アヴァロン4/4

「ではこれより、スサノオの全システムはアマテラスで管理いたします。マスターはどうされます?」


「もちろん、スサノオに乗り込んで犯人に説教の一つでもしてやるさ」


「マスター、気を付けてくださいね。船のシステムを掌握したとはいえ、中には武装蜂起した人間がいる可能性だってありますから。

 それに相手はこちらの呼びかけに答える様子がありませんし……」


「大丈夫。俺にはマードックさんにマリーさんがいる。何も問題ない」


 そう、こんなこともあろうかと用心棒を雇っているのだ。

 しかも凄腕の、何も問題ない。


「たしかに、それもそうですね。ではお気をつけて」


 アイちゃんの仕事は終わりだ、次は俺が頑張らないと。


 さすがに叫ぶばかりでは格好が悪いのだ。


「ではマードックさん、マリーさん。よろしくお願いします」


「ああ、任された。前回は不覚を取ったが、あれからまた鍛えなおした。今度は完璧に君の護衛をさせてもらうよ」


 マードックさんは、愛用のショットガンに弾を込める。


 用心棒と言えばショットガンのイメージがある。

 カッコいいからだ。


 もちろん、それ以外にもショットガンには利点があった。


 それは弾の種類が豊富なことだ。


 プラズマライフルは射程距離や殺傷力では圧倒的だが、威力が高すぎるので民間に出回ることはないしメンテナンスに難がある。


 ライフルや拳銃も用途が限られる、下手に当たったら死ぬので過剰防衛にならないように射撃の訓練は必須だ。


 銃は普通にデパートで買えるが、高額な保証金を払わなければならない。

 この保証金は弁護士費用に充てられるのだと、先日クリステルさんに教えてもらった。 


 銃社会もいろいろ大変だと思った。

 

 ちなみにマードックさんが込めたのは暴徒鎮圧用の非殺傷の弾丸とのことだが、当たりどころが悪ければ死ぬ可能性だってあるだろう。

 出来れば穏便に済ませたいところだ。


「イチロー、私はどうすればいいのかしら? 私に出来ることと言えば殺すことしかないんだけど。この身体じゃあんたを守ることも無理そうだし」


 おっと、こちらには民間人が持ってはいけないオーバーキル兵器の幼女がいた。


「えっと、そうですね。マリーさんはもしもの時の切り札です。道中は出来るだけ説得して戦わないようにするので。

 それでも攻撃をされたらマードックさんが対処します、それでいいですね?」


「ふーん、暇になりそうね。ま、切り札って事ならそれで我慢することにするわ。せっかく新しい体だし? 試し斬りしたいってのもあるけどね」


「マリー。俺達の仕事は依頼人の護衛だ、少しは自重しろ。

 ではまず俺が先頭に立つ、イチローはその後に、マリーは最後尾でフォローをたのむ」


「おっけー、でも後から卑怯にも襲ってくる奴は、殺意ありと見て容赦しないけど?」


 たしかに、話す暇なくいきなり襲われたらそれはしょうがないか。

 不殺にこだわり過ぎて周りに迷惑をかけるほど俺はお人好しではないし。


「まあ、それはしょうがないとしましょう、最優先は俺達の命ってことで。じゃあアイちゃん、スサノオのハッチを開けて」


『了解しました。……お気をつけて』


 …………。


 ……。


 何事も無くスサノオの艦内に侵入した俺達。


 船の構造自体はアマテラスと大差ないので俺達はブリッジへと一直線に向かう。


 おまけに通路には丁寧に案内板があるので間違えようがない。


「そうか、今は博物館なんだっけ」


「妙ね。侵入してから襲われるどころか人っ子一人いないじゃない」


「たしかに妙だな。やはりテロリストに奪われた、と考えてよいだろうな」


 テロリスト。そういえばアンプラグドの連中も船が欲しいって俺に襲い掛かってきたんだっけ。


 リーダーのマクシミリアン。

 奴はまだ捕まっていないのだろうか。まさか……ね。


 俺は腰に下げた拳銃に手を添える。


 クリステルさんに教えてもらったんだ。

 止まっている的ならそこそこ当てれるようになったし、今度はちゃんと対応できるはず。


 俺達はついに誰とも遭遇することなく、メインブリッジにやってきた。


「アイちゃん。メインブリッジに到着した。扉をあけて」


『了解、あとマスター。拳銃は必要ありませんので、大丈夫ですよ、落ち着いて深呼吸してください』


「ああ、ありがとう。また鎮静剤のお世話になるところだった」


 扉が開く。


 マードックさんはショットガンを構えて先に中に入る。

 その後ろをサポートするようにマリーさんもブリッジ内にはいる。


「イチロー。どうやら俺達の仕事は終わりのようだ」


 ブリッジ内には子供しかいなかった。


「おじさん達、警察の人? 僕達、死刑になっちゃうの?」


 …………。


 スサノオの艦内にいるのは子供達だけだった。


 修学旅行中の小学生。

 フリーボートに宇宙旅行を依頼した小学校の生徒たちだ。


「君達、引率の先生はいないの?」


 俺が質問すると、子供たちの視線は一か所に集まる。


 ブリッジの隅で壁にもたれかかる格好で座っているスーツ姿の男性と女性の二人だ。


 マードックさんが近づき手を首に当て、まぶたを開き瞳孔を確認する。


「イチロー、安心しろ。麻酔薬で眠らされているだけだ。念のため病院で検査をする必要はあるが」


「そっか、よかった。で、君達は何でこんなことを? やったことを理解できない歳じゃないよね?」 


 俺の質問に、学級委員長らしき一番背の高い男の子が話してくれた。


「……ぼくら、この船で戦えって。戦わなければ生き残れないって言われたんだ」


 どうやら、子供たちが自主的にやった行為ではないようだ。

 考えてみたら子供だけで戦艦の強奪とかありえない。


「だれがそんなことを? そいつは今どこに?」


 俺の質問にその男の子は首を横に振る。


「わかんない……。全身黒ずくめで顔が分からなかったし、初めて聞く声だった。

 僕達が勝ったらアヴァロンへ迎えてくれるって言い残して消えちゃったんだ。

 アヴァロンってのが何か分からないけど、死にたくないから……そのごめんなさい。

 僕達捕まっちゃうの?」


「いいや、状況から考えて君達は被害者だ。それに見つけたのが俺達でよかった。

 君達の身柄は福祉団体フリーボートで一旦預かる。警察だって手出しできないはずだ。そっから司法的な取引をして、穏便に済ませるとしよう」


 どの道、先生達の意識が戻らないと話にならないし、この歳で警察のお世話になる経験なんてさせられない。

 

 委員長の男の子の表情はまだ暗い。


「本当にそんなことできるの? 警察は怖いって聞いたよ? それにおじさん……ちょっと頼りないし」


 俺達がよほど胡散臭いのだろう。


 まあ、福祉団体が世間に認知されるときっていうのは、ほとんどの場合は不祥事が発覚したときだからな。

 俺も昔は胡散臭い連中という認識を持っていたものだ。


 だが、俺は少なくとも誠実にやっているつもりだ。


「安心したまえ。俺のバックには上院議員がいるのだからな、警察なんてちょろいもんさ。

 とりあえず先生達はアマテラスの医務室に運ぶ。目が覚めたら事情を聞いて、フリーボート経由で警察に連絡しよう。

 とりあえずスサノオは元の場所まで運ぶとして……アイちゃん。クリステルさんに連絡おねがい」


『はい、了解しました』


「散々な目に遭ったけど、今から修学旅行を再開しよう。めんどくさいことは俺達に任せて君達は宇宙旅行を全力で楽しむんだ」


 俺の言葉に子供達の顔が明るくなる。


 いい笑顔だ。

 このために俺達の仕事があるのだと改めて実感した。


 しかし、犯人はだれだろう。手がかりは今のところアヴァロンという言葉だけだが。


 まあ、幸いに怪我人一人いないのだ。

 犯人捜しは別途専門家に任せるとしよう。


-----終わり-----


 あとがき。

 お読みいただきありがとうございます。

 今回は宇宙船同士のバトル展開を書きました。

 SFの醍醐味の一つですね。上手く書けたかはよく分かりませんが……。


 さて、今回は少し伏線を残しました。この後回収されるのかそれが問題だったりします。

 続きが気になる。面白いと思って下さった方は♡や★★★いただけると励みになります。









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