転することもあるが、逆に一巡して早寝早起きになることもある。
今日、小森が起きたのは朝の午前11時。遅すぎず早すぎず、ちょうど休日に寝だめするリーマンぐらいか。
小森の一日のルーティンは、まず起きてすぐの趣味のWeb小説の執筆から始める。
彼の頭は朝起きてすぐが一番冴えるからと、お腹がすき朝食をとるまでにひたすら一心不乱にタイプを打ち込むのだ。
ちなみに小説のpvはというと、雀の涙ほどしか稼げていない。
朝食を食べた後はその日の気分によるが、大半がゲームかサブスクでドラマやアニメなどの映像コンテンツの鑑賞だ。
――六畳一間。机とPCとベッドぐらいしかない、鉄筋造のアパートのワンルームで小森の一日は完結する。
家にずっとこもることを小森は何とも苦に思わない。
むしろ外に出て、パーティーやらウェイヨーするほうが彼にとってはストレスだ。
小森の夢はずっと家に引きこもり、じじいになるまでゲームを遊びまくることだ。
しかし、現実はそう甘くない。人は質素に生きてくだけでも何かと金がかかる。
夢のFIRE生活をするためには、大金が必要。そのため、彼は冒険者となり巨万の富を築き上げることにしたのだ。
小森は恵まれていた。確立にして一万人に一人の才能――祝福を持っていたのだ。
祝福とはその人それぞれが先天的に持つ、超常的な異能の力。
祝福……別名スキル。そして、小森のスキルは極めて強力な能力だった。
それは彼を日本最年少のXランクに到達させるほどに。
そのおかげで小森はわずか25にして、死ぬまで隠居できるほどのお金を稼ぎきると早々に冒険者業を引退した。
名声や贅沢に小森は興味を持たない。
住むところのグレードも、田舎すぎず衛生的で雨風さえしのげればそれでよかった。
下手に高い家に住んで、多額の家賃を払うのは彼の性に合わないからだ。
ちなみに小森は、持ち家派ではなく賃貸派。
今日、小森に特にこれと言った予定はない。
昨日買い置きしておいた弁当がまだ冷蔵庫に入ってるし、あるとすれば通販で買った商品を届けに宅配業者が家にやってくるぐらいだ。
イヤホンを耳にはめ、モニターの前にかじりつきゲームの世界に熱中する小森。
ピンポーン――
玄関のチャイムが鳴った。
「おっ? 意外と早えな……」
小森はドアの方を振り返りると、すぐにイヤホンを外し玄関へと向かっていった。
配達員を待たせるようなことはしない。
何故なら早く出ないと、ポストに不在票を入れられ再配達になってしまうからだ。
「どちら様ですかー?」
玄関モニター何て上等な設備はついていない。
ドア越しに小森は大声で応対すると、ドアののぞき穴を覗いた。
宅配業者と言えば若い兄ちゃんか、あるいは年季の入った老人がドアの前に立っているだろうと小森は予想していた。
「あれ……?」
ただ、その予想は間違いだった。
玄関の前に立つのは業者とは思えない、スーツを着た若い二人組の女性だった。
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