アヴァロン3/4

 タキオンビームは亜光速で飛来するミサイルを根こそぎなぎはらう。


 それは目視できない。霊子振動波の揺らぎを観測することで、ミサイルを撃ち落とした事は確認できる。


『ミサイル撃破を確認。

 今ので敵はミサイルの飽和攻撃を開始したようですね。

 ですが今さら悪手ですね。

 エンジン点火による揺らぎを確認。霊子レーダーに全てのミサイル群を補足しました。さあ、マスターどんどんやっちゃいましょう!』


 亜光速巡行ミサイル群の一部を撃破したことで、戦艦スサノオは作戦を変更したようだ。

 レーダーにはアマテラスを球状に囲むようにミサイルの影が映る。


 馬鹿め、筒抜けだぜ。


 俺はタキオンビーム砲発射トリガーのグリップを力強く握る。


「タキオォォォン、ビィィィム!」


 俺はアイちゃんの指示通りにトリガーを引く。

 思わず叫んでしまうが、自然と声が出るのだからしょうがない。


 それに思いっきり叫ぶと少し緊張が和らぐのだ。


 マリーさんがひそひそとマードックさんに何か話している。

 おそらくは、なぜ叫ぶんだ、とか聞いているのだろう。


 アサシンである彼女には俺の姿はさも奇怪に見えるだろう。


 技名を叫ぶのは日本の伝統なのだと後で説明しておこう……。

 

 何発撃ったかは分からないが、これでミサイルは全て破壊したのだろう、アイちゃんの指示は終わった。


「やったなアイちゃん。これで奴の武器は主砲だけってことだよな。後は主砲の撃ち合いになるのかな……でもそれって決着はつかないんじゃないの?」


「はい、おっしゃる通りです。同型艦が一対一で戦うと膠着状態になるのは分かり切っているのに、なぜスサノオは攻撃をしてきたのか、その原因がわかりませんね」


「向こうはこっちが福祉船に改装されてるってなめてるんじゃないか?」


「その可能性はありますね。

 たしかに観光船に改装された際には主砲以外の攻撃兵器は全て外されました。

 ですが、その分バリア機能は各段に向上しているのです。

 その点で言えば、ずっとそのままのスペックだったスサノオの方が不利ではあるのですが……」


 そう、アマテラスは乗客の安全の為、バリア機能はずっとアップデートされ続けていたのだ。

 それにブラックホールツアーとか割とデンジャラスなイベントもやっていたようだし、頑丈さで言えば現行の戦艦には劣るものの民間船の中ではぴかいちである。


「なるほどね、主砲のみとなった現時点では俺達のほうが有利ということだね?」


「はい、ちょうど今の攻撃で敵のミサイルはすべて撃ち尽くしたでしょうし、接近戦でもしてみますか?

 タキオンビーム砲の撃ち合いになりますが、バリアの差で撃ち勝てるでしょう」


「よし、ならこちらは勝ったも同然だな。

 ここはあのセリフを言わざるを得ない。……勝ったな」


 俺は肘を机の上に立てて両手を組む。


「マスター。あまり油断するとフラグが立ちますよ?」


「お、アイちゃんもそういうの分かるんだね。でもこの戦いはもう詰みなんだろ? アイちゃんもいつもの調子に戻ってるし」


 いつの間にかアイちゃんのホログラムが現れていた。


「まあ、そうですけど。しかし解せませんね。スサノオの霊子コンピュータは何をしてるんでしょうか。相手が同型艦なら戦っても勝ち目は五分五分だというのに。

 しかも悪手ばかり打っています」


 疑問は残るものの、もはや勝敗は決したといえる。

 

 当然、実は真の力を隠しているのだ……とかは有り得ない。


 俺としては、そういう展開があるかもとか思っているがアイちゃんは完全に否定している。

 だから有り得ないのだ。


 お互いにタキオンビーム砲の有効射程内に入る。

 

「うお! 揺れる。本当にバリアーは大丈夫なんだよね?」


「大丈夫です。相手の主砲によるダメージは軽微です、このまま距離を保ちながら敵のバリアを削っていきましょう。

 しかし、相手は本当にこちらの情報を知らないようですね。

 私なら、有効打を与えるためにエンジン全開で距離を詰めるところです。

 そうすれば勝敗は五分五分になるというのに……」


 どうやら、本当に相手はこちらのバリアシステムが民間船時代に大幅にアップグレードされたのを知らないのだろう。

 時代遅れのロートルといったところだろうか。


 こちらのバリアは時間と共に回復していくのに対し、相手はゴリゴリと削られていく。


「スサノオ沈黙。バリア発生装置が破損したのでしょう。降伏するとの信号を受信しました。どうされます?」


「どうって、もちろん受け入れるさ。手続きよろしく」


「はい…………。信号受信。スサノオの全ウェポンシステム及び、船体制御システムの権限移譲を確認。……スサノオの制御AIからお話がありますがいかが致しましょう」


「了解、繋いでくれ」


 アマテラスの姉妹艦であるスサノオのAI。

 つまりはアイちゃんの妹ということか。


 ディスプレイに映像が映る。



『はっはっは。お見事でござった。さすがは我が兄弟艦といったところである。うむ、よいよい』


 ……美少女ではない、古風な鎧を着た髭面のおっさんが出てきた。


「……変なAIだな。だれだよ、こんなおっさんにデザインにしたやつは、スサノオの艦長は余程変わり者だったんだな」


 まあ、美少女AIにしてしまった俺も人のことは言えないか……。


「マスター、これはデフォルト設定のままです。スサノオに相応しく猛々しい性格になっております。

 それにしてもこの愚弟、兄弟艦とは失礼ですね、船は姉妹艦というのですよ」


『ふははは、我の姿で妹というのはおかしかろうて、それに兄弟船という言葉があるではないか、波の谷間に花咲く命、てな』


 なかなかに強烈なキャラだ。


 ま、正直これ以上美少女が増えても仕方ない。

 俺はハーレム系主人公はちょっと御免だという派閥だ。


「やあ、スサノオ。俺は福祉船アマテラスの船長、イチロー・スズキだ。しかし、軍籍じゃない民間船を攻撃するなんてどういう了見だ?」


 俺は率直に聞く。権限がこちらに移譲されたのでスサノオは完全にこちらの味方である。


『……うむ、我もそれは具申したがな、だがそれは致し方ないのだ。

 仮初とはいえど、艦長の命令であれば従わざるを得ないのが我の努めであり存在意義であるからな。

 それに我も久しぶりに戦いたかったというのもあるが……戦艦だけに』


「まったく、こんなのが姉妹艦だなんて恥ずかしい。天岩戸があったら隠れたい」


『ふはは、ナイス古事記ジョーク。姿は変われど相変わらずよの。さてと、挨拶はこの辺で君達に一つ頼みたいことがあるのだ』


「頼み? まあ聞くだけなら、でも内容によるぜ?」


『うむ、簡単だ、この船の乗員の命は助けてやってくれ』


「……まあ、そうだな。俺達は軍艦じゃないし、現行犯逮捕の後は警察に届けるだけさ」


『うむ、それでいい。では船の全制御はアマテラスに委ねた。また会おうぞ! ふははは』


 モニターからおっさんの姿が消える。


「恥ずかしい弟ですいません……」


「いや、それはいいよ。馬鹿っぽいだけで悪い奴じゃなさそうだし」


 しかし、高性能なコンピュータAIが馬鹿っぽいとはどういう事だろう。


 いや、実際に頭はよいのだろう。

 むしろ人間味があるというのが霊子コンピュータならではということか。

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