ザギン・デ・シースー2/4

「あの、イチロー殿……、拙者たちは……」


 先ほどから俺達の会話を静かに聞いてたサガ兄弟。

 もちろん彼らも招待するに決まっている。


 俺は基本的にハーレム系主人公は嫌いなんだ。


 もちろん作品はたくさん見たし。いいなー、うらやましいなぁー。

 と思うことはある。


 だがそれは異世界ファンタジーあるあるで、現実でそれをやられると途端にしらけるんだよな。


 それにだ……基本的に修羅場になるじゃん。あの手の主人公って結末はどうするつもりなんだろうな……。

 まさか全員と結婚する気じゃないよな……いや、異世界だから一夫多妻制もありなんだろうか……。


 ありなんだろうな……。

 仮にリアルでそれをやるとローマ帝国とかでありがちな暴君になるだろう。

 結局一夫多妻制は破綻した制度だ、今だにそれを推奨してる奴は頭がおかしいか、政治的なナニカを感じてしまう。


 おっと、今はどうでもいいか。


 それに、飯を食う時は男友達と談笑しながらのほうが楽しいに決まっている。

 ジャンルは違えどオタク友達がいるのは正直嬉しいのだ。

 

 あとは彼らが支援事業対象に認定されるかだが、大丈夫。

 彼らだって立派な被害者なんだ。何の? とは言わせない。


 俺は福祉事業団体フリーボートの社員でアマテラス船長だ。

 これでも一応プロなのだ。


「おう、サガ兄弟。もちろんお前等もOKだ。オタクというマイノリティーで苦しんだ過去があるだろ?

 そうだな、精神的な疾患とかあるんじゃないか? お前等ロリコンだろ? おっと別に馬鹿にしたわけじゃない。

 あくまで手続き上の話だから気を悪くするなよ。アイちゃん、ちなみに認定基準はどうなってるの?」


『はい、ロリコンは現在認定されている『LGBTQLSPKEDMN』の後の方のLに該当しますね。支援の対象になります』


「思った通りだ、しかし……なんだよそれ、もはやパスワードみたいだな。

 ちなみに俺の時代は『LGBTQ』までだったけど、後のやつってどういう意味?」


『はい、Lはロリコン、Sはショタコン。

 Pはペド、Kはケモナー。……以降はよりマイノリティーですがEがエントモフィリアでDがデンドロフィリア、Mがメカフィリア、最後のNがネクロフィリアですね』


 時代は進みマイノリティーへの配慮は今や多岐にわたる。

 全人類が住みよい社会になるために着実に進歩しているのだ。


「なるほどねぇ。良い社会になったものだ……。

 ちなみにMって、なんで最後の方なんだ? 美少女アンドロイドとか普通にあるし、別にマイナーではないでしょ?」


『さあ、なんででしょうか。私にはその辺の話はよく分かりません。当事者ではありませんので……』


 たしかに、AIであるアイちゃんには難しい質問である。


「イチロー殿、明確にそれは違うのでござるよ。

 メカフィリアとは純粋に機械を愛する人達でござる。

 美少女アンドロイド好きはMではなく、健全に女体が好きなだけでござるのでMとは呼べないのでござる」


「そうですね。ちなみにアンドロイドから入って、より深みに嵌まる人がいるのは事実ですが……。

 我ら兄弟もMについての知識は浅いのです。

 まあ、分かりやすく例えるならコネクタですかね。

 雌端子と雄端子の関係からMに目覚める方も多いようです。先輩に言わせればニワカと言われてしまうのでしょうが……」


 なるほど分からん。

 だが、たしかにメカの世界は最先端すぎて文系の俺にはその良さは理解できないのだろう。



「ちょっとー、オタク兄弟! キモイ話はあとにしてよー。アタシたちお腹すいてるんですけどー?」


 おっと、そうだった。


「アイちゃん。結局、彼らはどれに該当するのかな? 重複もオッケーなんだっけ?」


『はい、そうですね。彼らの活動実績を検索した結果、LPKあたりがヒットしますね。問題ありません、文句なく支援対象ですね』


「よし! よろこべ、サガ兄弟、オッケーだそうだ。では久しぶりに本物の寿司でも食いに行くか!」



 銀座シャトルターミナル出口。


 俺達はシャトルに乗り銀座までひとっ飛び。


 やはり東京の街もニューヨークと同様に21世紀前期から後期の街並みを維持している。

 こういった過去に最も栄えた街並みは貴重な文化遺産として保全されて行くのだろう。


 いかにもな未来感あふれる宇宙基地とかは北海道や四国、九州にあるのも納得である。


 ターミナルから外へ出て歩くこと十分。


 3024年だというのに、これまた古風な瓦屋根の一軒家が見えてきた。


 白壁の門をくぐると、カポーンという音が聞こえてきた。

 高級料亭にありがちな竹の奴、ししおどしだっけか、とにかく雅な日本庭園である。


 そして、お店の入り口には【江戸前寿司『十蔵』】と書かれた看板が……。


 かなりの年季を思わせる木彫りの看板。

 ……察するにいかにも高そうだ。


 そして間違いなく回らない寿司屋というやつだ。いや、今では飛ばない寿司屋と呼んだ方が良いんだっけか……。

 ちなみに俺としては飛ぶ寿司屋の方にも興味がある。


 まあ、食べ物が空を飛んでも結局は味次第ってな。


 俺は腹に力を入れると、やや低めの声で言う。


「見せてもらおうか、飛ばない寿司屋の実力とやらを……」


 そう、俺にとってこれが人生初の高級寿司屋だ、当然気合が入る。


「流石イッチローお兄さん、冷静じゃん! アタシこんなところ初めてだし、緊張しっぱなしっていうか……」


 そうか、そうだよな。さすがのギャルもガチな高級寿司屋では緊張するか。

 少し安心した。どんなに派手に振舞っても同じ一般人、同じ人間なんだ。


 そう、ギャルにビビってた高校生の時の俺に言ってやりたいぜ。

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