フェイタルフェイト24/31

 ――アースイレブン洞窟内にて。


「……なるほどな。

 話をまとめると、俺達を襲った恐竜達は突然、知能が向上していたと……

 更にはスイッチの様に切り替えが可能で、普段は野生動物として付近の森に自然に存在しているようだな。

 ということは奴らがこの洞窟の防衛力の要といったところか……」


「はい、荒唐無稽な話ですけど、脳波パッシブセンサーに突如反応が現れたので。

 ……テレポーテーションとか、そういう技術があるなら話は別ですけど」


「テレポーテーション? そっちの方がありえないわ。

 おそらくは恐竜たちの脳に細工がしてあって、任意のタイミングで明確な自我の元、命令を遂行したってところでしょ?」


「ああ、マリーの言うとおりだな。タイミング的には俺達がこの洞窟に進入しようとした瞬間に奴らに襲われたからな。

 おそらくは……。いや、確実に洞窟の中に何かがあるという事だろう。

 それに現在、俺達を人質にアマテラスはモードレッドによる一方的な攻撃を受けている。

 急がないと取り返しがつかなくなるだろう」


 そう、今こうしている間もアマテラスは砲撃を喰らい続けている。

 いくら元宇宙戦艦でもダメージはあった。


「なら、俺達はこの洞窟の謎を解かないといけないですね」


「いや、イチロー。お前を巻き込む訳には行かない。これには十中八九マクシミリアンが絡んでいるだろう」


「いいえ、もう、俺達は巻き込まれていますし、俺を一人にしたら直ぐに死んでしまうでしょう。

 一緒に行かせてくださいよ。銃だってもってますから、援護位ならできると思います」


「そうね、イチローの言うとおりだわ。ここはバラバラに行動するのは危険だわね。

 本当だったらシースパイダーの中に避難するのが最善策なんだけど、もうそれも出来そうにないわ……」


「まさか! ミシェルさんに何かあったの?」


「ええ、鮮明じゃないけど、レーダーの反応だと恐竜の数は1000を越えてるわ。さっきまで900を切ってたのにまた1000に逆戻り。

 大陸中の恐竜がこの場所に集められているみたいね。

 つまり、外ではもの凄い戦いが行われているってこと、この洞窟を守る形でね。

 当面はシースパイダーに接触する事はできないわ。

 まあ、入り口で盛大に暴れてくれているおかげで、洞窟内は平和だとも言えるわね。

 アンタの助手だっけ? 彼女、実はアンタよりも凄いんじゃない?」


 ぐっ。痛いところをつかれた。

 たしかにミシェルさんはかつての伝説のゲーマー、インフィニット・プロヴィデンスだった。

 フルダイブシステムの恩恵とはいえ、シースパイダーは今や最強の戦闘マシーンと化している。


「うふふ、図星で何も言えないみたいね。でも安心なさい、アンタのいい所は私もマードックも知ってるから」


「まさかマリーさんに慰められるとは……」


「あら、アンドロイドに慰められるのは不愉快だったかしら?」


「いや、それはどうでもいいんだ。でも見た目年下の女の子に慰められるのは、なんかこう男として思うところがあるというか……」


「ふっ。イチローはそれでいいさ。

 では、せっかく彼女らが時間をくれているんだ。

 俺達で今回の事件の黒幕を捕まえれなければな。マクシミリアンは俺達に任せてくれればいいさ」


 マードックさんは俺の肩を叩いてくれた。

 俺だってやれる、拳銃は壊れてないし、弾だってまだある。


 ちょっと恐竜の返り血でべっとりしていたが、さすがは未来の拳銃だ。


 ……。


 …………。



 洞窟の奥まで進む。


 奥に進めば進むほど霊子レーダーの反応は無くなっていく。

 おそらくこの奥には通信やレーダーを妨害する装置があるのだろう。

 つまりは人工的な建物、基地か何かがあるということだ。


 それにしても静かだ……。

 時折、鍾乳石が雨水を垂らしている音が聞こえる。


 稀に3メートル以下のラプトルに似た恐竜に襲われたが、瞬時にマリーさんによって肉片に変わっていった。

 やはりマリーさんは別格の強さだ、軍用アンドロイドってやっぱりガチで強いのだ……。


「なーに? イチロー、私の事好きになっちゃった?」


 ダンスを踊るように、ワイヤーソーを巧みに操るマリーさん。

 飛び散る血しぶきですら舞台装置の様に美しかった。


「お、おう。否定はしないぞ、マリーさんは強いし可愛いし。

 でも首をちょん切るのはちょっと怖い。けど今はかっこいいし頼もしいってのが正直な感想だ!」


「うふふ、百点満点な回答ね。あんた、アンドロイドたらしって言われたことないかしら?」


「アンドロイドたらし? なんですかそれ、イメージが悪いですよ。

 うーん、そういえばアイちゃんからは何度か言われたことが……いや、クリステルさんだっけ?」


「うふふ、やっぱりね。罪な男だわ。 …………しっ! ……来たわね、マードック!」


 急に声を落とすマリーさん。

 先程までと違いその表情は真剣だった。


「……ああ、気付いてるさ。イチローは後に下がってくれ。

 出来れば近くの岩陰に隠れてくれ、援護もしなくていい。アレの攻撃はユニバーサルクロークでも防げないだろうからな」


 マードックさんはショットガンを取り出し、弾丸を素早く装填する。


「マードック、準備はいい?」

「ああ、マリーこそ油断するなよ?」


 ユニバーサルクロークのバイザーには暗視装置がある。

 だから真っ暗な洞窟の奥から見えてくる人影もはっきりと見えた。

 それは大きな男と子供の様な身長差の二人組だった。

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