アヴァロン2/4

「マスター! 前方に大規模な霊子振動を確認しました。緊急事態!

 10秒後にタキオンビーム砲が本艦に着弾します!」


「え? ええっ! か、回避? あっ! バ、バリアは!」


 俺は軍人ではない。

 10秒で俺が出来ることなんてこんなものだ。

 ……情けない。


 だが、アイちゃんは違う。


「はい、既に十一次元効果バリア、アクティブモードへ変更しました。さあ、着弾来ますよ? 船の揺れに気を付けてください」


 ズゥゥウン!


 アマテラスの船内が小刻みに揺れる。

 震度3か4くらいの揺れだ。


「アイちゃん。状況は!」


「はい、バリア正常。有効射程外からの攻撃ですので全く問題はありません。ですが……これは不味いですね」


「え? 不味いってどういうこと? ていうか、この船はアマテラス級戦艦の主砲を想定した防御性能があるんじゃないの?」


「はい、おっしゃる通りです。ちなみに先程のタキオンビーム砲の威力ですが、そのアマテラス級戦艦によるものかとか思われるのです。つまり敵は同型艦ということになりますね」


 同型艦、つまり攻撃してきた船はアマテラス級戦艦ということになる。

 数あるアマテラス級戦艦は全て退役しているはずだが……。


 まあ、察しの悪い俺でもさすがに分かる。


 それは俺達の目的地にあるのだから……。


「まさか、博物館にある戦艦スサノオが撃ってきたってこと?」


「はい、先程、宇宙ステーションへ確認しましたが、どうやら情報の隠ぺいがされているようで、実際は何が起きているかは分かりません。

 ですが戦艦スサノオであることは間違いないです。

 だから少し不味いことになりましたね。もし相手がスサノオなら、そろそろ次の手がきます」


 アイちゃんが言い終わる瞬間、先程よりも大きな振動が起きた。


 今度は震度5以上だ。

 体の小さいマリーさんは不意の振動に体勢を崩し尻もちをつく。


 ただ事じゃない揺れだ。


「アイちゃん今度は何?」


「はい、ミサイルが着弾したようですね。時間的には主砲を撃つ随分前にミサイルを先行させていたのでしょう。

 幸いにもアマテラス級は亜光速巡行ミサイルしか装備していないはずですので、やりようはあります。

 もし、今のがタキオンエンジン搭載型の弾道ミサイルだったなら、とっくに私達は宇宙の塵ですから……」


 タキオンエンジン搭載型の弾道ミサイルは超光速で突き進む大型ミサイルのことで、その値段は下手な戦艦よりも高い。


 つまり退役した旧式戦艦であるアマテラス級に最新鋭の弾道ミサイルを乗せるのはありえないのだ。


 それでも、いくら旧式の兵器だったとして、博物館の前に武装くらいは外せよと突っ込まざるを得ない。


「しかし、アイちゃんは落ち着いてるね、凄い揺れなんだけど……」


 だが、その表情は真剣そのものだ。


「ええ、落ち着いていますよ。それだけ事態は深刻ということです。

 バリアのダメージから察するに、弾頭には十一次元効果爆弾が搭載されているでしょう。つまりアマテラス級を想定した対艦ミサイルです。


 幸いにも迎撃ミサイルが間に合ったので直撃は免れましたが、それでもバリアには深刻なダメージがあります。

 現状のバリア損耗率は30パーセントといったところですね、回復には少し時間が掛かりますので、連続で喰らうとまずいですよ。


 当然、相手もそれを知っているはずなので連続攻撃を仕掛けてくるはずです。

 初手でそれをやられなかったのは幸運と言えるでしょう」


 外して30パーセントか……。


 つまり直撃したら終わり。

 かすっても3発耐えれるかどうかってところだ。


 だからアイちゃんは冗談一つ言わずに真剣に思考を巡らせているのだ。


「どうするの? そうだ、この船は超光速航行できるし、ミサイルから逃げれば問題ないんじゃ……」


 亜光速程度の速度なら逃げれるはず。そんなことはアイちゃんなら分かり切っているはずだが、俺としては聞かざるを得ない。


 ちなみに、マルチタスクできるアイちゃんの思考の邪魔にはならない。

 むしろどんなことであれ、情報のインプットをすることは重要なのだ。


「確かに逃げるだけならそれでいいのですが、今回の場合は亜光速ミサイルとて馬鹿にはできません。物は使いようです。

 おそらくは事前にこちらの航行ルートを把握しているでしょうから、逃げる先には既にミサイルを配置している可能性があります」


 俺はぞっとした。アイちゃんが言うには俺達の周囲にミサイルが待ち伏せしているというのだ。

 それはミサイルというよりも機雷だ。


「まあ、わざわざぶつかりに行くのも癪ですし。こちらも主砲でミサイルを除去してしまいましょう」


「でも霊子レーダーには何も移ってないし。どうやって探すのさ?」


 亜光速巡行ミサイルは小型であり、レーダー対策も施されている。

 エンジンを止めた状態で宇宙空間に静止させておけば、霊子の揺らぎが起きないため発見はほぼ不可能である。

 

「簡単です、探す必要なんかはありませんよ。予測できる範囲で撃ち落とせばいいのです。同型艦の考えることなど手に取るように分かりますから。

 ではマスター、トリガーを握ってください」


 そういうとアイちゃんのホログラムは姿を消した。


 ホログラムはアマテラスの余剰エネルギーによって生み出されている。


 つまり本気モードということだろう、タキオンビーム砲発射トリガーが俺の前に現れる。


 攻撃用兵器は必ず手動発射する必要がある。


 決断し責任を負うことが人間の大事な仕事なのだ。


 そういえば、兵器の自動化が進んだ量子コンピュータ全盛期には色々とやらかしたようだ。

 その時の人類は絶滅を危惧したとか……たしか箱舟のおばあちゃんの時代がそうだっけ。



『マスター、座標特定しました。発射してください』


 俺はトリガーを力強く握りしめる。


「おう、タキオンビーム砲、発射っ!」

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