ハーデス2/6
翌朝、俺達は予定通り太陽系に向かった。
「よーし、子供達よ、あと数分で冥王星に着くだろう」
「冥王星ですか、なんでまたそんなマニアックなところに? 特に見るべきところはないと思うんですが……」
「ふふふ、スタン先生ほどの方でもそう思いますか? ですが、マニアックだからこそ新たな発見があるのですよ。まあ俺も初めていくんですけどね」
なんやかんやで昨日は冥王星の見どころについて遅くまで考えてしまった。
だからこそ自信がある。
ちなみに今回は地球には寄らない。
アーススリー出身者にとっては地球はちょっと空気が汚いだけの普通の星で、あえて見るべきものは無いからだ。
まあ、地球の文化遺産を見ないのはもったいないと言う人は居るだろう。
だが時間が掛かる割に案外退屈なものだ。正直小学生向きじゃない。
そういうのは大人になってから一週間くらいの時間をかけてゆっくり旅行をしてこその楽しさである。
これは俺の実体験だ、小学生の時に京都や奈良にいっても正直面白くなかったし、お土産で木刀を買った思い出くらいしかないのだ。
ちなみに八つ橋はそんなに好きじゃないし、デカい大仏はちょっと凄かったが鹿は怖かった、それにところかまわずコロコロとクラスター爆弾を投下しやがって。
おっと俺の修学旅行の話はどうでもいい。
「たしかに冥王星には氷と岩石以外何もないように思える。だが実は他にもあるのだ。
君達はサンバやミシェルンにはお世話になっているね。その生まれ故郷ともいえるロボット工場があるのだ。そうコジマ重工、冥王星工場が!」
ここで俺は初めて目的地を明かす。
ちょっとしたサプライズだが、子供達の反応は中々だ。
やはり社会科見学といえば工場見学は定番中の定番だ。
福祉船アマテラスは超光速航行から低亜光速航行へ切り替える。冥王星までもうすぐ。
メインモニターからは太陽だと分かるひときわ大きな光源が確認できた。
「よし、子供達よ、そろそろ冥王星に到着だ。準備はいいかい?
皆にはこれからユニクロを着てもらうよ、最新の宇宙服ユニバーサルクロークだ。初めての宇宙空間でも、普通に歩くくらいなら練習無しでできる優れものだ。
ちなみに見学時間は一時間くらいあるから、今のうちにトイレに行っておくと良いよ」
「あのー、マスター。ユニバーサルクロークには浄化装置がありますので下の心配はしなくても問題ないですよ? ほらマスターもアースシックスのときに経験が――」
「――おっとアイちゃん、そこまでにしてもらおう。それはそうかもしれんが人としての尊厳というものがあるのだよ」
そう、いくら問題ないとはいえ宇宙服を着用した状態で致すのは何とも気持ちが悪いのだ、それに一瞬だが生暖かさは感じるしな。
アンドロイドには分からんのさ。
いや、もしかして不快に感じるのは俺だけで、この時代の人にとっては当たり前なのかもしれないが……。
そう思っていたら生徒達は全員トイレへ向かった。よかった俺だけではなかった。
ちなみに今回のユニバーサルクロークはレンタル品だ。
サイズの問題もあるし、バージョンアップし続ける宇宙服を年一回の行事で一括購入はさすがに無駄遣いである。
それにメンテナンスの観点からも良くない。
ちなみにアイちゃんやマリーさんのアンドロイド組は宇宙服を着る必要はない。
あえていえば、ひらひらしたドレスは機械に巻き込む恐れがあるため工場側からは遠慮するようにとの通達はあったくらいか。
「で、二人は、なぜ体操服を……しかもブルマーで……というか、それもう届いたの?」
「はい。さすがは宇宙最大の通販サイト、ガンジスですね。天の川銀河内なら翌日配送。今頃クリステルさんにも配送完了しているはずですよ?」
「お、おう、まとめ買いだと割引が効くんだっけ……」
とばっちりを受ける形になったクリステルさん。
俺に幻滅しただろうか。誤解だと言いたいがもう遅いだろう。
せめて、捨てられる前に着ている姿を見てみたい……。
「それはそれとして……本当にその格好で行くの? 今から冥王星に降りるんだよ? 結構過酷な環境だと思うんだけど……」
「あら、イチローの時代の運動着なんでしょ? ちょうど良いじゃない。ちなみに私の持ってる服は全部ひらひらしてるし、裸で行くわけにもいかないでしょ?」
「それはそうだけど……ならユニクロを着ればいいじゃないか、子供用のが余ってるはずだし……」
「だめよ、宇宙服なんか着てたら戦えないじゃない。私をなんだと思ってるのよ。それに私は子供じゃないし?」
「いや、たしかにそうだけど、今回は別に戦う必要も無いだろうし、なんていうか、その格好はちょっと、俺に効く……」
「効く? 変なこと言うのね。あんた学校でこれ着てたんじゃないの? 素材もいいし、肌に密着して戦闘用としては問題ないんだけど。それにほら船外活動オーケーって書いてあるわよ?」
マリーさんはおもむろにシャツの裾をまくり上げる。
服の裏側にある洗濯タグのようなシールに宇宙船マークが書いてあった。
びっくりだ、宇宙空間でも着られる体操服が存在したとは。
……しかし、アンドロイドにもおへそはあるんだな……それに柔らかそうなお腹だ……。
俺の視線の動きに気付いたのかマリーさんはからかうようににやける。
「なーるほど。うふふ、イチローったら私に劣情を抱いているのね。かわいいんだから」
……うっ、ばれてる。
俺は気を紛らわそうと顔をそらす。
しかし目線の先にはアイちゃんのブルマー姿が、しかも紺色だ。
くそっ! 良く似合っている。
い、いかんぞ、煩悩よ去れ。そう、あくまで体操服なんだ、健全なんだ。
俺はマードックさんをさがす。
煩悩を消し去るにはハードボイルドな男の世界しかない。
マードックさんは、ちょうど、ショットガンを分解しながら頑丈そうなケースに入れているところだった。
いつもはコートの中に隠して持ち歩いているが今回はそういう訳にもいかない、いくらブーステッドヒューマンでも冥王星の環境では宇宙服は必須だ。
それに、用心棒とはいえ工場内に銃をそのまま持ち込むことはできない。まあ当然だろう、むしろケースにしまえば持ち込み出来ることに驚いた。
「さて、重力は地球の十二分の一、銃でどこまで戦えるか不安なところだ、マリーはどうだ?」
「さてね、たぶん今回は私はほとんど無力だわね、建物を利用すればワイヤーソーの使い道もあるかもしれないけど、まあ低重力下での戦闘を覚える良い機会ではあるかしら?」
二人は物騒な話をする。
今回はただの工場見学だ。それに大手企業のコジマ重工。
この間のアンプラグドなんて怪しい組織とは違う。
……でも、まあ、だからといって。油断するのはよくないし、彼らの仕事を冒とくすることになるので俺は何も言わない。
むしろ全力で対応してくれているので俺は嬉しくなった。
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