シンドローム19/27

「ハッハッハ、姉上、安心されよ。こちらのインフィ殿は我と同じランカーであるのですぞ?

 ゲーム内での信頼度は高いのでござる。地雷プレイヤーがランカーになれるほど『ヘルゲート・アヴァロン』は甘くありませんからな」


「愚弟、貴様というやつは。私を姉上と呼べば、関係がバレるじゃないか。馬鹿者!」


「ひい、申し訳ありません。ですが義兄殿を思えば。致し方ない配慮かと具申しますぞ?」


「あはは、なるほど。スサノオさんの姉夫婦ってところですか。なんとなく理解しました。

 むしろ信頼が持てます。で? そちらの方々も紹介頂けると……」


「ぐへへ、あっし等は船長さんに雇われた者どもでやんす、この世のゴミを掃除する者ですぜ」


「そうですー。船長さんのしもべですー。料理してやるですー」


「おいおい、だめじゃないか、初対面の人にはちゃんと挨拶をしないと……」


 社交的なのは良いが、これではただの子供ではないか……。

 そういえば、彼らはフレンドリーな性格が基本設定だっけ。

 ホテルとか、公共の場所でつかう業務用の場合は、口数が少ないのもラインナップであったっけ。


「へぇ、この子たちはちゃんとロールプレイしてるんだね。……なるほど、この子達がメインで親御さんは付き添いって感じですか?」


 ――インフィは盛大に誤解した。

 おそらく、スサノオの実の姉夫婦と、その子供達だと……。

 そして最近ゲームを始めたので、廃ゲーマーのスサノオはその接待の為では? と、そんな家族関係だと誤解したのだ。


「それにしても、モンスタークラスでツチグモだなんて初めて見ましたよ。どうやったらそんな進化ルートになったのかな?」


「うーん。分からないですー。ありのままの自分で居たらそうなったですー。適性は蜘蛛型らしいのですー」


「ふーん、そっかー、分からないかー。じゃあミシェランちゃんは余程の蜘蛛好きなんだね。マニアックだけど、それはそれでいいことだよ。大人になったら虫博士になれるといいね」


 子供に話しかけるかのような口調。

 インフィのやつ誤解しているよな……。

 まあ、調理ロボットをネトゲに参加させるなんて誰も思いつかないだろうし仕方ないか。


「おっと、そちらのローグ君もよろしく。メインクエストは進めば進むほどローグが必須になってくる。期待してるよ? えっと、サンバデ……」


「あっしのことはサンバと呼んでくださいっすぜ。へっへっへ、陽気な盗賊っす、お掃除してやるでやんす」


「お、いいねー。ローグっぽい。そういうロールプレイは嫌いじゃないぞー。よし、ではスサノオさん、早速一狩り行きましょうか」


 なんとか友好的に挨拶を済ますことはできた。

 誤解があるとはいえ、これはこれで良いと思う。実際彼らは家族なのだし全てが嘘ではない。


 しかし、インフィというやつ、思ったより社交的で常識人である。

 それとも警戒しているのだろうか、犯人の心理状態は俺には良く分からない。

 だが良好な人間関係を築いていかないといけないのだ。


【ようこそ、シナリオ『人類の逆襲・チャプター1、ヘルゲートの門番』へ。


 ――人類に希望の光が見えた。

 君達の活躍のおかげで悪魔が出現したとされる特異点が発見されたのだ。


 その特異点とは、かつて第三次世界大戦で最も被害を受けた、ユーラシア大陸のとある国。

 世界最大規模の水爆の爆発により多くの人間の命は一瞬で消え去った。

 その魂は天に還ることが出来ず、一か所にとどまり飽和状態となった。

 天と地獄のバランスを崩してしまったのだ。

 

 余りある量の魂と圧倒的なエネルギーに、地獄への入り口であるヘルゲートは爆心地を中心に開いてしまった。


 人類は大いに反省し償わなければならない。だが今はその時ではない。悪魔との対決は始まったばかりだからだ】


「ふむ、久しぶりにストーリーを見たが、なるほど、良く作られているな。

 好みじゃないが暇があったらストーリーを読み返すのもいいかもしれないな」


「レイザーさんはあまりストーリーを見ないんですね。せっかくプレイしてるのですから、ぜひストーリーも楽しんだらいいじゃないですか? 子供達とも会話が増えますよ?」


 インフィは絶賛誤解中のようだ。

 まあ、付け焼刃でゲーマーって設定も不自然だし、いやいや付き合ってあげてる子煩悩の親という設定の方がリアルだろう。

 中途半端にオタクアピールしても本物の前にはすぐにボロが出るしな。


 俺達を警戒しているであろう犯人としては、おそらく俺の行動に怪しいところが無いか見ているはずだ。

 怪しい行動などしない、なぜなら俺は警察でもないし、エージェントでもない、ただの一般人イチロー・スズキなのだ。


 それに最近、ゲームも面白いなと思えたし。サンバやミシェルンとも普段以上の関係を築けたと感謝しているくらいだ。


 それにしても、インフィは実に社交的だ。

 思ってたのと違う。

 これが今の時代のネトゲ廃人なのだろうか……俺は失礼ながらも、あのアナザーディメンションのオタク兄弟を思い出していた。


 いや、いくら彼らがアレだといって、あいつらは犯罪者ではない。

 犯罪チックな言動をすることはあっても善良な市民だ。

 逆に犯罪者というのは社交的なのかもしれない。サイコパスというやつだろう。

 

 おっと、マップが移動する。

 戦場に到着すると、またイベントムービーが始まる。


【愚かな人類よ、いや、訂正しよう。ここに来た者達はいずれも勇者と称えるべきだな。そしてお悔やみを申し上げる。

 ここが貴殿らの墓場となるだろう……おっと、自己紹介がまだでしたね、私はルシファーと申します。今後……があればですが、ぜひお見知りおきを。

 私のことは地獄の案内人と思っていただければ幸いです。では、ショータイムの始まりですね】


 パチンと、指を鳴らすとタキシードを着た黒い長髪の優男は姿を消す。

 

 同時に地獄の悪魔の先兵が姿を表す。

 エリアボスのケルベロスを筆頭にフォールンテンプラー、フォールンプリースト、悪魔のマシーン。

 反逆のソーサラーにローグ達がわらわらとヘルゲートの奥から出てくる。


 なるほど、プレーヤー側の職業を模した敵キャラという事か。

 ストーリーも盛り上がるし、このクエストはなかなかにいい感じだ。


 おっと、ゲームに気を取られてはいけない。

 インフィの人となりを把握するチャンスだしな。

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