サターン3/13
宇宙戦艦サターンの竣工式会場は土星の衛星、タイタンの上空で行われる予定だ。
通常の宇宙戦艦はほとんどの場合は建造された惑星上空。
あるいは主要な軍事基地がある地球でおこなわれるのが常だが、今回は延期に次ぐ延期でやっと完成にこぎつけたのだ。
故に宇宙中から来訪したファンや観光客で地球の交通網が麻痺してしまう可能性がある。
さらにスポンサー企業のCMや旅行会社などの思惑もあり、今回の竣工式は土星付近でおこなわれることになった。
そう、つまりビッグイベントなのだ。
俺達は今、タイタン軌道上にある、太陽系内では最大規模の宇宙ステーション『クロノス』にいる。
それは直径20キロメートルの球形の宇宙ステーション。
タイタンおよび土星圏内で仕事をする人達のホームタウンといった感じで、都市としての機能は全てある。
もちろん、来場者全てを収容する能力はないため。大型宇宙クルーズ船などが同じくタイタン上空に複数停泊している。
「いやー、凄いなー。さすがは太陽系でも一位といわれるほどの宇宙ステーション。でかいしすごい!」
もはや俺はこの時代に順応している。どんなにデカい建造物を見たとしても、でかいしすごい以外の感想はない。
語彙力が無いと言われるかもだが、実際それ以上の感想は浮かばないのだ。
そういえば、スカイツリーを初めて見たときもこんな感じだっけか。
だが、この時代の人だって対して違いなどないのだ。
「はい、本当ですね。アーススリーの宇宙ステーションとはレベルが違いますね。ほんと、大きいし凄いですね」
うん、俺とミシェルさんの意見が合致したところで、宇宙ステーションの入港ゲートを進む。
ちなみに、今回はアイちゃんのホログラムも同行している。
アンドロイドの体が無いため、お留守番になるかと思っていたが良かった。
そう、今回、俺はプラチナチケットを入手している。
宇宙ステーション『クロノス』の霊子通信を無制限に利用可能。当然、同行するAIホログラムもフルスペックでオーケーなのだ。
ホログラムと侮ることなかれ、着物姿で黒髪のロングヘアーはまさに和のお姫様よ。
ちなみにアイちゃんは巨大クラゲ事件以来アンドロイドで同行することを拒否している。
それを知ってたのかクリステルさんの手配は本当に完璧だと思った。
ちなみに俺は洋装である。クリステルさんが用意してくれたスーツをただ着ただけ。
髪の毛はオールバックにしているが……。
日本人には似合わないよなぁ……。顔平たいから……。
『うふふ。マスターは素敵ですよ? もっと自信を持ってください』
「お、おう。ありがとう。ちょっと勇気が湧いてきた。ミシェルさんは大丈夫?」
「は、はい! 私、生まれて初めてドレスというのを着ました。緊張していますが……ドレスが素敵なのでこの場所でも何とかなりそうです。
やはり装備のレベルが高いと戦闘力が増すのですね……」
「おいおい、それはゲームの話で……マシーンの種族特製じゃないか。
……いや、実際、いい服を着ると何故か自信が沸くものか。ある意味で正解といえるな」
ミシェルさんは黒いドレスを着ていた。肩を露出した、所謂欧米系のパーティードレスというやつだ。
たしか、クロスロード上院議員からドレスのプレゼントがあったっけ。
ブランド品だ。なんだっけ『悪魔が着たプラーダ』だっけか。
ちなみに俺はブランドの知識はない。だが名前から凄そうだ。
それにドレスが入っていた紙箱の装飾が凄い豪華だったのは覚えている。
だがすまん。俺にはそれがコスプレのドレスとどう違うのか理解できないのだ……。
『うふふ。それにしてもクロスロード様は奮発しましたね。それはハイブランドのドレスですよ。
マスター。ハイブランドのドレスの値段っていくらか知ってます?』
「……いや、知らない。俺にそれを聞くなっての……」
俺は服の値段は知らない。しかもハイブランドって……。クルマとか買えるくらいか?
たしかにそれなら凄いな。
ならば、ミシェルさんは最強装備、さぞかし戦闘力が上がったのだろう。
ここは現実世界ではあるがドレスコードというのがあるしな。
一応、俺だって用意されたスーツを着たものの、所詮は一般人なのだ。
『うふふ。安心してください。ミシェルさんのドレスよりも、マスターのスーツの方が高いですから』
「そ、そうか。それは……安心した。………え? マジで? このスーツそんなに高いの?」
『ええ、もちろんです。マスターの着ているスーツに腕時計全て合わせると、そうですね……。
ガソリン仕様のクラシックカー、レプリカモデルなら一台買えますね』
まじか……。この時代、ガソリン車はかなり高級だと聞いたぞ……。
「お、俺は、今の話で戦闘力が下がったぞ……。この服でカレーうどんを食べたらと思うと……ストレスがマッハだ!」
『……マスター。カレーうどんは残念ながらありませんよ。……いや、探せばあるかもですね。
さて、せっかく『クロノス』に来ているのです。
いろいろ見て回りましょう』
まあ、もちろんカレーうどんは冗談だ。さすがに俺だって馬鹿ではない。
ちなみに、この時代の服は科学的にシミが残らないし頑丈にできている。
さすがに手洗いとはいかないが、クリーニングマシンを使えばすぐに汚れは落ちるのだ。
「あの……、イチローさん。私がこんなドレスを着て良かったのでしょうか……。やっぱり、似合ってませんよね?」
おっと、いけない。
「いや、ミシェルさんごめん、言い訳をすると日本人男性は女性の服を褒めるのが苦手なんだ。
でも、そうだな……ハリウッド女優みたいで戦闘力高めに見える。
そう、ここは確かに戦場だ。いくぞミシェルさん! 装備は完璧か?」
「はい、完璧です! パパがくれたドレスは最高ですから!」
「ならば良し! では行こう、決戦のバトルフィールドへ」
俺達は、宇宙ステーション『クロノス』のVIP専用ゲートを堂々とくぐるのだ。
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