第四章 狩りに行こう

第17話 狩りに行こう・1


 マツモトの腕を聞いて驚いたが、自分達も少しは練習しなければ。


「カオルさん。鉄砲で思い出しましたが、私達も、弓買いましたよね」


「ええ」


「どうです。少し、実地練習しに行きませんか?

 明日辺り、狩りにでも」


「良いですね」


「ラディさん、一緒に行きませんか?」


「構いません・・・いや、場所は」


「先日、私が見つけた森です」


「むっ・・・」


 ラディが眉をひそめる。

 あの山登りを思い出しているのだろう。


「いや、大丈夫ですから。本当です。山みたいに傾斜もないし。

 人の手もちゃんと入ってますし、鬱蒼としてませんから」


「本当ですか?」


「疑り深いですね・・・本当ですよ」


「疑り深くもなります」


「ははは! 大丈夫ですよ。釣り竿も持ってきて構いませんよ。

 少し奥に入った所に、それは良い川があって、釣り場に最高です」


「・・・」


 ラディの目がマサヒデを疑っている。

 くす、とカオルが後ろで笑った。


「まったく・・・本当ですから! 嘘だったら、黒嵐あげても良いですよ」


「・・・行きます」


「じゃあ・・・一応、着込みと、こないだの薄いローブは着て来てきて下さい。

 足はブーツで。後は得物だけですね。弁当はこちらで用意します。

 ラディさんも水の魔術が使えるから、水筒はいらないでしょう」


「はい」


「では、明日の朝、魔術師協会に来て下さい

 せっかくだから、皆誘っていきましょうか。

 大物が狩れたら、運ぶのにシズクさんに手伝ってもらいましょう」


「そうですね。皮も手に入りますし」


「ふふふ。楽しみになってきましたね。」



----------



 からからから・・・


「只今戻りました」


「おかえりなさいませ」


 マツが手を付いて迎えてくれた。


「マツさん、皆います?」


「ええ」


「うん、じゃあ、ちょっとお話が」


「はい」


 足を払って、居間に上がる。

 クレールは真面目に雀を乗せて、シズクも庭でゆっくり素振りをしている。


「只今戻りました」


「あ、おかえりなさいませ」


 ぱたたた・・・と雀が飛んでいく。


「シズクさんも上がって下さい」


「はーい」


 どすどすとシズクも上がって来た

 皆が居間に揃い、カオルが茶を並べていく。

 マサヒデはマツに顔を向け、


「マツさん、明日は空けられます?」


「ええ。溜まった仕事もありませんし、大丈夫ですよ」


「クレールさんは?」


「大丈夫です」


「シズクさんは?」


「用事なんかないよ! いつもごろごろー」


「ははは! じゃあ、明日は皆で、森に遊びに行きましょう」


 ぴく、とクレールの眉がひそめられる。


「むっ」


「ふふふ。クレールさん、大丈夫ですから。

 ラディさんも同じ顔をしてましたが・・・」


「むーん、本当ですかあ? もうあんなのは嫌ですよ!」


「大丈夫ですよ。嘘だったら黒嵐あげます」


「ふうん・・・」


「ははは! 全く、ラディさんもクレールさんも、疑り深いですね。

 あの山登りの後では、疑り深くもなりますか?」


「なります!」


「大丈夫。楽しいですよ。

 マツさんとクレールさんには、釣りをしてもらいましょう」


 は、とマツとクレールが顔を上げる。


「えっ、マサヒデ様、釣りですか?」


「私、釣りなんてしたことありませんけど・・・」


「大丈夫。教えてあげます。魚がいっぱいいますよ。

 魔術でぼん! と捕まえる事も出来ますけど、釣りも良いですよ。

 集中力も鍛えられます。よい訓練になると思いますが」


「はあ・・・訓練に?」


「そうなんですか?」


「そうですとも。釣り竿を握って、手の平の感覚に集中。

 魚が食いつく気配を察して、さっと引き上げる!

 集中力がつくことは間違いありません。ねえ、カオルさん?」


 くい、っとカオルに顔を向けると、


「はい」


 こくん、と頷いてくれた。


「私とカオルさんは、先日買ってきた弓の稽古です。

 狩りをしたいと思っています」


「あ! 狩りなら私も!」


 シズクが、ぱっ! と手を挙げた。


「もちろんですとも。でも、まずは私達に譲って下さいね。

 弓の稽古の為に行くんですから」


「もっちろん!」


「で・・・クレールさんはどうします?

 カオルさん、シズクさん、ラディさんも来ますが・・・」


「行きます!」


「良かった。釣り上げた新鮮な魚の塩焼きなんて、最高ですよ。

 ふふふ、安心して下さい。先日の蛇みたいな事にはなりませんから」


「うっ!」


 ぎく、とクレールが背を仰け反らせた。

 思わずマサヒデも笑ってしまう。


「ははは! 普通の焼き魚になるだけなんですから!

 蛇みたいにはなりませんよ。安心して下さい」


「クレール様、ご安心下さい。

 む・・・いや、ご主人様」


「どうしました」


「あの、釣れなければ・・・」


「大丈夫でしょう。魚はたくさんいましたし、クレールさんは鍛えてますから。

 どんな魚の食いつきも、一瞬で、ぴっ! ですよ。

 もし1匹も釣れなかったら、土の魔術でぐいっと川底から押し上げてしまえば」


「そうですね。心配はありませんか」


 くる、とマツの方を向く。


「マツさんも来ますよね?」


「もちろんですとも」


「じゃあ、クレールさんは、ちゃんと着込みを忘れずに。

 上にローブを羽織って来て下さいね。

 着込みは葉っぱや枝にすぐ引っ掛かりますから」


「はい! 靴は、前のブーツで良いですか?」


「ええ。今回はこれだけで構いませんよ」


 皆がうきうきしてきた。

 最初は疑っていたクレールも、にこにこしている。


「よし! 明日は皆で楽しく行きましょう!」


「はーい!」


 元気よく、シズクが返事を返してくれた。

 マサヒデは立ち上がって、短弓を持ってきて、くい、くい、と引きを見てみる。


「うん! 何か狩れると良いですね・・・」


 この短弓では猪は難しいだろうが、鹿なら狩れるだろう。

 マサヒデの気分も、楽しくなってきた。

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