キズナ2/3

『スズキストリート』


 看板にはそう書かれていた。


 シャトルを降りた俺達の目の前にポップなフォントでデカデカと描かれている看板があった。

 ペンキで描かれたその看板はいかにもアメリカ的なセンスのアートであった。


 しかし、スズキストリートって……どんだけ自己顕示欲が強いんだよ。

 ちなみにニューヨークの街並みは、俺の知ってる時代のものとそっくりそのままのビル群が建ち並ぶ。


「おお、さすがニューヨーク、やはり壮観だな。

 ニューヨークへ行きたいか―! って叫びたくなるよ」


「うふふ、おじさんったら、こんな古臭い街がお好きだなんて、変わり者ですね」


 そう、クリステルさんの価値観ではこの超ハイテクなビルディングは古臭いらしい。

 あれか、日本人が京都のお寺をみて古臭いと思うのと同じ感覚なのだろうか。

 

 ちなみに、俺のいた時代はニューヨークといえば経済の中心であったが今ではそうではないらしい。

 そもそも集中型の都市構造は現在ではあまり見られないのだ。


 ちなみにニューヨークの町並みは世界遺産に登録されているため20世紀後半から21世紀までの外観を保っている。


 ビル群に住む人もいるがよほど変わり者であるとのこと。

 窮屈な部屋にエレベーターにのらないと外出すらできない高層ビルアパートなどなど。


 今の時代の最先端の贅沢は大自然にぽつんと一軒家をたてることらしい。

 自然の景観が良ければ地価は上がるという逆転現象が起きている。


 まあ、その辺がさすが3024年といったところだろう。


「実は、私は昔からこの街が嫌いでして……お父様になぜこんな薄汚い街が好きなんですか? って文句を言ったものです。

 でも、おじさんによろこんでもらえるなら何よりです。では参りましょうか」


 シャトルから降りると、陸路だ。

 さすがクリステルさん。段取りはばっちりで、すでに迎えの送迎車が待機していた。


「ながっ! しかもピカピカの黒塗り高級車、それにリアルなエンジン音というか、爆音だな、ちょっと演出過剰じゃないか?」


 目の前にはいかにもアメリカンな高級リムジンが、パワフルで余裕のあるエンジン音をかましながら待ち構えていたのだ。


「どうです? なかなかにレトロな車でしょ? 本物のガソリン車です。

 なんと2051年製キャディラックですよ。ニューヨークの街を走るのには最適な乗り物しょう?」


 たしかに、懐かしい臭いがする。


 ガソリンの排気ガスの臭いだ。

 なぜだろう、久しぶりなのかとても懐かしい、そして郷愁を誘う良い匂いに感じた。

 まさか、ガソリンの臭いが良い匂いと思う日がるくるとは……。

 

 きっと俺をもてなすためだろう。まったく……嬉しいじゃないか。


「なるほどね、キャディラックは好きだ……」


「それはよかったです、内装も当時の豪華さを再現していますのでもっと気に入りますよ? ちなみに7リッターの大型エンジンによるパワフルな音は全て本物です」


「そりゃすごいね。でも燃費悪そう……まあいいか、おれの車じゃないし」


 俺が近づくとリムジンのドアが勝手に開き、入りやすいように踏み台と手すりがでてきた。


「あ、一応、俺感覚では未来のクルマなんだっけ……。でも過剰な接待具合がなかなかに未来感をこじらせていていい」


 ちなみに宇宙基地で乗った現行の電気自動車にはこういう仕組みはなかった。

 まあこれは過剰な自動車戦争による弊害だろう。


 結局クルマは快適に乗れて走ればそれでいいのだ。


 もちろん、たまにはこういうビップ気分もいいが。


 車内は思ったよりも広い、さすがリムジン。

 対面型のシートに高級感あるテーブルの上にはシャンパングラスに氷の入ったバケツのようなやつが置いてある。

 

 それにオードブルだろうか、クラッカーの上に黒いぶつぶつが乗っている食べ物が置いてあった。


「クリステルさん、こ、これって、ま、まさかキャビアか?」


「はい、もちろん本物ですよ、お父様ったら張り切っていらっしゃる様子ですね」


 そう、クリステルさんの父親。スズキ財団のトップ。

 本来なら俺が会っていいような人物ではない……初めて会ったときはそりゃもう緊張したものだ。


 しかし、高級リムジンに金髪のお姉さんにメイド。


 まるで別世界の様な体験だ。

 正直、初めて宇宙船に乗った時よりも緊張している。


「おやマスター、難しい顔をしてどうしましたか?」


「いや、アマテラスの方が庶民的でいいなぁと思ってたところだよ、俺が住むのはアマテラスしかないってね」


「おや、急なプロポーズにドキドキしてしまいます」


「どうしてそうなる」


「うふふ、おじさんはアンドロイドたらしですね。マリーといい、サンバやミシェルンもそうです、まるで同じ人間の様に扱う方は珍しいですよ」


「え? だってロボットにも人権がある時代だし当然じゃないのか? それに俺の時代、というか日本ではロボットと仲良くする漫画やアニメはいっぱいあったし」


「なるほど興味深いですね。たしかに人権は認められていますが、それは差別構造があったために制定された法律で。心の底からそう思っているのは少数派でしょう」


 なるほどね、俺の周りの人間はその少数派ということか。

 

「実際、クリステルさんはどう思っているの?」


「私ですか? もちろん法律に順守してますよ。もちろんアイさんの事も大切に思っています。

 でも憶えておいてください。それはイチローおじさんが大切にされているので私も敬意をもって接しているということを」


 なるほど、さすがは未来の上院議員ってところか。

 案外ドライなところがあるのかもしれない。

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