シンドローム20/27

「このクエストはヘルゲートの入り口正面にいるケルベロスを倒さないと雑魚モンスターが無限に沸き続けます。

 攻略方法としては長距離範囲攻撃でとにかくケルベロスを中心に周囲の取り巻きにダメージを与えつつ、素早さの高い接近職で突撃し速攻で倒すのが良いと思いますが、それでよろしいですか?」


 クエスト開始早々にインフィは俺達に作戦を提案してきた。

 さすがはランカーと言ったところで、スサノオさんも無言でうなずくのみだった。


「了解。なら遠距離攻撃は俺とアイちゃんで。最初にデカいやつをお見舞いしてやりますか」


 俺は『ヤタガラス』を起動する。


 瞬間、視界が変った。

 ここははるか上空のようだ。敵の真上から見下ろしている、航空写真の様な視点だった。


 なるほど、マシーン専用装備、結構こういうギミックが多いんだよな。


 慣れたもので俺はゆっくりと視点を動かす。


 センターカーソルにモンスターが重なるとカーソルの模様が代わり『ロックオン』の表示と共にモンスターの名前が表示される。


 よし、使い方は分かった。ケルベロスにロックオン。


「ヤタガラス発射!」


【ヤタガラス精密誘導ミサイル発射、次弾装填完了まで60分】


 メッセージと同時に俺の視点は元に戻る。


 三つのミサイルが同時に発射され、綺麗な白いロケットの煙が三本の線を描き真上に飛んでいった。


 わずか数秒後、ケルベロスが居るであろう場所に着弾したヤタガラスは大きな爆炎を上げ空高くまでキノコ雲が昇る。

 リアルなエフェクトだ。昔ニュースで見たミサイル攻撃の映像を連想させ少しだけ恐怖を覚えた。


「次は私の出番ですね。初めての共同作業にドキドキしちゃいます。

 ではいきますよ、極大火炎魔法、最終戦争、序章第一幕、『流星群』!」


 続いてアイちゃんの魔法攻撃。

 ケルベロスの居る上空にド派手な魔法陣が展開される。


 その魔法陣から燃え盛る隕石が出現しモンスターの群れに降り注ぐ。


 あれだな、所謂メテオってやつだろう。


 こっちはかなり広範囲の攻撃魔法のようだ。周囲の敵を巻き込みつつケルベロスにダメージを与える。


 ふわりとローブを風になびかせるアイちゃん。

 そう、忘れてはいけないが何気に彼女も強いのだ。


 開幕ブッパに定評のあるソーサラー。

 そして全キャラ中もっとも高いDPSを叩きだす純アタッカー。

 故に、タンカーのテンプラーとはヘイト管理で喧嘩しがちであるらしい。


 ある意味、この姉弟にぴったりの職業といえるだろう。  


「さて、極大魔法もリキャストタイムが長いですので、これから私は支援に回りますね」


「上出来です。ではスサノオさんを先頭にケルベロス目指して全力で突撃しましょう。

 スズキさんはガトリング砲で邪魔になる連中をなぎ倒してください。私は一足先に最前線でお待ちしております」


 インフィはそう言うと、背面装備の高機動ブースターから青い炎が噴き出す。


 キュイーンとジェットエンジンの音がしたと思ったら、今だ爆炎と煙に包まれる敵集団の中に飛び込んでいった。


「はやっ! なるほど、瞬間的に素早さが爆上がりする機能があるのか。これで一気に距離を詰めて接近戦に挑めるという訳だな」


 でも単騎で突入して大丈夫か? 

 いや、何も問題ないようだ、さすがはランカーである。


 目の前の邪魔な敵をショットガンで処理しながら、所々にいる比較的防御力の高い敵、フォールンテンプラーなどはビームソードで真っ二つだ。


 あっという間にケルベロスに接敵してしまった。


「船長さん、このままでは私の活躍の場が無いですー。私も前に出るですー」


「おう、そうだな、ミシェルンたのむぜ。今日は攻略とかよりも出来るだけ友好関係を深めたい。お前はお前で思うとおりに遊ぶと良い。見せてもらおうか神話級モンスターの性能とやらを」

「了解ですー。ふっふっふ。ツチグモにも似たような能力があるのですー。ぽっと出の新入りに負けてられないですー。スキル『スーパーダッシュ』ミシェルンいっきまーす、ですー」


 ガサササササササッ!

 ミシェルンは八本の脚を巧みに操り、ケルベロスに向かって猛ダッシュをした。


 速い。そしてキモい。だがそのスピードはインフィの高機動ブースターに引けを取らないだろう。


 さすがはモンスターでも最上位クラスとなると物が違うと言う事か。

 装備が出来ないデメリットをカバーして余りある、ぶっ飛んだ性能のスキルがあるのだろう。


「……まあ、防御力が紙だから直ぐに死んでしまうだろうけどな。でも前回のデスキャンサーよりは楽しそうでなによりだ」


 なんやかんやでミシェルンは蜘蛛型ロボット、適正はばっちりなのだ。


 本人は蟹になりたいと言っていたが、それは調理ロボットとしての食材へのリスペクトである。


 なんせ蟹は未だに高級食材である。

 俺だって年に一回くらいしか食べれないのだから。


「ぐへへ、ミシェルンの奴、燃えてるじゃねぇか。よーし、船長さん、俺っちもここからはローグらしくやらせていただきやすぜ? どうせ攻撃力不足っすから……」


 さすがはコジマ重工でベストセラーロボットを争う二体。ライバル心がバチバチだ。


「よし、いいぞ! サンバ君に任せる! お宝ゲットできるといいな」


 サンバはスキルで透明人間になるとその場から姿を消す。


「なるほど、パーティーの雰囲気は良い感じでござるな。では拙者も……」


「馬鹿者! 愚弟よ、お前はテンプラーだろうが。マスターと私を守らないでどうする!

 タンカーが調子ぶっこいて後衛を殺すとか、スレにさらすぞ!」


「あ、姉上。それだけはご勘弁を……ただえさえ、廃人認定されておるのです。いつもいますよねw、お仕事はされてるんですか?www とか」


「まあまあ、姉弟同士仲良くいこうじゃないか。いや、この場合は仲良く喧嘩しなってやつか?

 では俺達も全力でケルベロスを目指すとしますか。俺がガトリング砲で前方の雑魚を刈り取ってくから。アイちゃんは防御力の高そうなやつに魔法攻撃をたのむ。

 スサノオさんは敵の攻撃を防御、特にソーサラーの魔法攻撃は全力で受け止めてくれ」


 そういうや否や、敵ソーサラーの集団からファイアーボールが雨あられと飛んでくる。


 魔力0のマシーンの弱点は魔法攻撃である。

 ヤタガラスの装備効果、魔法ダメージ半減があっても数撃たれたら意味がないのだ。


「さあ、愚弟、仕事をしなさい。廃艦されたいのですか?」


「うぐぐ、冗談とはいえ相変わらずきつい物言いでござる。……ならばこのイベントアイテム『ヤタノカガミ』の出番ですな。これは現パッチの最強の盾装備であります故」


 スサノオは『ヤタノカガミ』を構えると盾を中心に半透明な光のカーテンが展開される。


 その効果は近くにいる味方全体に魔法バリアを張ることが出来る。

 低レベルの魔法攻撃なら完全無効。高位の魔法ならば使用者の魔力に応じてダメージ軽減ができるというものだ。


「どうでござる姉上。そして義兄殿も。これがパーティーでのメイン盾、テンプラーの真骨頂よ。キタ、これで勝つる! でござろう。わっはっは」


 たしかに凄い。

 レアアイテムの効果であるのだが、テンプラーはパーティーでこそ輝くというのは面白い。

 リーダーになりたい人間なんかには持って来いの職業だろう。


「さあ、敵の攻撃は我が守ります故、お二人は気にせず前に進んでください。それに、急がないと、ミシェルン殿が……」


 そう、俺も分かってる、パーティーウィンドウに表示されているミシェルンのHPがゴリゴリ減っていってる。

 無茶しやがって……。



 名前:ミシェラン★★★

 LV61:種族ツチグモ

 HP:680/1510



 …………。


 ……。



 名前:ミシェラン★★★ +++LvUp+++

 LV62:種族ツチグモ

 HP:54/1640



 …………。


 ……。



 名前:ミシェラン★★★ ---LvDown---

 LV61:種族ツチグモ

 HP:0/1510【死亡】




「あ……、間に合わなかったか。しかたない、このまま突っ込むぞ!」


 ちなみにインフィさんのパーティーウィンドウはというと


 名前:インフィニット・プロヴィデンス

 レベル:0

 HP:2210/2541


 流石はランカー、全然問題なさそうだ。

 

「よし、まだケルベロスは死んでないな、良い感じだ。

 敵のHPバーはあと1/3ってところだ。俺達で一気にたたみかけるぞ!」


 ケルベロス、ヘルゲートの入り口を守る番犬という設定。

 やはりその外見は三つの頭を持つ犬だった。


 安直とは言わない。それにグラフィックのリアルさよ。

 よだれを垂らす狂犬の様な表情は実に恐ろしい。

 ゲームクリエイターはほんとうに凄いと思うのだ。


 それにしても、死亡したミシェルンを他所に未だにビームソードで戦い続けるインフィさん。

 プラズマショットガンは弾切れなのだろう、左手は素手である。 

 しかし、相変わらず雑魚モンスターはわらわらと寄ってくるのになんで平気なのだろうか。


 俺の疑問は直ぐに溶けた。

 モンスターがインフィさんの体に接触した次点で真っ二つに切り裂かれていたのだ。


「義兄殿、あれはインフィ殿のオプション装備、アサルトアーマーの効果ですな。

 設定では全てがハイパータングステン製のブレードで出来た鎧ということでござる。

 つまり、インフィ殿は全身刃物に包まれており、キックやパンチ、あるいは体当たりでもダメージが発生するという訳でござる。

 もっとも、アサルトアーマーにも欠点はあって、体を動かしていないと効果は発動せんのです。

 棒立ちのガンナーでは宝の持ち腐れですが、さすがはインフィ殿。すばらしい動きですな」


 それは俺も思った。


 右手のビームソードでケルベロスにダメージを与えつつ、近づいてきた雑魚に対しては空いている左手で敵の首を刎ねる、あるいは心臓を突き刺す。

 防御力の高い敵に対しては回し蹴りや踵落としなどで確実に蹴散らしていく。

 明らかに別ゲー、さしずめ格闘ゲームのように実にスタイリッシュな動きだった。


 なるほどな、装備の特製を生かすも殺すもプレイヤースキル次第ってか。


 マシーンは痛みを感じないというメリットから初心者向けの職業だと思ってたけど……どうだろうか。

 

 これもこのゲームが人気な理由か。まじでやり込み要素がありすぎだな。


 同じ職業だというのに、ここまでの違いを見せつけられてしまった。

 俺は感嘆を漏らすしかなかった。

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