シンドローム17/27
午後五時。夜型人間である廃ゲーマーが活動を開始する時刻。
ネトゲプレイヤーの人口が最も増える時間帯だ。
同時に学校あるいは会社から帰宅した、キッズから社会人まで揃う時間帯でもある為、ネトゲ廃人は敬遠しがちだと思われるが、実はそうではない。
野良パーティーやらトレード、参加人数によって強くなるイベントモンスター等があるため廃人がもっとも活動的になる時間でもあるのだ。
「集合までに少し時間があるようだな。それまでに相手に舐められないように装備を一新しよう」
という訳で、お世話になった低コスト装備を全て一新し、最新クエストでも通用する装備を探すことにした。
俺が気に入ったのは店売り最強と言われる、マシーン専用両手装備『GAU-19M』12.7ミリの3砲身の携行ガトリング砲だ。
銃自体が巨大なので両手で持つ必要があるが、威力と連射力を両立している。
当然、両手装備なので左手に装備してたグレネードランチャーは手放さなければならないが、そんなの関係ないくらいにこの銃は強いらしい。
それにマシーン専用ということでステータスアップ効果も期待できる。
弾薬のコスパは悪いけど、いよいよ最終局面だし節約は必要ないのだ。
そう、俺はゲーム攻略はどうでもいい。
これから会う人物こそが今回の事件の犯人であり俺達の最終目標である。できるだけ相応しい装備で仲良くなる必要がある。
「ふははは、姉上に義兄殿、相変わらず仲睦まじいご様子でなによりでござる。
件の人物にメールをしたところ、快く了承を得たでござる。やはり人間関係は大事でござるな」
「愚弟よ。お前というやつは……今回はゲームではない、遊び感覚ではないのですよ?」
「いや、アイちゃん、遊びって言う感覚は大事だ。
不信感を招きかねないし、集合までにあと十分ってところだが、本当に時間通りに来るだろうか……」
すっぽかす可能性もあるが、スサノオさんはこのゲームでは上位ランカーの知名度がある。
それをすっぽかすのは同じランカーである犯人としては有り得ないだろう。
このゲームはソロでは成り立たない。
パーティープレイが最重視されるので、マナーが悪いプレイヤーは直ぐに居場所がなくなるのだ。
犯人も上位ランカー、害プレイヤーランキングには乗っていないことから話は通じる相手のように思われる。
とういうことで、おそらくは時間通りに来てくれるだろう。
「そういえば、ミシェルン……、進化したんだっけ? あえて突っ込まなかったけど。随分と禍々しい感じになったな……」
名前:ミシェラン★★★
職業:モンスター
レベル:61
種族:ツチグモ
HP:1510
力:1891
素早さ:2911
防御:1501
魔力:2890
デスキャンサーもそれなりに迫力があったが。これは別格だ。
黒いし、モサモサでカサカサ。
八本の長い脚にデカい腹。鎌の様な鋭い二本の鋏角からは毒液が垂れる。
うーん。これは……。まるでタランチュラ……。
ミシェルンじゃなければ俺は気絶しているだろう。
「船長さーん、聞いてくださいですー。こいつはキモいし紙装甲ですー。これなら前のカニがよかったですー。デスキャンサーはカッコよかったですー!」
先程まで大人しく縮こまっていたミシェルンだが、俺の言葉でドタバタと八本の脚でだだをこねる。
あれだ、スーパーでお菓子を買ってもらえない幼稚園児のごとく。背中を床につけて両手両足でじたばたやる奴。
子供ならまだかわいい。
……だが、虫のお腹はただでさえあれなのだ……。
そう、ただただキモい……。
やはり蜘蛛の動きは生理的な嫌悪感がある。
百歩譲ってカブトムシなら……いやあれも良く見るといろいろキモいか……。
そういえば俺は昆虫採集なんてしなかったな。
弟はカブトムシは兵器だとか言ってなんか変なゲームをやってたっけ。
懐かしい記憶をたどる。
おっと、今はミシェルンだ。駄々っ子を何とかしないと。
「……ミシェルンよ、まあそう言うな。どうしてもと言うならもう一度モンスターの肉を食べてクラスチェンジをするのもいい、でもツチグモってかなりのレアらしいぞ?
一応、最強モンスターの一体らしいし神話級というカテゴリーなのか、レベル上げに必要な経験値も多いらしい。
もう少し続けてもいいんじゃないか? それに、外見は確かにキモイけど、中身がミシェルンなら俺も我慢できるってもんだ。
大事なのは中身だろ? 俺はミシェルンならキモいとは思わないし。
……まあ後ろから抱き着くとか、そういうどっきりの類はやめてくれよ? 振りじゃないからな?」
「うふふですー、また船長さんからプロポーズされたですー。
でも言われてみれば前よりも体が軽いし、これなら当たらなければどうということないを実践できるかもですー。
それに蜘蛛の糸も使えますし。えげつない呪いとか毒スキル満載ですー。
ボスモンスター相手ならデスキャンサーよりかは活躍できる気がするですー」
うむ、喜んでくれたならなによりだ。
ちなみにミシェルンはデスキャンサーを結構気に入っていたようだ。
たしかに蟹は食材としては最高級の部類だし、調理ロボットである自身が蟹になりたいと思っても致し方ない。
でも一部の民族では蜘蛛も高級食材として振舞われると聞いたことがある。
……いや、ゲテモノ料理に目覚めてもらってもこまるが。
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