シンドローム18/27

 集合時刻になる。


 俺達は街のポータル前にいるのでテレポートでやってきたのだろう。

 装備こそ違えど見た目は俺そっくり。

 というかマシーンだな。


 事前に受けた情報通り、正真正銘の犯人だ。

 皮肉にも俺と同じ職業のマシーンだとは思わなかった。


 ないはずの喉がごくりと音を立てる。


「この度は敬愛するスサノオ殿のパーティーに招集いただき感謝申し上げます。

 さっそくですがメンバーに加えてください。有効の証としてステータスオープンさせていただきます。自己紹介はその後で」


 名前:インフィニット・プロヴィデンス

 職業:マシーン

 レベル:0

 HP:2541

 力:1942

 素早さ:3891

 防御:2990

 魔力:0


 右手装備:GE02A1-ハイゲイン・ビームソード(+20)

 左手装備:GER1000-プラズマショットガン(+6)

 背面装備:NASA2001-高機動ブースター(+19)

 オプション装備:BTS2-近接戦闘アサルトアーマー(+10)



 ……なるほどね。マシーンも接近戦タイプになれるのか。

 レベルは上がらないけど装備次第でやれることが変化するマシーンも結構面白いかもしれんな。


 ちなみに(+○○)の部分は強化レベルである。

 所持品の装備ステータスを少しだけ上昇させる効果がある。


 ちなみに+6を越えると一定の確率で武器破損のリスクがあるそうだ。

 上限は+20まで。


 そこまでの上昇効果はないけれど、エンドユーザーのモチベーションの一つという事らしい。


 スサノオには、なぜやらないかと聞いたが答えは簡単だった「コスパが悪いのでパスでござる」とのこと。


 なるほど、たしかにこういうギャンブル要素は射幸心を煽るのだろう。

 理解した。こいつは間違いなく生身の人間で、その本気度からおそらくガチの廃ゲーマーだろう。


 マシーンだというのに最適装備である遠距離武器を装備せず、さらには接近戦用の装備とブースターへのこだわりが半端ないのだ。


 まあ俺だって理解できる。

 皆とは違う、自分だけの装備か。

 人と違うというだけで高揚感を得られるのだろう。


 例えるなら、皆の推しの子がセンターのあの子なら、俺はまだ誰も知らないこの子を応援するって感じだな。

 なるほど、ならこいつは俺と気が合うかもしれない。

 やや強引だが、フレンドリーに接するには相手を理解することからってね。


「おっと、インフィニット・プロヴィデンスさん、わざわざステータス開示ありがとうございます。では俺も……」


 そう、俺だって負けてない。ゲームプレイ時間こそ100時間を満たないが、そこそこやったし。

 課金ブーストもあるし、なにより仲間たちのおかげで俺はここまで強くなれた。



 名前:レイザー・スズキ

 職業:マシーン

 レベル:0

 HP:2958

 力:1212

 素早さ:1012

 防御:3012

 魔力:0


 両手装備:GAU-19M 12.7ミリガトリング砲

 背面装備:アロンダイト 30ミリチェーンガン

 オプション装備:ヤタガラス 精密誘導ミサイル



 どや! 俺だって負けてないぜ!


 人から貰った装備にどやる俺だが、相手にとっては関係ないこと。


 初対面だからこそインパクトを与えねばならぬのだ。

 なめられたら終わりだ。


「へえ、射撃特化に最新のイベントアイテム『ヤタガラス』を装備とは。

 おっと、自己紹介がまだでしたね。私はインフィニット・プロヴィデンスと申します。気軽にインフィとお呼びください」


 普通の挨拶だった。どんな奴かとちょっと緊張してたが……。

 まあそりゃそうだ、いくら悪人だからって「我こそは悪人である、ふっはっは」とはならないだろう……。


「こちらこそよろしくお願いします。スサノオさんの知り合いでイチロー・スズキといいます」


「えっ!」


 今度は相手の方が度肝を抜かれたようである。 


「マスター、ここはネットゲームですよ? リアルネームで名乗るのはマナー違反です!」


「え? 俺、そんなこと言ったっけ?」


「あはは! これはこれは。レイザー・スズキさんはネトゲ経験は案外浅いのですね? それともずっと身内パーティーですか? スサノオさんとはリアルフレンドとかですか?」


 くそっ、まずいぞ。リアルネームを知られた。


 ……だがそれがどうした。

 俺のリアルネームを知らない日本人などいない! 

 イチロー・スズキの名前、なめてもらっては困るぜ。

 

「ま、まあな。ずっとこいつらとやってたから。つい本名を名乗ってしまった……忘れてくれ」


「いえいえ、覚えやすい名前ですから忘れることはできませんね。……代わりにと言ってはなんですがこちらもリアルネームを名乗らないと――」


「いや、インフィさん、それは大丈夫です。それに覚えやすいってことは、どこにでもある名前ですのでお気になさらず。

 実は昔から有名人の名前と同じで苦労したんですよ、ハハハ」


(マスター。せっかく犯人の名前を知るチャンスだと言うのに、よろしかったんですか?)


(いや、これが切っ掛けで警戒心も持たれてはだめだ。それと、個人通信も止めておこう。表情で感づかれてもまずいしな)


 もちろん、マシーンの俺には表情はないが、それとない仕草で感づかれる可能性は否定できない。


「おや、そちらのソーサラー殿。安心してください。私はゲームには本気です。リアルネームを他人にさらすなどという無作法なことは致しません」


 やはり感づかれたか。個人通信の微妙な間と表情でなんとなく気付くものだ。流石はネトゲ上級者。

 これは一筋縄ではいかないか。

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