フェイタルフェイト8/31

 翌日。

 皆さん昨日は気持ちよく飲んで昼までぐっすりのようだ。

 肉体的な疲れもあるのだろう。


 食堂で軽い昼食をとる者、武器の手入れをする者、カードゲームに興じる者。

 それぞれの休日を過ごしているようだ。


「お、アースイレブンの天気は回復したみたいだな。地上まで肉眼ではっきり見えるぜ」


 眼下に広がる地上は雲一つない快晴だった。

 それは見渡す限りの緑の大地だ。

 

 自然の森、その木々の高さは平均30メートル、大きなものだと100メートル以上はあるという。

 青々と茂る枝葉に地面は隠れて見えない。

 見えるのは湖とその周辺にある砂浜くらいだろう。

 

『今日の明け方には晴れたようですね。今は水浸しで地面はぬかるんでいるでしょうが、明日には水もはけるでしょう』


「それは何よりだ。俺も地上が見れて楽しいしな。どれどれ、宇宙の恐竜ってどんなのかな?」


『マスターがそうおっしゃると思って、光学式望遠鏡を用意しています。後でゆっくりと見てください』


「おう、ありがとう。今はおもてなし中だしな。さてと、とりあえずマードックさん達と打ち合わせをしてくるよ」


『はい……ところでマスター。私に秘密にしていることがありません?』


「…………え? …………い、いや。べ、別に? ……特にないですけど?」


『ふぅ、マスターは本当に嘘がつけない人ですね。私としては大変好ましいですが、少し心配になります』


「ははは、心配してくれてありがとう。気を付けるよ。では今日もお仕事頑張りますかー、はっはっは」


 …………。


 俺は船長室のセキュリティーを確認する。通信はオフライン。

 アンドロイドの入った箱を空けると、紙の切れ端が落ちた。

 あらかじめ俺が箱の隙間に差し込んでおいたのだ。


 ふう、誰にも見られていないようだ……しかし、タイミングが悪いな。

 サプライズのつもりで秘密にしているが時間が経てば経つほど俺はいけないことをしている気分になるじゃないか。


 そう、これはアイちゃんへのプレゼントであり、俺の欲望のためのアンドロイドではないのだ……。


 あと三日で今回の仕事は終わる。

 一応、電源は入れて起動チェックはした。後はアイちゃんとデータリンクさせるだけなのだが。

 このまま船長室に置いておくのも良くない。


 俺は通信コンソールを手にする。


「サンバ君よ。極秘で頼みがあるんだが……」


『おや! 船長さん。秘匿回線とは珍しいっす。……つまりは例のアレっすね?』


「……ああ、船長室に置いてある例の箱をな、今週いっぱい倉庫にしまっておいて欲しんだ。それと、このことはくれぐれも皆には秘密に……」


『ぐへへ、了解っす。男同士の約束っす!』


 サンバ君はどうやら男の子設定のロボットだったようだ。まあ、青色のボディーだから当然か。

 青色は男の子カラー……安直だが同じ男だと思えばこういった話題は相談しやすくなるものだ。コジマ重工のセンスは直感的で本当に助かるよな……。

 


 ……さてと、とりあえずは問題は解決したしジムに向かうとしよう。

 マードックさん達が居るだろうしな。


 ブーステッドヒューマンとて日々のトレーニングは大事だ。

 人も機械と同じで錆びついてはいざという時にパフォーマンスを発揮できないのだ。


「あらイチロー。ここに来るのは何日ぶりなのかしら? トレーニングは毎日やらなきゃダメじゃない」


「いやー、一日サボるとついつい癖になってね。って、なんでマリーさんがそれを知ってるのさ」


「やっぱりそうなのね……器具がやたらピカピカで使用感が無かったからよ。……だめよ、アイもあんたを甘やかして、過保護なAIだわ」


 ちっ。嘘をつけない性格が早くも露呈してしまった。

 まあ、俺は政治家になるつもりはないし、俺は出来る限り正直者で生きていたいのだ。


「ところでマードックさんは?」


「ええ、マードックなら居るわよ。トレーニングは早々に止めてアースイレブンの地形を見ているわ。なにか気になることでもあるんじゃないかしら?」


 マリーさんの指さす方向にマードックさんは居た。

 彼はトレーニングルームのモニターからアースイレブンの地形をみている。


「あ、マードックさんもやっぱ気になりますよね。ジュラシックなワールドですから。恐竜ですよ!」


「ああ、イチローか。もちろんだとも、太古の地球によく似た生態系を持つアースイレブン。子供の頃から一度見てみたいと思ってたんだ」


「ですよね、どうです? ティラノサウルスっぽいのとか居ましたか? プテラノドンみたいな鳥系恐竜もいいですよねー」


「……まったく男の子ってほんと恐竜好きなんだから。

 私には全然分かんないわ。あんなのただのデカいトカゲじゃないの」


「マリーさん、それは違う。恐竜はね、カッコいいんだよ。

 トカゲじゃないんだよ。グオーって……とにかくカッコいいんだ。まあ女の子にはその辺の男心は分かんないかなー」


 語彙力の無さよ……。恐竜の魅力が伝わらなかったのか、マリーさんは俺を見下した目でふっと溜息を吐く。


「そうよ、分からないわ。……まあ、しょうがない、そんな男の子の趣味に付き合ってあげるのも女子力ってやつね」


 アサシンドールのマリーさんは実に表情豊かだ。

 キラキラと輝く笑顔の美少女。

 これが軍用アンドロイドだなんて誰が思うだろうか。


 いや、だからこそのアサシンなのだと言われればそうなんだけどな……。


「そうだ! せっかくですからブリッジにきて一緒に見ませんか。あそこなら最新式の光学式カメラがありますし。地上の砂粒まで精密に見れるそうですよ」


「うむ、ぜひ頼むよ。マリー、今日のトレーニングは終わりだ」


「はいはい、分かったわよ。まったく、マードックも子供なんだから」


 愚痴を言いつつもまんざらでもない表情のマリーさん。


 そう言えばサガ兄弟が言ってたな。

 この二人はオネショタで尊いのだっけか。


 今、俺はそれを再確認したのだった。

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