カニパーティー5/8
拳銃を持つ俺。
なぜ、俺は拳銃をもっているんだ? ここは日本だというのに……。
……さてはジローのやつだな、俺のズボンのポケットに拳銃を仕込むとは何事だ!
いくらミリオタだって、やっていい事と悪いことがある!
まあ、超高級キャディラックのリムジンに乗せてくれたのは感謝しかないがな!
しかしなんだ! いつのまに俺はこんなにダサい服を……。
このダサいジーパンにチェックのシャツはなんだ! 俺はオタクじゃないっての!
こんなダサい服を着せるのはお母さんかクリステルさんしかいない!
うん?
クリステルさん? 誰だ?
そんなハイカラな名前の人間、俺は知らない。
いや、アナウンサーで居たか?
だが、何故アナウンサーが俺の私服を決めるんだ?
うっ……また耳鳴りがする。
『……マスター! 聞こえますか! しっかりしてください!』
耳鳴りだと思っていたが、どうやら人の声のようだ。
ノイズ交じりのその声はラジオのチューニングが合うようにやがて鮮明になっていく。
女の子の声だ。とても落ち着く。でも誰だろう……。
『マスター……しっかりしてください! このままでは本当に廃人になってしまいますよ?
……でも安心してください、そうなったらなったで、下の世話は私が一生して差し上げますので……うふふ』
…………。
……。
「……はっ! それだけは止めてくれ! またアイちゃんに全て見られてしまう!」
目が覚める。
ここは、どこだ。
……そうだ! 思い出した!
俺はイチロー・スズキ。
3024年に蘇った、一般人男性の……。
だが、どういうわけだ、俺はいつの間にか眠っていたという事か。
そう、俺はたしか海洋調査ロボット、シースパイダーに乗っていた。
四人座席で結構余裕があって……。
周りも見回す、それよりの足先に何か違和感が。
なにか荷物につまずいてしまったのか。
…………。
そこにはアイちゃんのアンドロイドの身体が俺のいる後部座席の床に倒れていた。
よく見ると、アンドロイドの手首にはあざが出来ているようだ。
民間用ロボットには虐待防止機能があり、暴力を受けた場合は、人間同様にあざができるのだ。
そのあざは、俺の手と同じサイズ……。
そしてアンドロイドの反応が無い。
アイちゃんの声は海洋調査ロボット、シースパイダーの船内スピーカーから聞こえている。
『マスター。その身体は緊急廃棄しました。説明はあとです。まずは落ち着いてください。そして右手をゆっくりと下ろしてください。
そして、人差し指をトリガーから外してください。落ち着いて、ゆっくりですよ!』
そう、夢で見たように俺は拳銃を自分のこめかみにあてていたのだ。
あと少し遅かったらと思うとぞっとする。
『マスター、ここは危険ですので、大至急アマテラスへ帰還してください』
「お、おう。だけど、俺はシースパイダーの動かし方は分からない。そうだ! ミシェルさん! 無事ですか?」
ミシェルの意識は無い。
俺は確信する。彼女もきっとあのおかしな夢を見ているのだろう。
普段の緊張した表情とは違って穏やかな表情だったのだ。
「……おじさんがパパだったらよかったのに……」
……っ! なにやら危険なセリフだ。
「ミシェルさん! 起きろ! たのむ、起きてくれ!」
俺は一心不乱で彼女の肩を揺らす。
「はっ! パパ……。あれ? イチローさん! あれ……? あ、ごめんなさい!」
「いや、今はパパでもイチローでもいい。ここは危険だ! アマテラスに帰還、全速前進だ!」
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