最強冒険者は家に引きこもりたい
星川カタル
一章――有楽町崩壊編
小森人志と言う男――①
平日の真っ昼間、インスタントの味噌汁とパックご飯に納豆を乗っけた簡素な朝食を取る一人の青年。
彼の名は小森人志。小森は趣味のテレビゲームのために少し奮発して買った、240fpsモニターの前でネットニュースを眺めながら、ご飯を胃の中にかきこんでいた。
――有楽町に、Xランクモンスターが出現。ビルが倒壊し、町は機能不全――
興味が湧いたネット記事のタイトルにマウスカーソルを合わせ、クリックする小森。
「うおっ! 結構、エグイな……」
記事のページに載ってる写真を見て、小森は一人ぼやいた。
まるで子供がおもちゃを壊したかのように、瓦礫となった建物群。
「まあでも、Xランクが相手じゃしゃあねえなぁ……」
誰に聞かれているわけでもないのに、小森の独り言は止まらなかった。
およそ20年ほど前、世界中に突如として出現し始めたダンジョン。
ダンジョン内には強力な魔物が徘徊しており、時折それが外に飛び出ては人間社会に甚大な被害を与える。
その事態を避けるべく生まれた――冒険者と言う職業。
冒険者たちは近代兵器や魔物の素材で作られた武器、あるいはダンジョンが現れ始めたと同時に世界各地で生まれた――祝福と呼ばれる異能の力、またの名をスキルを用いて魔物たちを狩り生計を立てているのだった。
「フッ、懐かしいな……」
記事を見て、物思いにふける小森。
そう、彼もまたその冒険者であるうちの一人なのだ。しかも……、
「俺と同じランクの魔物か」
魔物と同じ、つまり小森はXランクの冒険者と言うことになるのだが、なんと驚くことにXランクは日本に三人しかいない最高ランクなのだ。
魔物のランクは最低のEからD、C、B、A、S、Xと強さの順を刻んでいく。
そして冒険者はその魔物のランクを討伐したことによる、相対評価で自身のランクが決まっていく仕組みなのだが。
「俺が出ねえと町、いや下手したら日本が崩壊しちまうだろうな……」
基本的に、魔物と同じランクの冒険者が戦いに挑むのがセオリー。
上から二番目のSランクが県を壊滅させる脅威レベルなら、Xランクは国家を崩壊させるレベルの強力なモンスター。
小森が出なければ有楽町のある東京都は……いや、下手したら日本そのものが危ない。
そんな彼が次に取った行動は……。
「まあ、俺のほかに二人もいるし何とかなるっしょ!」
ブラウザバックからのデスクトップショートカットで、FPSゲームの起動だった。
小森を英雄視してはいけない。
何故なら彼に友愛なんて感情はなく、己の私利私欲のみで動く利己的な人間。
さらには用がなければ外に出ない、重度の引きこもりの男なのだ。
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