カニパーティー6/8

 俺達は無事にアマテラスに帰還することが出来た。


 幸いにもアマテラスの医療設備は最高水準である。


 どうやら俺とミシェルさんは重度の精神汚染を受けていたようだ。

 しかも薬物ではなく電磁波の一種とのこと。


 俺の首を絞めていたのは操られたアイちゃんのアンドロイドで……それに抵抗して俺は彼女を突き飛ばしたのだ。

 解析の結果、電脳をハッキングされ、俺に危害を加えようとしたそうだ。


 現実の状況と夢で起きたことがリンクしてる。

 つまり俺の見た夢は何者かに作為的に操られたのは確定だろう。


 ちなみにアイちゃんの身体であるアンドロイドは民間仕様。

 力は弱く、構造的にリミッターが掛かっており、俺の貧弱な力でも引きはがせたのは幸いだった。


 だが俺は結果的に彼女に暴力を振るってしまったのだ……。


「アイちゃん、ごめん。あのアンドロイド。壊しちゃった……ほんとごめん」


『いいえ、マスター。むしろ壊してくれてよかったです。……マスターに危害を加えるなどあってはならないことですから……。

 しかし、今はそれどころではありません。今回の事件、いいえ、我々は少し敵のことを侮っていたようです』


 アイちゃんのホログラムは無い。

 情報処理能力のリソースを全てアマテラスに集中しているのだろう。

 アマテラスの船内スピーカーから発せられる彼女の声には微かに怒りを感じる。


『さて、マスター。これよりアマテラスは戦闘態勢に移行します。

 これだけの侮辱は初めてです』


 やはりアイちゃんは怒っている。


「ところで、敵の正体は分かったの?」


『はい、奴はこのアマテラスへもハッキングを仕掛けてきました。ですがこのアマテラスは戦艦です。

 この手のサイバー攻撃など、どうということもありません』


「ハッキング……、ということは敵の正体は人間ってこと? こんな海のど真ん中で?」


『説明がまだでしたね。ちなみに敵は人間ではありません。そしてAIでもありません……これから話すことに驚かないでくださいね』



 …………。


 ……。


 嘘……だろ?



 さすがに驚く。


 アイちゃんが言うには、ハッキングを仕掛けてきた、そして俺達に幻覚を見せたやつの正体は。


 巨大なクラゲだというのだ。


 その全長は100メートルを超えるという。

 自我はないが、その巨大な体をめぐる神経ネットワークは一つのコンピューターの様な構造を持っている。


 今まで見つからなかったのは、天敵である人類に対応するためだけに歪に進化したためだろうということ。


 例えば、人間の脳に幻覚をもたらす電波を発生させたり、撮影機材をハッキングしたり。レーダーに映らないように体を擬態させたりと。


「うん? アイちゃん。ちょっと疑問なんだけど、そんなステルスモンスターがなんで俺達を攻撃してきたんだ?

 隠れてやり過ごすことだってできたはずだけど……」


『そうですね、いくつか予想できますが。

 おそらく、奴にとってはこの宇宙戦艦であるアマテラスがよほど脅威だったのでしょう。

 漁船程度ならいつもどおりやり過ごす。


 もし偶然見つかってしまっても人間の脳の記憶の一部をいじるなど対処は出来たはずです。


 そういえば、目撃証言をしてた漁師の方々は全てブーステッドヒューマンでしたね。


 もう少し彼らの意見に耳を傾けていれば、もっと早くに発見できたのかもしれません。

 おそらく、アーススリーにも、まだブーステッドヒューマンに対する差別意識があるのでしょう』


 なるほど。

 つまり、奴にとっては初めての脅威が訪れた為に判断を誤ったのだろう。


 漁獲量減少の原因、思ったよりも単純だったな。


 しかし、奴をこのまま生かしておくわけにはいかない。

 人類にとっては脅威な生命体だろう。


『しかし、困りましたね。アマテラスには大気圏内で戦える武装がありません』


「たしかに……今は戦艦じゃないしね、ちなみにタキオンビーム砲を使った場合ってどうなるの?」


『そうですね、威力を最小に抑えたとして。

 少なくとも、タキオンビームはマントル層まで貫通するでしょう。

 その後はタキオン量子崩壊による副次的エネルギーが暴発して、このあたりに海底火山、あるいは島が何個か出来上がるといったところでしょうか。

 もちろん、それにより発生した津波で都市部に多大な被害がでてしまうでしょうね』


「なるほど……ならば、いったん都市に連絡して軍の要請をしたほうがいいんじゃない?」


『はい、連絡は致しましたが。そうですね時間的猶予がありません。

 どうやら奴は正体がばれたことによって、攻撃的になっています。自暴自棄といったほうがいいでしょうか。

 陸地に向かって移動を開始したようです。

 数時間と経たずに沿岸部に到着するでしょう。それに奴の能力を考えると付近の人間は錯乱して自殺。

 最悪なのは操り人形となった人間による虐殺が想定されます。

 アーススリーの警備隊では対応が難しいでしょう』


「八方ふさがりってところか、最悪はタキオンビーム砲を撃つのも選択肢に……うん? 貨物搬入デッキから通信? サンバ君どうした?」


『船長さん! 話は聞いたっす。なな、なんとっす、実はシースパイダーのオプションパーツの中には攻撃兵器がいくつかあったっす。

 さすが、クリステル女史っす。こんなこともあろうかと、実にご都合的な展開っす』


「いや、サンバ君よ。クリステルさんをご都合主義というな。彼女は常に二手三手先が読める有能な上院議員首席秘書官なんだ。

 だが、たしかにこれは好都合といえるな。サンバ君、換装にはどれだけ時間が掛かる?」


『ふっふっふ。こんなこともあろうかと既に換装済みっす。いつでも出撃出来るっす』


「なんだ、サンバ君のほうがよっぽどご都合主義じゃないか」

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