フェイタルフェイト7/31

 宴会場にて。


 皆さん酒が回り上機嫌だ。

 俺もお返しで何度も飲まされてしまった。


「おう! 船長さんよ、お前さん女はいねぇのか? この船には女っけが無くていけねぇや」


 男社会、年上のブイブイ系の男性には必ず聞かれる話題だ。

 俺は、空いたグラスにビールを注ぎながら答える。


「いやぁ。こんな仕事ですし、なかなか出会いが無いと言いますか。

 それに俺はモテないですから……俺の話よりも団長さんの話を聞かせてくださいよ。経験豊富なんでしょ?」


「おう! 聞かせてやるぜ! ……いいか? 女ってやつはなぁ……」


 俺はおべっかで何とかごまかす。

 団長さんは酒を片手に自分の武勇伝を得意げに語るのだった。


 それは凄かった。

 こういう肉体派の人達の恋愛模様を聞けるのは良い経験だった。


 決して良い話ではないので酒の席での話にとどめる必要はある。

 浮気に離婚のあれこれは外に漏らしていい話ではない。 


 そう、人間関係はテクノロジーが進んでも解決はしないのだ。

 テクノロジーで何とかなるなら、今頃、俺はハーレム主人公まっしぐらだと言うのに……。


 いや、それはそれでディストピアだな。


 ちなみに俺はサガ兄弟のように二次元に人生を捧げているわけでもない。

 血の通った三次元の女性と普通にお付き合いしたいと思ってる。


 アイドルの推し活だってその延長戦なのだ。

 もしかして、万が一ワンチャンあるかもしれないだろ?


 ……いや、分かっている。

 いつか二次元嫁が画面から出てくる確率と変わらないのではと……。

 だが俺は現実にいるからこそワンチャンスあるんじゃないかと期待して握手会にもいったのだ……。


 若かった……さすがにもう大人だ。今は仕事を頑張って、近い将来にお見合いでもして身を固める選択肢も視野に入れている。


 こう見えて俺にもお見合い候補のお相手はたくさんいる。

 スズキ家の遠縁の親族やグループ会社のご令嬢などなど。


 あれだな、フィクションの世界ではそんな人生御免ですわーってなるだろうけど、大抵の人はそうだし恋愛結婚が全てではないのだ。


 ちなみに恋愛結婚を奨励していた時代は22世紀には完全にオワコンだったらしい。

 少子高齢化が行き過ぎた21世紀後期。恋愛などしてる場合じゃない状況に追い込まれたそうだ。


 各国はそれぞれの土地や民族的な慣習に従い、少子高齢化対策に取り組んだ。

 いやゆる欧米主導の21世紀型のグローバリズムの敗北だろう。


 日本を例に挙げれば、お見合いの文化が見直され、両家のご両親や親族、仲人さんの立ち合いのもと何度か話し合いの後、両者の合意で二人っきりでデートという運びは実に上手く行ったのだ。


 ちなみに自由恋愛を主張する活動家達は封建社会への逆行だとかで22世紀前期から後期にかけて大規模なデモ活動を行ったようだ。

 だけど、彼等活動家も23世紀には高齢化により自然消滅した。彼らには後継者がいなかったのである。


 実に皮肉な話だ。


 ちなみにお見合い結婚に恋愛はないのかと言われるが、そこは案外上手く行ったようだ。

 お見合いの末に普通に恋愛に発展したカップルの多くは、未熟ながらも親族の手厚い支援により幸せな結婚生活を送ったようだ。


 むしろ21世紀よりも離婚率は減ったというのは驚きだった。


 俺はそんな人類の歴史について思いを馳せている。

 現実逃避である……。


「おう、だからよ! 俺はその女に言ってやったんだよ! 俺の子は間違いなく強い。

 だから俺の子を産めってな、がっはっは。でよ、俺の言葉で女はメスの顔をしてだな、俺に股を開いてだ! カモンベイベーってな! ポルノ女優かよ、がっはっは!」


 そう、さっきから団長さんは下ネタ連発で俺には理解不能の領域に到達している。

 だからこそ俺は、人類史に置ける結婚制度に思いを馳せているのだ。


 うーん、生命の存続としては、やはりこういうオラオラ系マッチョマンの男性が最適解なんだろうか……。


 俺やサガ兄弟に未来はないのか……だが、人間は野生動物ではないのだ。

 そう思わずにはいられない。

 でも、実際はこういう男性がモテるのだろうか。いやモテるんだろうなぁ。


 たしかに生命力溢れる彼はカッコいい、マードックさんとは別の意味で男が憧れる姿の一つといえるだろう。


 ギザギザノースリーブのせいか若干頭が悪そうに見えるが、実際は100人の集団をまとめる組織の長だ、仕事はできるし馬鹿ではない。


 俺としては、彼らが決して暴力沙汰にならずに気持ちよく酒を飲んで、明日は一日二日酔いでダウンしてくれるのを願うばかりだ。


 俺は一升瓶を手に団長さんにお酌する。

 前のお寿司屋さんで飲んだ純米吟醸の日本酒だ。


「ささ、団長さん。日本の酒です、堪能してくださいよ!」


「おう、日本酒か、上質なワインよりも飲みやすくて俺は好きだぜ!

 しかし日本の宴会にはもう一つ足りねーよな。あれだ芸者ガールってやつか? 女は居ねーのか!」


 すっかり上機嫌で酔いが回ってきたようだ。

 あともう一息だ。


「ふふふ、レッドドワーフの皆さま、リクエストいただきました。こんなこともあろうかと福祉船アマテラスではささやかな余興を用意しています。アイちゃん! 頼んだぜ!」


 俺の合図と共に、宴会場の中央はライトアップされ。ホログラムのアイちゃんが登場する。

 その姿は戦艦アマテラス時代のアバター、キラキラと輝く美しい着物姿であった。


『はーい、私としても久しぶりのオ・モ・テ・ナ・シ? レッドドワーフの皆さま、アマテラスへようこそ、観光船時代に培ったお座敷遊びを堪能してくださいね』


「おう、バーチャルだが、ヤマトナデシコは別嬪だ! がっはっは!」


 ご機嫌だな、だがこれが計算されつくした日本の泥酔宴会文化なのだ。

 アイちゃんのアバターはアマテラスモードである。

 観光船時代に栄華を極めたとされるお座敷遊びとやら、見せてもらおうじゃないか。


『ではお座敷遊びでは定番の野球拳をしましょうか。ジャンケンに負けたらお猪口の酒を空ける伝統的なゲームですよ!

 ちなみに私は飲めませんので負けたら服を一枚脱ぎます!』


「「「おおお!」」」


 男性陣、というかレッドドワーフは男性しかいない。

 なのでアイちゃんの発言に対する反応は凄かった。


 そしてアイちゃんの衣装は平安時代の十二単である。

 つまりは十二回勝てば勝ちだ。男共は酔い潰れるか、薄衣の先の桃源郷にありつけるかの勝負である。


 ……まあ、あれだ。

 霊子コンピューターAIのジャンケンの実力を酔っぱらった男共が知るはずもない。はっきりいって絶対に勝てないだろう。

 サービスで11回は負けてくれるだろうがその先はないのだ。


 詐欺かって? いいや違う、サービスだ。

 思わせぶりで盛り上がればいいし、そもそもドリンク代もチップも受け取らないのだから。

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