ハーデス6/6
コジマ重工冥王星工場、サンバ型お掃除ロボット組み立てラインにて。
俺達はエアロックを抜けるとクリーンルームへ案内された。
さすがは精密機械の工場だ。
生産現場に行くまでにいろんな浄化装置を通過する必要があった。
「ご覧ください、サンバタイプの生産ラインです。今では一家に一台があたりまえの万能お掃除ロボット。スズキ様にも御贔屓いただいておりますね」
実に壮観だった。次々とサンバタイプのロボットが組み立てられる姿。
某自動車工場よりも洗練された合理的なライン。
「手前から、マニピュレーターアッセンブリ、ボディーアッセンブリ、そして最終組み立てラインへと繋がっています。
ほぼ自動製造ですが、やはり一部は人の手が必要ですので、ああして宇宙服を着た作業者を各所に配置しているんですよ」
たしかに所々に宇宙服を着た人がいる。
中には人型アンドロイドもいるようだ。
その違いは宇宙服を着ているか着ていないかの違いであるが、みんな黙々と働いている。
真面目だな、俺も工場でアルバイトをしたことがあるが結構大変なんだよな。
「あのー、工場長さん、なぜ冥王星に工場を作ろうと思ったのですか? 何もないこの太陽系の辺境で……」
ちょっと失礼な質問だっただろうか、でも大事なことだ。
なぜなら冥王星はこの時代では何の関心も持たれない、ありふれた準惑星の一つに過ぎないのだ。
現に、コジマ重工が工場を建設するまで何もなかったのだから。
「いえいえ、何もないことはありませんよ。まず、限りなく薄い大気に豊富な窒素の氷。そして程よい重力があります、これは大規模な工場を建てるのに適しているのですよ。
大型設備ほど、重量の制限がありますからな。地球型惑星の工場では実現不可能な好条件といえるでしょう。そして冥王星の知名度に比べて格安の地価。
そう、かつての第9惑星だったプルートといえば冥府の神の星とも呼ばれていました。ハーデスとも言いますかな? なにせ私は子供の頃に読んだ本の影響を受けてしまいましてな。
息子の名前をハーデス、娘だったらアンドロメダにしようと思ってたくらいですよ。まあ、もちろん家族に猛反対されたのですが。はっはっは」
「……さすがに日本人の名前にしてはキラキラすぎますよ。やめて正解ですって」
そう、俺だってイチローって名前に苦労したのだ。キラキラではないけど有名人と同じにされるだけでも大変だ。
ましてやコジマ・ハーデス君にコジマ・アンドロメダちゃん。現実にいたらと思うとぞっとするぜ。
「ははは、妻に同じことを言われましたな。おっと私のプライベートの話などどうでもよかったですね。
さて、もちろんここは辺境の地ですのでデメリットもあります、インフラを整えたりと初期投資としてはやや規模が大きかったこと。
しかし、それは直ぐにペイできました。先ほどご説明した通り、工場としての環境が優れていましてね。
そして私の目論見通り、冥王星という知名度が思ったより宣伝効果がありまして、売り上げが倍増したのですよ。
おかげで従業員のボーナスも倍増。冥王様、ハーデス様バンザイってところですな」
うん? なんか最後は悪の組織っぽいことを言ったような。しかもファンタジー寄りの。
まあ、この人も中二っぽいところがあるし、しょうがない。だが売り上げ倍増とはさすがだ。
「子供達もどうですかな? 将来はぜひ弊社への就職を検討していただければ」
「えー、やだよー。この星、何もないもん」
忖度なしの子供の反応だ。
工場長は笑いながら答える。
「まあ、たしかに住み込みで働くのは少し退屈な環境ではありますね、福利厚生の充実が今後の課題でしょう。
しかし最近の若者はブイアール……なんですか? エムエムオーとかいう遊びが流行っているようでして。
従業員たちは仕事が終わるとその話ばかりですな」
まあ、こんな辺境の娯楽なんてネットゲームしかないのだろう。
「さあ、皆さん、最終組付けラインをごらんください。
弊社の特許である、マザーマシン。名付けて『ハーデス』カッコいいでしょう?」
最終組付けラインに案内された俺達は巨大なアシナガグモのようなロボットを見た。
長いマニピュレーターが、サンバタイプやミシェルンタイプの蜘蛛型ロボットを器用に組み立てている。
なんか、あれだなサイズ感的に親蜘蛛と子蜘蛛みたいだ。
「すっげー」
「けど、ちょっと怖いよなー」
「うん、まるで蜘蛛の魔王みたいだ」
子供達の、主に男の子たちから歓声があがる。
俺も同意だ、ちょっとキモいがロボットとしてみたら充分カッコいい。
それにネーミングセンスよ、まさにこの工場のラスボスって感じだ。
しかし、自分の子供につけられなかったからって自社製品の名前に付けるとはさすがボンボンなだけはある。
俺も子供達もその異様な巨大ロボットにくぎ付けになったのだった。
◇◇◇
帰りはコジマ重工がシャトルバスを出してくれた。
「アイちゃん、工場見学は大成功だったろ?」
「はい、そのようですね。子供達も満足しているようで何よりですね」
俺も大満足だ。
なぜなら工場見学は必ずと言っていいくらいお土産をもらえるのだ。
お菓子工場ならお菓子の詰め合わせ、ビール工場なら出来立て生ビール。
今回はロボットメーカーであるコジマ重工らしく、オリジナルミニチュアロボットが一人一個もらえるという大盤振る舞いである。
男の子は青いミニサンバ君。女の子はピンクのミニミシェルンちゃん。
もちろんどちらを選んでもいいが、まあ小学生は大体これをチョイスする。
俺はというと、黒いミニハーデス様を選んだ。
こいつのいい所はデザインの無骨さである。
商用ロボットであるサンバとミシェルンはデフォルメされたデザインで丸っこいボディーが特徴だが、
こいつは細長い脚に尖ったマニピュレーター。
大砲をくっ付けたらまんまSFにでてくる多脚戦車みたいな外見だ。
「マスター、あまりいじると足がもげるって工場長さんに注意されたばかりですよ」
おっとそうだ、構造上、後脚の付け根が脆いと言ってたっけ。
さすがに未来世界でも戦車は戦車の形をしていたし。まあロマンと現実は違うということだろう。
さて、帰ったらどこに飾ろうか。
そう言えば弟の部屋はこんなプラモばかりだったな。
……たまには弟の墓参りにもいかないとだな。
あいつの墓はアメリカだからこの前の地球滞在時には行けなかったし。
ちょうど良いお土産も貰ったし次の長期休暇には顔を出すとするかな。
-----終わり-----
あとがき。
お読みいただきありがとうございます。
今回で修学旅行編のラストになります。
タイトルのわりに普通の工場見学になってしまいました(笑)
お楽しみいただけたら良いのですが……。
続きが気になる。面白いと思って下さった方は♡や★★★いただけると励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます