第十話 キズナ

キズナ1/3

 地球型惑星アーススリー衛星軌道上の宇宙ステーション『クシナダ』にて。


「スズキさん、本当にありがとうございました。子供達にとって今回の旅行は一生の思い出になると思います。

もちろん私達にとっても素晴らしい経験をさせていただきました」


「いやぁ、まあ、仕事ですから。先生方こそ色々ありましたし、これから少し面倒な報告をすることもあると思います。

 なんせ軍艦強奪事件に巻き込まれてしまったのですから。もちろんフリーボートとしては全力でバックアップしますので安心してください。

 俺のバックには上院議員先生がいるのですから、はっはっは」


 そう、俺自身は大したことないが、俺のバックには大物政治家がいる。それにクリステルさんの家は凄いのだ、きっとなんとかなる。

 ちなみに戦艦スサノオはこの場には居ない。当然だが取り調べのために現在は政府預かりである。


「あの、イチローさん、本当にありがとうございました。これ皆で作ったんです」


 子供達を代表してトシオ君が俺に色紙に書かれた寄せ書きを手渡してくれた。

 折り紙で出来た千羽鶴も。


 寄せ書きの中央には大きく『イチローさん、アイさん。ありがとう』と書かれていた。


 折り鶴なんて随分と懐かしい。それにちゃんと千羽あるようだ。


「イチローさんは千年前から蘇ったって聞いて、閃いたんです。千羽鶴って日本では縁起がいいって」


 なるほど、こういう文化はまだ残っていたのか。

 しかも彼らはアーススリーの出身、日系人とはいえちゃんと文化の継承をしているとは驚きだった。


 寄せ書きに目を通すとそれぞれ署名付きでメッセージが書かれていた。


「皆、ありがとう。後でゆっくり読ませてもらうよ。……なんか卒業式みたいだね。

 よし、なら君達の卒業式には俺も出席させてもらおう。それまで頑張るんだぞ? 

 留年とかカッコ悪いっからな、まあ君達の事だから、そんなことにはならないと思うけど。

 まあ、実は俺はちょっとヤバかった時があるから油断は禁物だぞ?」


 不覚にも感極まってしまった俺は、ふと目線を逸らす。

 マードックさん達にも子供達から寄せ書きと千羽鶴がプレゼントされていた。


「俺にもくれるのか? 俺はただ仕事で、別に感謝されることではないが……いや、ありがたく受け取っておくよ」


「うふふ、たまにはこういうのもいいでしょ? どう? 子供が欲しくなったんじゃない? あーあ。私にもそういう機能が欲しかったわね」


「からかうなよマリー。……だがそうだな。命の大切さは忘れてはならない。たまに振り返ることも……ヒトで居る限りは忘れてはならないのだろう」


 照れながら帽子を深く被るマードックさんが印象的だった。

 思えば彼の人生には悲惨な戦争があったのだ。いろいろと思うところがあるのだろう。



 宇宙ステーション『クシナダ』を後に、アマテラスは地球へ向かい飛び立った。


 地球に着いたらマードックさん達ともお別れである。

 少し一緒に居過ぎたのか、ほんの少しだけだが寂しい物がある。


「マードックさん……では、またどこかで……」


「ああ、また仕事があったらよろしく頼む。俺達はしばらく地球にいる、なにかあったらいつでも連絡をくれ」


「じゃあね、イチロー。そしてアイも」


「ええ、マリーもお元気で、あと定期的に検査が必要ですのでメッセージは確認してくださいね。

 その体は違法のアサシンドール、しかもフルスペックですから。

 当然、自爆装置もありますのでビザを失効させたくないならちゃんと検査は受けてくださいね?」


「当たり前よ。じゃあ、行きましょうか」


 俺達はオーストラリアにある、ウォンバット宇宙基地で二人を見送った。


「さて、じゃあ久しぶりに家に帰るとしよう。まあ俺の実家じゃないが、スズキ家の総本山ニューヨークへ行くとしよう」


「はい、マスター。私もご一緒しても?」


「もちろん、せっかく体があるんだから、……それに俺一人だと緊張するしな」


 スズキ家はたしかに俺の身内なんだけど微妙な距離感がある。

 アイちゃんが居てくれた方がいいに決まっているのだ。


 基地の外にあるシャトル乗り場にはクリステルさんがいた。


 わざわざ迎えに来てくれていたのだ。

 ニューヨークにあるスズキ家とはクリステルさんの実家だ。


「ではおじさん、行きましょうか。今頃はお父様がパーティーの準備をしていることでしょう。弟もよろこんでいるはずです」


 そうか、やはりパーティーがあるのか、道理でクリステルさんはばっちりとドレスを着ているのだろう。


 黒いイブニングドレスにショールを羽織っている。

 映画祭で見るハリウッド女優のような出で立ちである。


 まあ俺もタキシードなのだが、この不格好さよ。

 隣に立たれると俺が浮く、というかみじめな気分だな。


 いや、ここは俺がエスコートしなければ。

 アイちゃんはメイド服で数歩後ろを歩く。


 他人から見たら俺は貴族にしか見えない。


 いかん、今から緊張してきたぞ……。


「そういえば弟さんは何歳になったんだっけ?」


「今年で10歳ですね。おじさんの宇宙の話を楽しみにしているでしょう」


 10歳、ずいぶん年の離れた弟だ。

 クリステルさんは確か今年で二十……いや、やめておこう。

 年齢を気にするような女性じゃないが、さすがにデリカシーが無いし、万が一で嫌われたくないのだ。


 ニューヨーク。

 アメリカと言えばニューヨークへ行きたいかー! が、昔の日本人の発想だ。


 俺の弟はどうだったかは知らないが、一人、夢を持って渡米したのだろう。


 オーストラリアからニューヨークまで一時間ほどシャトルに乗る。


 この時代の惑星内の交通手段はシャトルとよばれる超音速飛行機を利用する。

 俺のいた時代の飛行機よりも低燃費、というか石油燃料ではないので環境にも優しいそうだ。

 

 成層圏からみる地球ははっきり丸いと分かる、はるか下にはもこもことした積乱雲が見え、所々で稲光を発している。

 こういう景色は何度見ても面白い。


 やがてシャトルは再び降下を始める。


 そろそろ到着なのだろう。雲を突き抜けると陸地が見えてきた。 

 相変わらずの高層ビル群にニューヨークといえばの自由の女神像が見えた。


 ちなみに現在の自由の女神像は修復を繰り返されたため、当時の材質はほとんど残っていないだろうとのことだ。

 それでもその造形は今だ俺の記憶にあるままだ。


 やはりアメリカといえば自由の女神像、象徴的な価値があるということだ。

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