サターン2/13


 最新鋭の宇宙戦艦、ジアース級六番艦サターン。

 確かに少し興味がわく。


 全長20キロメートル。アマテラスの20倍だし船体自体はシュッとしてかっこいい。


「でもなぁ、やっぱりAIアバターのデザインがなぁ……。

 小学生にまかせれば、うるさい大人は何も言わないって風潮よくないぜ。


 あれだろ? きっと女性キャラにしたらポーズが気にくわない、胸がデカい。

 何でもかんでも男に媚を売っているって言われるからだろう?


 俺はそういう思想は無いけど、少しだけあいつらの気持ちがわかるぜ、なんだっけアナザーディメンションの双子兄弟。


 俺だったら絶対にサターンのアバターはあれに決まってるのに……。

 ちなみにアイちゃん。この際だし、俺のイメージするコスチュームにアバター変更できない?」


『はあ、マスター……版権ものは駄目ですよ。結構ヤバめの犯罪です。マスターは牢屋に入りたいんですか?』


「お、おう。そうかこの時代の著作権侵害はヤバいのか……。まあ、勝手にパクられたらクリエイターとしてはたまったもんじゃないか……。

 ちなみに、これをデザインした子って何歳なんだい? 小学生にしては土星の特徴である輪っかを浮き輪に例えるとはセンスはいいじゃないか?」


 そう、小学生とはいえ、さすが優勝作品だけある。たしかにクオリティは高いのだ。


『ええ、たしか、10歳の女の子ですね。サンジョウ・シズカちゃん、カスガ・シズネちゃんの合作ですね、なかよしで微笑ましいじゃないですか。

 アーススリー出身。随分広く公募したものですね。

 ちなみに現在は16歳ですから高校生でしょうか。良かったですねマスター。女子高生ですよ?』


「やめてくれ、セーラ服の美少女は二次元だけで充分だ。リアルは怖い、スクールカースト下位だった俺には良い記憶が無いんだ」


『うふふ、マスターはやはりマスターですね。

 しょうがないですね、こんど二人っきりの時には特別にリクエストのコスプレをして差し上げます。

 もっとも版権物ですからプライベートな空間限定ですが。例えばベッドルームとか? うふふ』


 艶っぽい声をするアイちゃん。俺は思わずゴクリと喉がなる。


「……ちょっと、イチローさんにアイさん。私もいるんですけど……。そういう会話は二人だけの時にしてください……」


「そうですー。船長さん! セクハラですー! これは訴えられても文句は言えないですー。家政婦は見たということで、この私には独自に通報する機能もあるのですー」


 ティーポットからお茶のお代わりを注ぎながらミシェルンが答える。


「なに! まさか、今までの会話は全てコジマ重工にもれているのか?」


「ぐへへ。船長さん。それはありやせんぜ。

 そんなことしたら弊社の信用がた落ちっす。まあ、それこそ犯罪が行なわれていたらその限りではないっすが」


 ちょうど、船長室を掃除に来ていたサンバはそう答えた。


「な、なんだよ。……少し驚くじゃないか。お前等、人が悪いぜ」


「人が悪いのはイチローさんの方ですよ、レポートそっちのけで違う話になるんですから。私の面談中にニュースの話でごまかすなんて……」


「そ、そっか。それはほんと悪い。でも俺カウンセラーでもないしな。

 面談っていっても間が持たないんだ。そうだミシェルさんは戦艦サターンについて何か知ってるかい?」


「いいえ。でも入賞したお二人の名前に少し心当たりが、……っていうか、最近まで会ってましたよ? シズネちゃんとシズカちゃんですよね」


「え? まじで? 確かにこの子たちはアーススリー出身だけど……いつの話?」


「ええ、実は『ヘルゲート・アヴァロン』でお二人と思われるキャラとパーティーを組んだことがあります」


「うん? ネットゲーなのに本名でプレイしてたの? そんな馬鹿な奴いるとは思えないが……」


「レイザー・スズキさんがそれを言いますか……。もちろんプレイヤーネームは違っていました。

 でも、二人はお互いに、シズネッチ、シズカちゃんと呼び合っていましたし間違いないかと。

 あと高校生って言ってましたから年齢的にも合うかと……」


「なるほどね、身内でパーティーを組んでいたからお互いの呼び名を隠せずにバレてしまったパターンか……なるほどねぇ。

 ふむ……宇宙戦艦サターンか、行ってみるのも楽しいかもね」


『おや、それはまたどういった風の吹き回しですか?』


「ほら、あれだよ。もしかしたらアバターデザインで当選した二人の子達、きっと竣工式に招かれてるはずだから。

 行く価値はあると思ってね。ミシェルさんはどう思う?」


「はい、ぜひ! 私、もうゲームにログインすることはありませんけど、せめてお二人に挨拶くらいはしたいと思います。オフ会の約束もしてしまいましたし……」


「なら決まりだ! アイちゃん、クリステルさんに連絡を。クリステルさんならチケットは簡単に入手できるはずだし。よーし、竣工式に俺は参加する!」


『スズキの名前は使わないんじゃなかったんですか?』


「おう、もちろん俺の個人的な目的には使わない。

 けどそれはそれ、これはこれだ。ミシェルさんはフリーボートの仲間だ。

 仲間の為ならいくらでも頭を下げる。というか俺には下げる頭しかないしな! この際、貯まってた有給休暇をまとめて消化をしてしまおう!」


『なるほど、それは良い事です。では早速連絡を……。でもミシェルさん本当に良かったのですか? マスターの休暇につきあう義務はないのですよ?』


「いいえ、ぜひご一緒したいです。

 それに今年はパパの日程は決まっていますし、家族サービスもあると思います。

 私は来年にパパのご家族と会う約束をしましたし、それまでに立派な大人になれるように今はイチローさんの元で一生懸命頑張りたいです!」

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