第十六話 サターン

サターン1/13

【――次のニュースです。

 最新鋭の宇宙戦艦、ジアース級サターンの竣工式を今週末に控え、一部のファンや関係者の間で静かな熱狂に包まれています。

 様々な問題を抱えた最後の戦艦サターンの完成、これでジアース級戦艦のそろい踏みですね。


 宇宙を守る象徴的な宇宙戦艦を見届ける為、気の早いファンたちは竣工式を前に早めの現地入りをし、まるでお祭りムードのようですね。


 ジアース級戦艦は全長20キロメートルの歴史上最大規模の艦船として注目されています。


 かつてX01-ボイドとの死闘から提唱された新たな装備、スーパータキオン砲を搭載した最強の宇宙戦艦です。


 サターンの完成をもってジアース級は一番艦から数え。

 ジアース、マーキュリー 、ヴィーナス、マーズ、ジュピター 、サターン 、ウラヌス 、ネプチューンの八隻が完成したことになりますね。


 ……さて、ここで現場から中継が繋がりました。


 現場のハレタツさん?


 はい、レポーターのハレタツです。

 現場は今、宇宙戦艦サターンの熱烈なファンが衛星軌道上にあるサターンを写真撮影をしている様子です。


 レポーター「竣工式は週末ですよね? いつから来られたのですか?」

 ミリオタ風の男性A「はい昨日、有給をつかって地球から帰ってきました。いやー、長かったですからねー、サターンは延期に告ぐ延期。土星系出身の俺としては感無量っす!」


 レポーター「すごい盛り上がりですね、忙しいですか?」

 会場関係者の女性「ええ、ほんと。まるでお祭り騒ぎですよ。ショッピングモールにも急きょフードコートを増設したんですよ」 


 レポーター「……週末の竣工式を控え、ますます現場は盛り上がっていってるようです。

 運航ダイヤに乱れが予想されますので、来場予定の方はくれぐれも計画には余裕をもって前倒しでの行動をとってください。以上、現場からでした」


 はい。ハレタツさんありがとうございました。


 では次のニュースです。

 アーススリーのカニ漁問題について政府は改善の兆しがあると発表しました――】


 俺は普段テレビは見ないけどニュースチャンネルだけは真面目に見ることにしている。

 以前の俺はネットのいい加減なニュースを信じて陰謀論に染まってしまった恥ずかしい経験があるからだ。


 ほんと恥ずかしいなぁ、ネットこそ真実! マスゴミは嘘ばかりってか。

 いやいや。百歩譲ってマスコミは嘘も言うけど、有象無象のネット評論家の方が嘘つきの割合が多いと当時の俺は思わなかったな。


 まあ、今は3024年。

 俺は知ってしまったのだ、あのときブイブイ言わせてたネット論客達の悲惨な末路を……。


 結局は金だったのだ。もちろん全てがそうではないけどね。大多数がそうだったって話。

 

 それに比べれば、テレビのが全然マシなんだよな。まあこれもさらに未来では変わるのかもしれないけど……。

 

「ところでアイちゃん。ジアース級戦艦ってさ、アイちゃんの後輩だよね。先輩のツテで見学とか出来ない? すっげーお祭りみたいだし」


『マスター……それはさすがに無理ですよ。

 私はもう軍籍ではありませんし。コネもありません。

 それこそ、マスターなら何とかなるんじゃないですか? スズキの名前を使えば割と融通が利きますよ?』


「いやぁ、さすがにそこまではしたくないけど。

 ああ、でも一度は見てみたいかなぁ。サターンのAI。きっと黒髪セミロングの……何ていうのかな。儚くも健気なセーラー服の美少女戦士」


『……セーラー服の戦士ですか? はて、海軍の女性兵士でしょうか……。

 マスターの弟さんはミリオタと存じておりますが、マスターもミリオタでしたでしょうか?

 ちなみにサターンのAIアバターは一般公募で決まっていますのでいつでも閲覧できますよ?』


 セーラー服の戦士というワードで、海軍が出てくるのはさすがに元戦艦のAIなだけはある。

 だが、まだまだ俺についての理解が足りないな。ふっ……平成生まれの日本人への理解というべきか……。


「いやいや、そう言う事じゃないさ。俺がアイドルオタクになる前のわずかな期間にね。

 思い出のアニメがあってだな。 どれどれ、早速検索しよう。『サターン』、『宇宙戦艦』、『AIアバター』っと……」


 カタカタ、ターン! と、俺は勢いよくキーボードを入力する。


【やあ皆! 僕は宇宙戦艦ジ・アース級六番艦のサターンだよ! ハハッ!

 いろいろ建造までにトラブルがあって、七番艦ウラヌスと八番艦ネプチューンよりも少し遅れちゃったけど。

 遂に完成したんだ。今週末には竣工式があるから皆も会いに来てね! とっておきの秘密も満載! 最新鋭の装備も紹介しちゃうよ! キュルルンサターン! ハハッ!】


 ……俺は画面をそっと閉じる。


「ちがーう! なんだよ! ただのゆるキャラじゃないか! サターンは俺の初恋の二次元だったのに……」


 そう、サターンのアバターはふざけていた。

 丸っこいデザインに、やる気なさそうないい加減な紐のような手足が付いていて。土星の輪をイメージした浮き輪をつけている。


『……マスター。小学生のデザインにそういう言い方は失礼というか、大人げないですよ?』


 小学生っ!……。

 ……く、たしかに、少し言い過ぎた。


 ベクトルは違えどこれはこれで可愛いと思う。

 ほんとごめんね……まじでごめん。

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