第十七話 ザギン・デ・シースー
ザギン・デ・シースー1/4
俺達は今地球にいる。
アーススリー出身の高校生二人組とサガ兄弟を連れて。
たった一日、まあもともとは竣工式の予備日だからしょうがないが、せっかくの地球観光では時間が足りない。
彼女たちは日系アーススリー移民なので観光には日本を選択したが……。
まさかサガ兄弟の活動拠点であるアキハバラでショッピングとは驚きだった。
アキハバラ、一時期は完全に駆逐されつつあったオタク文化だが、探せばまだまだあるようだ。
まあ、俺がいた時代と違って随分とアンダーグラウンドになったのは否めないが……。
だがどうだろう。オタトークについてくるギャルの二人。
ファンタジーだと思っていた。
オタクに優しいギャルは3024年には確かにいた。
まあ『ヘルゲート・アヴァロン』というゲームの話題に限定だが。
しかし、にわかではないのは確かだ。
このメンバーでは俺が一番初心者ではないだろうか。
たしかに俺は序盤のイベントムービーもすっ飛ばしたし、ゲームに対する感情移入はほとんどないが……。
まあ、オタグッズの買い物は楽でいいし俺も楽しい。
フィギュアとかはお店で見てるだけでも楽しいのだ。
ちなみに現在のフィギュアはプラスチックではない。
経年劣化がほとんどない純炭素複合繊維樹脂という素材らしく、ずっと飾って置けるので美術品としての価値は高いそうだ。
「しかし、結局はカーボンフリーは実現しなかったんだな……」
『うふふ、その通りです。さすがマスターですね。
カーボンフリーを訴える人達も、プラスチックに置き換わる素材として純炭素複合繊維樹脂、つまりピュアダイアモンドファイバーマテリアルを受け入れました。
ダイアモンドという名前にすればカーボンフリーを訴える活動家も納得いったようですね』
「そっか、……活動家ってそんなに頭悪いのか? ダイアモンドもカーボンだぞ?」
『うふふ。ダイアモンドは永遠の輝きですよ! 炭素とは別です』
「現金なもんだ。まあそれはそれでいいか、世の中は案外そういう緩さがあった方が上手くいくものだしな。
……さて、そろそろいい時間だな。今日の晩飯を考えないとだ」
時刻は午後4時、少し早いが日も傾きかけた頃だし、お店の予約もある。
まあ、この時代のお店の予約システムは食べたい物を指定すれば空いてるお店が自動で案内してくれるので簡単だ。
「君達、何食べたい? せっかくだから俺が奢るよ」
「さすがイッチローお兄さん! うーん、せっかくの地球、しかも日本なら……やっぱザギンでシースーっしょ!」
「おいおい、情報が古いぞ! ギャルは最先端なんだろ?」
「えー? アーススリーでは最先端なんですけど? ま、お上りさんってのは認める、認めるからー。本場のお寿司たべたいー」
たしかに、気持ちはよくわかる。東京といえば寿司の本場だ。
「でもな、高級な寿司は難しいぜ? 昨日、結構つかったし、貯金は無いしなぁ……。
スシペローでいいかい? 有名なカリフォルニアシュリンプスシとかもあるらしいぜ?」
「えー。やだー。チェーン店ならアーススリーにもあるし。アタシたち飛ばない寿司が食べたいの! エドマエってやつ?」
飛ばない寿司ってなんだよ。まさか今の回転ずしは皿が飛んでくるのか?
……むしろ俺はそっちが見てみたいんだが。
しかしこの時代の回らない、いや飛ばない寿司も高いんだろうな……。
「お、アイちゃん。そう言えばだが、たしかクーポンがあったよね? 支援事業の場合に適用できるってやつが……」
『はい、我ら福祉事業団体には、貧困家庭への援助として高級料理店でのお食事ご招待というのが推奨されています』
「……ふむ、ならばそれを活用するか。よし、お前達、ザギンでシースーいけるかもだぜ!」
「え? まじで? 半分冗談だったんだけど……。それにアタシたち貧困家庭って訳でもないし……」
「いやいや、貧困かどうかの評価に絶対値はない! あくまで相対的に納得のいく理由があればよいのだ。
例えば、君達は両親がいるね。五体満足で今も健在だね?」
俺の唐突な質問にきょとんとした二人は顔を見合わせ答える。
「あ、はい。そうです」
「ちなみに今回一緒にこれなかった理由は?」
「……アタシの両親は職業柄どうしても長期間の外出はできないし。シズネッチのパパも会社勤めで、今は繁忙期で残業までしてるっていうし?」
「あ、私のお父さんは会社を休んでもいいよって言ってくれたけど、忙しそうだったから私が断ったんです。
それに、もう私達高校生だし、わがままを言っていい歳じゃないかなって。あと……うちは別に貧乏って訳では……」
ふむ、いい子達だ。
「あー、いいよいいよ。それで充分。つまり君達は両親が忙しくて家族旅行も満足に出来ない。
そう、できなかったね? いいね? 心情はどうでもいいからね? 現に君達は孤独に地球まで来ている。
……つまり、我々としては保護しなければならない対象なんだ。少女の保護は我々の仕事でもある。アイちゃん、そうだろ?」
『はい、立派な福祉事業です。この東京で彼女たちを一人で歩かせる訳にはいきません』
「よし、では我々は堂々と仕事をしようじゃないか。アイちゃん、これでいいだろ?」
『はい、オーケーです。ミシェルさんにお仕事です。あとで貧困少女支援の実績レポートを書いてくださいね。
男性職員が書くと後で難癖を言われるかもですし、ミシェルさんにとっても勉強になりますよ?』
「あ、はい。でもいいんですか? これって不正では……」
「うーん、アイちゃん。これって不正?」
『いいえ、法律的には完全にオーケーです。まあ、ミシェルさんが言いたいのは倫理的にどうかということでしょう。
それは私には分かりませんが、国の予算は潤沢です。富の分配は積極的にするべきですよ?』
「だそうだ。よーし、ザギンでシースー、やってやろうじゃないか!」
「さっすがイッチローお兄さん、太っ腹ー! やば、マジで好きになっちゃうかも?」
「おい、それはやめろ、私情を挟むとややこしくなる。パパ活認定されるとやっかいだ。
貧困調査と称して女子高生と寿司屋で食事とかなんとか、マスコミが好きそうなネタを提供してしまうじゃないか!」
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