フェイタルフェイト23/31

 ――アースイレブン地上、森林地帯にて。


 知性のある恐竜。


 それは軍隊の様に統率がとれている。

 もっとも恐竜の武器には銃火器は無い。

 彼等の武器は牙に爪である。


 とはいえ、数で圧倒されている現状。

 防戦一方なのは否めない。


 ドドドンッ! ドドドンッ!


「12.7ミリだと大型恐竜には通用しないか……。これ使うと自然破壊で怒られちゃうかな……」


 ズゥゥゥン!


 火薬式の武器とは異なる発射音。

 同時に周囲の空気が振動し、上空の木々からは、ちぎれた枝葉が落ちてくる。

 音速を遥かに超えた砲弾の影響であろう。


 シースパイダーの背面にある40ミリレールガンが火を噴くと、全長10メートル以上はある、大型恐竜の上半身が吹き飛ぶ。


「さすが、ミシェルさんですー。目視でも、ど真ん中に命中ですー。さすがは元ランカーですー!」


 シースパイダーのスペック的には現地生物に遅れは取らない。

 だが、上空にいるモードレッドにはシースパイダーの位置がばれているため、常に砲撃を喰らう恐れがある。


「ねぇ、ミシェルンちゃん。モードレッドの砲撃を喰らったら、さすがにシースパイダーでも無理だよね」


「むー。恥ずかしながら、46センチ砲は無理ですー。

 もちろん理論上は全ての物理攻撃に対しては完璧な防御性能を誇るシースパイダーですが。

 エネルギー転換装甲の要であるエネルギー供給量の問題で負けてしまうのですー。

 シースパイダーの主機であるアドバンスド核融合エンジンの限界ですー。

 エネルギー問題さえ解決すれば問題ないですー!」


「そう、今度レポートに書いておくね」


 つまりは、現状だとモードレッドの砲撃を喰らったら終わりである。


 次の瞬間。

 ミシェルは何か違和感を感じた。

 厳密に言えばモードレッドの主砲から放つ独特の発光現象を察知したのだが。


 本能といえる所作で、ミシェルはシースパイダーを瞬時に跳躍させる。

 その直後、シースパイダーが先程までいた場所で大爆発が起きる。


 モードレッドの主砲、クラレントは徹甲弾であるため、直撃を喰らわなければ大したことはない。

 しかし、敵はこちらを確実に捕えている。


『はっはっは! 多脚戦車よ! よくぞ俺様の攻撃をかわしたな? やはり地上戦力にとってお前の存在は邪魔だな! 先に消し飛ばしてやらねばなー!』 


「まずいですね。霊子通信を敵に掌握されたままだと、私達も時間の問題です……」


「ふふふー。なら、こっちもジャミングしてやればいいですー。

 ミシェルさん。多目的ミサイルランチャーを上空で爆破させるですー。

 上空でさく裂した場合、モードレッドと地上の間で霊子通信のかく乱が可能になるですー」


 シースパイダーから発射されたミサイルは上空に飛翔する。

 そして空中でさく裂する。


『はっはっは! 馬鹿だな、そんな矮小なミサイルが俺様にダメージを……ジ……ジー、ジジジ――』


 モードレッドのうるさい声が消えた。


「すごい! ミシェルンちゃん、これも想定してたの?」


「もちろんですー。と言いたいところですが、オプション装備はサードパーティー製ですー。

 元々シースパイダーの性能は高機動の隠密作戦に最適な機体ですー。

 敵のレーダーをかく乱しつつ、高機動で潜入するのがこのオプション装備のコンセプトみたいですー。

 今後はシースパイダーは戦車に生まれ変わるかもですー。

 海洋調査ロボットとしては一度死んだ機体ですが、ミシェルさんのレポートのおかげで新たな道が出来たですー」


「……そうなんだ。なんかゴメンね」


「いえいえ、どうせ海洋調査ロボットとしては二位だったですー。

 所詮二位では学会や研究機関には採用されず、ダメダメだったですー。

 それに開発中止になるところをミシェルさんに助けてもらったですー。

 シースパイダーにとっては命の恩人ですー。もしかしたらコジマ重工の社長さんから表彰と金一封あるかもですー」


 …………。


 ドドドンッ! ドドドンッ!


「12.7ミリガンポッド。残弾100を切ったですー」


「了解。……ミシェルンちゃん、イチローさんは無事でしょうか……」


「大丈夫ですー、船長さんは洞窟に避難完了ですー。私達は洞窟の入り口の防御を専念するですー」


「分かったわ。それにしても上空が心配ですね。アイさん、一方的にやられている様子ですけど……」


「アイさんは私達の盾になってくれてるですー。

 仮にアマテラスが宇宙に逃げてしまったら、次のターゲットは私達ですー。

 モードレッドが本格的に地上攻撃を開始したら船長さんやミシェルさんの命はないですー。

 さすがのコジマ重工もガチの惑星強襲揚陸艦にはお手上げですー」


「なるほど……。状況は今だ最悪……か。現状を打破するために何か私達に出来ることは……」


 そのとき、強力な霊子通信を受信する。


【皆! 俺はイチロー・スズキだ! ジャミングとか色々あるみたいだから、結論だけを言う!

 俺は、多分大丈夫だ! なんせマードックさんとマリーさんが居る。俺が人質になってる疑惑があるけど関係ない。

 自分が生き残るために最善を尽くせ!】


「ミシェルさん、船長さんは無事のようですー」


「ええ、良かった……。生き残るための最善を尽くせって。ほんとイチローさんらしい……そうね、なら私は遠慮しなくていいのかな?」


「うふふー。その振りは懐かしいですー。伝説のゲーマー、インフィニット・プロヴィデンスみたいですー」


「……ミシェルンちゃん。恐竜はあと何匹居る?」


「増えてるですー。このエリアの大型恐竜が一斉に襲い掛かってくるみたいですー!」


「そう、ならもう弾丸がいくらあっても足りませんね。ミシェルンちゃん。アレを使うけどいい?』


「はいですー。シースパイダー、リミッター解除ですー!」


【背面ウエポンラックパージ。エンジン最大出力。シースパイダーのシステムは高機動モードに移行します。

 警告! 高機動モードのリスクに関して――】


「オッケーですー。シースパイダーは真の力に目覚めたですー」


「ミシェルンちゃん。近接武器はなにがあるの?」


「今回は前腕の超電磁シザースですー。簡単に説明すると、カニのハサミですー。首ちょんぱで即死ですー」


「オーケー。なら、いくよ? ……私だって殺したくないけど、殺されるくらいなら何だってやってやる!」

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