フェイタルフェイト9/31

「おお! マードックさん! あそこに首が長いキリンみたいな恐竜がいますよ?」


「ふむ、樹木の高さに適応して首が長く進化したんだろうな」


 俺達はブリッジに戻り、地上を光学式カメラでゆっくりと観測する。

 映像はドーム状の3Dモニターに表示される。


「しかし、てっきり湖なら水を飲む恐竜を見れると思ったのに」


 湖を中心とした周りは比較的高い樹木はなく観測するのに最適だった。


『マスター。あの湖は塩湖です。海水の濃度よりも濃い塩分濃度ですから、水飲み場として不適切なのでしょう』


 なるほど、だから樹木の分布も限定的なのか。


「おや? 湖に向かって足跡があるぞ? 歩幅的に二足歩行の恐竜かな? なんか靴跡っぽいけど塩湖に対応した種族もいるんだな」


『おや、本当ですね、まるでブーツの靴底みたいな形ですね。

 しかしサイズが違います。人間の足跡に換算すればその身長は3メートル以上になってしまいますね。

 ……それにしてもこの足跡、アーカイブには該当する個体が存在しませんね』


「なるほど、ということは新種の恐竜だな。

 ブーツみたいな足跡の恐竜ってことは、つま先は蹄のように進化してるってことだろうな。

 二足歩行の蹄を持つ恐竜か……見てみたいな。さしずめブーツノドン、いや、クーツーザウルスってところかな?

 いや、ここは発見者の名を取ってスズキ竜ってのはどうだろうか。マードックさんはどう思います?」


 マードックさんは何やら考え事している様子で返事は無かった。

 突然の沈黙に空気が重くなる。


「……ねえ、マードック、もしかしてあいつじゃないの?」


「ああ、俺もそう思っていた。

 イチロー、すまんが明日はレッドドワーフの皆と同行してもいいかな? 少し気になることがある」


「え? 別にいいですけど。でも何が気になるかを教えてくれれば……」


「……そうだな、これはあくまで俺の感だが。

 あのサイズの足跡をつけれるのは恐竜だけではない。前に話しただろう、オーバード・ブーステッドヒューマンの存在を。

 もしかしたらマクシミリアンが居るかもしれない……まあ、なんの証拠も無いし、ただの感でしかないがな……。

 現状はそれしか言えることがない。

 だが、仮にそうならレッドドワーフにアドバイスも出来るし、何もなければそのまま俺達は帰還するよ」


「ええ、それならいいですけど……。アイちゃんはどう思う?」


『そうですね、現状、マードック様の感ということですので、私としては何とも評価しづらいです。

 マスターにお任せいたします。違和感を持たれた足跡についてはアースイレブン専門の生物学会に写真を送って回答を待つとしましょう』


「ちょっと、マードックの感を疑ってるの? 確かに鈍感系だけど戦闘においては私並みに強いんだから信頼してよね!」


「マリーさん、もちろん信頼してるって。ではマードックさん達には明日、レッドドワーフの皆さんに同行してもらいましょう。

 団長さんには理由を話して、それとは別件で生物学会へは写真を送るでいいんじゃない?」


「すまない、俺の感などという曖昧なことに対応してくれて助かる……」


「いやいや、全然問題ないですよ。念には念をってね。

 俺としては、オープンで柔軟な仕事、それにつきますよ。

 ほら映画とかでよくあるじゃないですか。自分の思い込みで単独行動してトラブルに巻き込まれるパターンとか。

 俺はそういうのは嫌いなんですよ。ホウレンソウって言うじゃないですか」


「ほんと、イチローって変ってるわね。普通は貴方のボディーガードとして雇われたんだから、私達の業務外の行動は許されないんだけど?」


「そうかな? まあ、俺は頭は柔らかい方なんで、それにレッドドワーフの皆さんとも打ち解けたし。

 それに仕事中は彼等は全員地上ですから。ほら、ようは臨機応変にってことですよ」


「ふーん。まあアンタがそれでいいならいいけどね」


 …………。


 翌日。貨物搬入デッキにて。


 昨日までは泥だらけの床だったが今はピカピカに磨かれている。

 それに滑り止め用ワックスまで掛けられて靴底との間にキュッキュッと摩擦音がなるほどだ。


「さすがはサンバ君だな。だがこのキュッキュッってなるのはなんか嫌だな、バスケットボール部時代の思い出が蘇る……」


「あれれ? 船長さんは野球部じゃなかったんっすか? その名前のくせして似合わないっすよ」


「よせやい、俺が入ってはいけない部活ナンバーワンは野球部だぞ! 間違いなく注目を浴びていじり倒されるに違いないのだ。

 まあ、バスケット部もすぐにやめたがな。俺は元々運動音痴だったが、漫画の影響で俺にもスラムダンクとかスリーポイントシュートができると錯覚してな。

 勘違い野郎の俺は直ぐに挫折したのさ……」


 俺とサンバ君がどうでもいい話をしている間にも、マードックさんと団長さんは真剣に打ち合わせをしている。


「団長殿。昨日、少し話したが装備の方はどうだ?」


「ああ、問題ないぜ。アンタが言うオーバードなんとかだっけ? 確かに厄介だな。

 だが生き物なら12.7mm機関砲で充分だと思うぜ。それにグレネードランチャーも各隊に持たせてある。

 まあ、それでもだめなら装甲車の40mmレールガンで粉々にしてやればいいさ。

 俺達はそこいらのテロリストよりも強い軍事力を持ってるんだぜ? がっはっは」


「マードック、どう思う? 勝てそう?」


「ああ、いくら強力なオーバード・ブーステッドヒューマンとて、これだけの火器が有れば問題ないだろう」


「というこった。それに今回はお嬢さん、いいや、最恐のアサシンドール・マリー様がついてきてくれるんだったら百人力よ、がっはっは!」


「ふーん。ならいいんだけど。でもなんかフラグっぽくない?

 そう言えばマードック、アンタはアンタで何か対策があるんでしょ?」


「ああ、あまり使いたくなかったが、今回は俺の心情はどうでもいいしな、……アレを使うよ」


「ちょっと、それってアンタにとっても――」


『みなさーん。そろそろお時間です! 今日で仕事も折り返し地点ですね。

 地上は快晴そのもの。今日も元気に安全に頑張りましょう!』


「お! この声は野球拳の時のセクシーゲイシャガールちゃんだな?

 昨日は惜しかったが、帰ったら次こそは勝って御来光を仰ぐとしようぜ。

 よし! 野郎共乗り込め! 狩りの時間だ!

 どうやら今回の連中は極悪非道のやつらだ、人道に反する連中は許すまじ。

 見つけたら速射殺だ! お前等! 俺達のモットーは?」


「悪党どもはぶっ殺せ!」


 貨物搬入デッキは男達の熱気に包まれる。


「すごいなー。まさに宇宙の戦士って感じだ。男なら憧れちゃうね」


『はいはい。そろそろハッチを空けますのでマスターはブリッジに戻ってきてくださいね』


「オッケー、ではミシェルさんも呼んでくれ。彼女にも色々と話さないとな。地上の見渡しも良い事だし監視も気合を入れないと」

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