フェイタルフェイト25/31
「ふん、お前達たちは本当にしつこい奴らだ。
ここまで私を追いかけてくるとは思ってもなかったよ……」
喋っているのは二人組の小さい方の男だった。
……いや、小さいと言うのは語弊がある。
充分に高身長だ。俺よりも頭一つ大きいんじゃないだろうか……。
つまりは、隣の大男が規格外の大きさという事。
あれがマードックさんが言ってた違法改造人間。オーバード・ブーステッドヒューマンか。
オーバード・ブーステッドヒューマンは製造しただけで重大な法律違反で、国家反逆罪に当たる罪である。
人間を兵器に改造するという、テクノロジーを使った犯罪の中では最も罪が重い。
「ぶおおおお! あがああああ! ぐおおおおお!」
そう、元は人間だったというのに言葉も発せない化け物になっている。
人道的に見ても完全にアウトであろう。
だが、小さい方の男。
おそらくマクシミリアンと思われる男は巨人の言葉は理解できているようだ。
「そうか、ラブクラフトもこいつらに因縁があったな。
血がたぎるか? いいだろう、お前の好きにしろ。
あと弟たちとは仲良く連携を取れよ、お前が長男だからな……」
そう言葉を残すとマクシミリアンは後を振り返り、再び洞窟の奥へとゆっくりと歩いていく。
敵に背中を向ける。完全に俺達を舐めている。
「さて、リベンジマッチよ、マードック準備はいいかしら?
ワイヤーソーは奴には効かないわ。
一撃だけなら効果はあるけど、その時点で私は戦力外になるから、ここぞという時に使うわね」
「ああ、頼む。決して奴の返り血を浴びることが無いように、出来れば奴の装備をはがすことに専念してくれ。そうしたら俺がとどめを刺す」
さすがはマードックさんにマリーさんだ。
挑発ともとれる奴の行動にも冷静だ。
「しかしあれよね、よくもまあ、あの巨体にあう服があったものだわ、鎧?
しかも真っ白のドクロの甲冑だなんてセンスがあれだわ、イチローが好きそうじゃない?」
そう、ラブクラフトと呼ばれた巨人は、全身が真っ白な骨の鎧に包まれていた。
デカいあばら骨の胸当てに恐竜の頭蓋骨を丸ごと利用したヘルメット。
ファンタジーでよくあるボーンアーマーといった趣だ。
そのセンスはいかにも子供が喜びそうなデザインだ。
俺も小学生の頃はああいう鎧を着てみたいと思っていたものだ。
多分、奴の知能は子供並みなのだろう、感性というか情緒というか、そういった成長がおそらく止まっているのだろう。
だからだろうか、父親と思われるマクシミリアンの命令なら何でも聞くし、きっと俺達をおもちゃか何かだと思っているのだろう。
その時、マクシミリアンは振り返る。明らかに俺の方を向いている。
まあ、今さら隠れようと奴にはバレバレだって事だろう。
そして奴は俺に向かってつぶやく。
「ああ、それと、少年。
君はこちら側についてくれると思っていたのだがね、そうでは無かったようだ」
洞窟の反響のせいか声はよく聞こえた。
少年とは俺の事か?
まあ25歳のアジア系の男性は奴からしたら少年に見えるのだろうが……。
しかし、マクシミリアンは何を言ってるんだ? 意味が分からない。
「君はアマテラスの為なら降伏すると思っていたのだがな。
……おっと、失礼、交渉人が居なかったな。
どうだい? 今からでも遅くはないさ。アマテラスは良い船だ。破壊するのは惜しい。
君が降伏すると言うなら、これから行われる虐殺は回避されるだろう。
ふっ、すまないな、既にほとんど殺してしまったか……。
まあ、アレは君達の仲間という訳でもないのだろう? 勘弁してもらいたいな。
安心するがいい、アマテラスと君だけは生き残ることを約束しようじゃないか」
何を言ってるんだ、こいつは……。
レッドドワーフの皆を散々殺しておいて。仲間でないから問題ないだと?
……冗談じゃない。
「……なあ、その中にマードックさん達が入ってないのはなぜだ?」
「そうだな、これは私闘だからだ、今回の件とは関係が無いのでね。
もちろん外で暴れている多脚戦車は生かしてやるさ。あれは戦力になりそうだからな」
「……そうか、なら却下だ。どちらにせよ、お前なんかに降伏したら絶対に良い事になる訳ない!」
「ふっ、なるほど。実に聡明で理知的だ。もし仮に俺が君の立場だとしても同じ回答をしただろうよ。
仲間を裏切る奴はクズ以下のクズだからな……。
ならばよろしい。敬意を持って君と戦おうじゃないか。
ベルナップ! アシュトン! ダーレス! 出てこい! 交渉は決裂だ。全員で皆殺しにしろ!」
「「「ぶおおおおおお!」」」
洞窟の奥から聞こえる、重なる複数の咆哮に洞窟全体が少し揺れたような気がした。
「なに! 他にもいたのか! くそっ、まずいな。イチロー、逃げろ!」
次の瞬間、マクシミリアンの側にいたラブクラフトはマードックさんに向かって突進をしてきた。
一瞬のことではっきり見ることが出来なかったが、奴が持つ、骨のこん棒を振りかぶっている姿だけははっきり見えた。
地面が砕かれる!
マードックさん達は、一瞬で立ち込める土煙で見えなくなってしまった。
状況は最悪だ、マードックさん達は無事だろうか。
「イチロー! ごめんね。こうなったら、私達は自分自身を守ることで精一杯だわ。
アンタは逃げてちょうだい、できるだけ時間を稼ぐから。シースパイダーに合流できれば後は何とかなるでしょ?」
ドン! ドン!
聞き覚えのあるショットガンの銃声がする。
マードックさん達はまだ無事なようだ。
「ぶおおおおおお!」
土煙の中、骨のこん棒を振り回している巨人の影だけが見える。
そして、洞窟の奥からは、こちらに向かって近づいてくる複数の大きな足音が聞こえてきた。
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