シンドローム2/27

 『ヘルゲート・アヴァロン』ログイン画面にて。


 ふむ、人間種がテンプラーにソーサラー、ローグにプリーストで。

 変わり種でマシーンとモンスターがプレイヤーが選択できる職業ってところか。


 モンスターはともかく、マシーンって何だよ。ファンタジーRPGじゃないのか?


 どれどれ、マシーンの種族特製として経験値によるステータスアップはしないが装備品によって各ステータスは上がると。

 で、機械武器を装備時にオートエイムとダメージアップの効果。そして痛覚無効と……うん?


「痛覚? アイちゃん! このゲームってダメージ喰らうと痛いの?」


「はい、そうですね、もちろん現実の痛みよりは低いですが、そこそこの痛みはあるそうです。本格的なフルダイブMMOが売りのタイトルですので、多少の痛みとかはセールスポイントなのでしょう」


「冗談じゃないぞ。剣で斬られて痛いとか絶対嫌だ。やりたくない!」


「あら、でしたらマスターはマシーンを選択されれば良いじゃありませんか。痛覚無効がありますので初心者にはうってつけだと思いますよ?」


「そ、そうか。なら俺はマシーン一択だな。だけど、どうせなら勇者っぽい職業がいい。

 このゲームでいうとテンプラーか、パーティーの盾として活躍……いやいや、痛いのは嫌なので俺はマシーンで防御力特化にしようと思います……」


「では私は後衛のソーサラーにしますね。エルフっぽい外見はマスターお好きでしょ?」


「お、いいねぇ。ファンタジーといえばエルフは鉄板だな、髪色は金髪でたのむぜ」

「はい、もちろんです、マスターならそう言うと思っていました」


「うーむ、……しかし前衛がいないな。マシーンは後衛向きなんだろ?

 トラップ解除と索敵用のローグも必須だし、ゲームの仕様上パーティーを組むのは必須なんだろ?」


「そうですね。それなら、サンバとミシェルンにも手伝ってもらいましょうか」


 ということで、急きょ身内だけでパーティーを組むことにした。

 極秘任務だ、遊びではないので野良でパーティーを組むわけには行かない。


 ということでローグにはいろいろ器用そうなサンバ君にやってもらう。

 ミシェルンには前衛として変わり種のモンスターをやってもらう。

 なぜって? なんか面白そうだからだ。

 それに仕様上、モンスターは武器を装備出来ないので経済的だし、あとモンスターは敵のモンスターを捕食すると能力が上がるというので調理ロボットが適任なのではと思ったのだ。


 ちなみに、ロボットがゲームをするのかと思うだろう。もちろんしない。

 だが今回は特別にやらせてみることにした。仕事だからしょうがないのだ。


 当然だが文句は言われた。またストライキ騒動になるのではと思ったが、そこは俺である。仕事をサボってゲームをするのは立派なストライキだとなんとかごまかすことが出来た。

 だが、さすがに今回は強引過ぎだ。乗り気でない二人を強引にゲームに誘ったのだ。

 断られたら俺は土下座をしたかもしれない。でもサンバにミシェルンは快諾してくれたのだ。


「まあ、船長さんがそこまで頼むんだから余程の事情があるのでしょう。ボクとしては複雑ですが、船長さんとしては色々と事情があるのでしょう……」


「すまん、サンバ君、これは極秘なんだ。だからコジマ重工に所属する君達には詳しいことは話せないんだ。

 でも、ヤバいんだって! 対消滅爆弾がテロ的な陰キャオタクを説得するためにゲーム内で接触しないといけないんだ!」


「マスター。全部喋ってます……。ああ、コジマ重工の社長には根回しが必要になりますね……」


「いえいえー、船長さんにアイさん。大丈夫ですー。私達のプライべートは保障されているですー。

 仕事外の情報は漏洩しないと約束するですー。むしろ顧客情報をボロンしたらリコール案件ですのでご安心くださいですー!」


 ミシェルンが言うには俺が不覚にも仕事の情報をばらしても、それはコジマ重工のネットワークには共有されないようだ。

 あくまで共有されるデータは、サンバの場合は掃除に関すること、ミシェルンは調理に関することに限定されている。

 これ以外の情報が洩れたら企業の信用に関わるので各ロボットはこれを遵守しているのだ。


「そうか、ありがとう。なら、これから俺達はパーティーメンバーとしてゲーム内では何でも話せる仲間だな、もちろんオフ会もやろうぜ!」


 即席だが、良い仲間ができた。

 正直俺はネットゲームというのは詳しくないが……俺以外のパーティーメンバーが全員AIっていうのはどうなのだろう。ボットって奴なんだろうか。


「マスター。ご安心を、我ら霊子コンピューターAIは個人の人権が認められていますので、ネットゲームでも正式にアカウントを取得することはできます。

 ですのでボットには当たりません。……たぶん。

 実際に裕福な親不孝者のネトゲ廃人は複数のAIにプレイさせることもあるそうですよ?」


 そうか、規約違反でないならよし。ではさっそくログインだ。


「はい、マスター。チュートリアルを終えたら早速パーティーを組みますので最初の街のポータル前でお待ちしていますね」


 俺はベッドルームに入るとゲーム機であるヘルメット型の機械を被る。


 まてよ、意識がバーチャルに入るってことは下の事情はどうなるのだろうか。


 ……万が一に備えて俺はユニバーサルクロークを着ることにした。

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