ブラックホールクラスター2/2

 ニッコリと笑い、アイドルの様なポーズを取るAIのアイちゃん。


 いつの間にかアイちゃんは実体化しており。

 制服をベースにしたアイドル風の服を着ている。


 そう、これも俺好みだ。俺の時代に流行したアイドルグループAK47の

衣装にそっくりだ。


 この時代のホログラムは本当に凄い。


 うるうるとした大きな瞳、つやのある綺麗な黒髪。

 いや何というか、実際に質感もありそうな映像だ。

 

 話によれば航行中の船内であればタキオンエンジンの余剰エネルギーで質量も完璧に再現できているそうだ。


 つまりは触ることができる……。


 だが俺は未だに彼女に触れたことがない。

 俺は、ど、どど、童貞なんや。


 ……冗談はさておき、彼女が言った情報を整理する。


 何気に凄いことを言っていた気がする。


 そうだ。


「アイちゃん! この船って、戦艦だったの? というか俺一人で借りちゃっていいの? というかスパゲッティーモンスターって実際にいたの?」


 三つの質問を同時に投げかける俺。


 俺の時代にはこういった支離滅裂な質問はAIにしてはダメだった。


 だがアイちゃんは高性能だった。

 ほっぺに人差し指を当てながら、上手くまとめて回答してくれた。 


「えっとー。はい、それはもう巨大な化け物でしたよ。大きさは赤色超巨星なみにでかい謎の生命体がボイド空間に現れましてね。

 それはそれは激しい戦いがありました。


 その時に活躍したのがこのアマテラス級戦艦を含めた数万の艦艇が参戦した統合銀河連合艦隊です」


 そうか、過去にはそんな宇宙戦争があったのか。


 そして俺は今、その宇宙戦艦に乗っている。宇宙はヤバいぜ……。


 でもいいのか? 俺、一般人だぜ。そんな俺が宇宙戦艦に乗っていいものか。

 そんな心情を読み取ったのかアイちゃんは話を続ける。


「もちろん、今は戦艦ではありません。武装は、主砲とごく一部を覗いてすべて取り外しております。

 退役から100年ほどは観光船として活躍していましたが、それも任期を終え廃艦の予定でした。

 しかし、設計の優秀さから現代の船と比べてもまったく遜色のない性能。つまり、もったいないといった理由で福祉事業団体に売却され、今に至るのです」


「なるほどね、それで俺がここにいるってことね。でも本当にいいのかい? なんで21世紀の人間にこんな船を託すんだよ」


「さあ、それは上の命令ですのでなんとも。

 まあ良いではないですか。21世紀では学生だったのでしょ? 初就職で宇宙船の船長は現代でも立派です、張り切っていきましょう!」


「それもそうだ、21世紀だって夜明けは暗かった。うだうだ考えてもしょうがない。んじゃ、張り切っていきますか」



 ――いて座エースター。


 銀河中心ブラックホール。

 その質量は太陽のおおよそ400万倍である。宇宙ヤバイのである。


 今のこのブラックホールは膠着円盤の活動も落ち着き、双極ジェットは無く、ぼんやりと周囲に向けて光を放つ穏やかなブラックホールになっている。


 宇宙的には特に何も変化のないただの黒い天体でしかない。


 では、なぜ太陽系からはるばるこんなところに来たのかというと。



「それじゃあ、マスター、仕事を始めましょう」


「はいよ、わかった。ではタキオンビーム砲、発射準備!」


 準備といっても、俺の仕事はアイちゃんが言ってくる報告をイエスかノーで回答するだけであった。


 もちろん、全部オッケーだ。


 これが人間の仕事なのだろう。AIは優秀だが、最終的な決断は人間にゆだねる。これは1000年後でも変わらない絶対的なルールであった。


「なあ、アイちゃん。ところで、教えてほしいんだけど。なんでブラックホールから蜂がでてくるの?」


「それはまだ仮説の域を出ていませんがブラックホール内は別の宇宙だというのが現在の物理学では支配的な説ではありますね」


 ふむ、なるほどね。夢のある話だ。


 ちなみに蜂とは俺が勝手につけた名前ではない。

 俺の所属する組織では奴らのことは蜂と呼称されているのだ。


 ブラックホールの地平面に群がる、数千とも数万とも思われる生物のような物体はまるで蜂のように動き回り、巣を作っていた。


 蜂はおおよそ人間ほどの大きさである。

   

 モニターに映るそれはまさしく蜂のようなので、俺としてもすんなり受け入れることが出来た。


「やつらは別宇宙から外宇宙であるこちらにやってきた生命体、といったところですか。でも外来種は危険ですので定期的に駆除をする必要があります」


 なるほどね、俺もそれには賛成。

 無責任な動物愛護はろくなことにならない。それに外来種ってのは放っておくと危険なのだ、俺のいた21世紀でも同様の問題はあったしな。


「んじゃ、今日も害虫駆除業者として仕事をしますか。アイちゃん、タキオンビーム砲の準備オッケーかな?」


「はい、いつでもどうぞ」



 艦首に内蔵されたタキオンビーム砲。

 戦艦アマテラスの主砲であり、エンジンと直結されたそれは、民間用に改装された後も構造上の理由で取り外すことが出来ないでいた。


 おかげで害虫駆除には持ってこいの船として今だに現役なのだ。


 俺はモニター前に出現した、拳銃のトリガーに似たスイッチを押す。


 わずかに船が揺れた。


 無事にタキオンビーム砲は発射されたのだろう。


 次の瞬間、モニターに映る蜂の群れは巣ごとその姿を消していた。


 もっとド派手な映像が見れると思ったが随分とあっけない。

 考えてみれば超光速のビームがモニターに映ることはないのだろう。


「しかし、宇宙に外来種の蜂ねぇ。まったく宇宙ヤバイっていうか、未だに信じらんねえよなぁ……。

 なあ、アイちゃん。人類ってブラックホールの中に入ったことはあるのか?」


「はい、何度かありますが、どれも現時点において無事に帰ってきたという報告はないですね。

 十一次元効果バリアが効かなかったのか、ブラックホールの重力でスパゲッティーのようにされてしまったか。

 仮に別宇宙に到達出来たとして、帰る方法がない。あるいは現地の生命体にやられたか、よく分かりませんね」


「ふーん、言っとくが俺はごめんだぜ? スパゲッティーになるのは嫌だ、食べるのは好きだがな」


「ふふ、マスター、ご安心を。ブラックホール探査船に志願するには本人とその家族全員の同意が必要ですので」


「そうなのね。んじゃ、仕事も終わったし帰るとすっか。そうだ、今日の晩飯はスパゲッティーがいいな。ミートボールの入ったやつ」


「了解です。観光船アマテラス時代に有名だったメニュー『スパゲッティーモンスター』マスターの味覚に合うと思いますよ?」


「お、いいねぇー。お腹が空いてきたぜ」



-----おしまい-----


あとがき。


お読みいただきありがとうございます。

初めてのSF小説でした。


面白いと思ってくれたら★をくれるととても嬉しいです。

次章も引き続きよろしくお願いします。

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