第一章 ブラックホールクラスター

ブラックホールクラスター1/2

※本編は同タイトルの短編と同じ内容になっております。

 短編統廃合のためコンテスト終了後には短編の方は削除いたします。


 -----本編-----


 俺はいま宇宙船に乗り、一人宇宙をただよう。


「ドゥハハハ。吾輩は宇宙の悪魔であーる、年齢は今年で1025歳であーる!」


「なにをおっしゃいますやら、肉体的にも精神的にも25才独身の成人男性でしょうに。ちなみにネタ元のお方はとっくの昔に魔界にお帰りになりました。

 その後、人間界での活動の功績が認められ、順調に昇進。今では魔王に就任しておいでです」


「え? そうなの? やっぱ本物だったのか、閣下……信じてたぜ」


「何を真に受けているのですか。冗談に決まっています。まだ寝ぼけていらっしゃるのですか?」


 冷凍睡眠から目覚めて早3年。


 俺は徐々に未来の世界に慣れ始め、職業訓練も兼ねて現在は宇宙船に乗っているのだ。


「マスターの頑張り次第で、後続の方々が次々と冷凍睡眠から開放されるのです、いいとこみせないと」


 そう、近年の法律改正により、過去に冷凍保存された人間の復活が合法化に向けていよいよ本格的に動き出したのだ。


 その第一弾として、冷凍1000年というキリがいい数字、そして千は縁起がいい数字とかいう何ともな理由で選ばれたのが俺だ。



 俺自身は大学の卒業旅行中に事故にあってからの記憶がないが、どうやら当時の俺は両親の希望により冷凍睡眠されたようだ。


 冷凍睡眠とは聞こえが良いが、その時点で俺は死んでいる。

 普通に考えたら凍らせた人間が生きてるなんてありえない。


 だが、その辺は倫理的な観点から死亡扱いにはならなかった。


 そして時が経ち技術は進んだ。


 科学的には治療というよりはクローン人間だろう。

 だが生前の記憶はあるし、複製されることも無く、一人なので、俺こそがオリジナルなのだ。



 ちなみに先ほどから俺に話しかけてくれているのは、霊子コンピューターのOS兼サポートAIのアイちゃんだ。


 使用者に合わせて自動生成される優れもののAI。


 ちなみに名前は俺が付けた。

 流石未来のコンピューター、いちいち設定しなくても俺の好みの性格と声に変換してくれるのは気が利いている。


 これだけでも未来に蘇って大正解だと言わざるを得ない。


「ではアイちゃん。今日も仕事に行くとしますか。今回の目的地は……えっと、なんだっけ?」


「はい、我々はこれから天の川銀河の中心に向かいます。

 目的地は、いて座エースター。所謂、銀河中心ブラックホールですね。


 ではタキオンエンジン始動。十一次元効果バリア正常、地球標準時間への同期を確認。

 超光速へ加速後、そのまま巡航速度を維持。……順調に進めば到着までは半日と言ったところでしょうか」


 アイちゃんは必要な情報を俺に教えてくれる。

 そして俺はそれに対して了承の合図とねぎらいの言葉を言う。


「ごくろうさん。しかし、半日かー。銀河系もご近所感覚になったもんだなー、宇宙ヤバイから人類ヤバイに評価を改めるべきかな」


「いえいえ、宇宙はまだまだヤバイ要素はたくさんですよ? さてと、半日暇ですね。その間にマスターにはお勉強をしていただきましょうか」


 そう、俺は過去の人間。

 サポートAIとして俺の為を思っての行動だろう。


 だが俺は勉強は苦手だ。


 かつて、AI美少女が家庭教師になってくれたら俺だって東大に入れると、そんな妄想をしていたが。

 いざ現実になるとそうもいかない。やはり勉強ができる奴は生まれながらに勉強できる奴なのだ。


 だが美少女に言われると弱い。

 俺も随分とちょろい男だ。だがそれもよし。 


「ふう、分かったよ。でも、俺は21世紀の人間なんだが。

 お前等は原始人に高等数学でも学ばせようとしているのか? 俺はこう見えても学業をおろそかにしがちだった平凡な学生だぜ?

 ……まあ、もう少し勉強してたらと反省はしている、だが後悔はない」


「はいはい、そうですね。サルではないのですから、反省する暇があったら勉強あるのみ。では、今回行くブラックホールについて予習しましょうか。

 ではマスター、今日の日課ですよ、自己紹介を」


「それな、前から不思議だったんだけど、なんで毎日自己紹介をするんだよ。そろそろ俺だって突っ込みたくなるぜ、この習慣」


「おや、この時代の常識ですよ? 自己を認識する大切な儀式です。まあ、21世紀にもあったでしょう、授業の前には、起立、礼、着陸。とか」


 ち、無駄に俺の時代に詳しい。

 まあ、俺専用のAIなんだからそれもそうか。

 妙に話も合うし、それは良い事には違いないのだが……たまに本当に未来にいるのか疑いたくなる。


 とりあえずは、この時代の常識なのだ、郷に入ったらなんとやらってやつだ。


 俺は椅子から立つと、一礼し、自己紹介をする。


「……スズキ・イチローです。独身25歳、趣味は21世紀です。よろしく」


「オゥ、イッチロー、レーザービーム?」


 やはり言った。もはや突っ込むのも飽きた。好きだなお前等、欧米か!


 そう、俺はあくまで一般人。

 たまたま鈴木家で生まれた平凡な男だ。


 名前の由来は野球ファン……でもないミーハーな親に付けられただけ。


 小学生の時、同級生からレーザービームと呼ばれたのは今ではいい思い出だ。


 同時に懐かしい思い出も蘇る。


 おそらくアイちゃんはサポートAIとして、時代から切り離された俺のメンタルを気遣っているようである。

 健康管理もAIの仕事の一つであるらしいのだ。


 不思議と心は落ち着く。


 着席すると、さっそく授業が始まる。


「ところでマスターはひも理論をご存じで? ちょうど現役世代でしょ?」


 たしかに、ひも理論は良く聞いた。もちろん学問としてではなく、ネット動画ではあるが……なるほど分からんが、すっげーことだけは知っている。


 現役世代ではあるが、あれって結局なんなのだろう。


 だがこのアイちゃん。可愛い顔で俺に期待の目を向ける。


 あざとい。だが、男としてなにか答えないと。


「お、おう、聞いたことがあるぜ。あれだろ?

 そう、世界はひもで出来ている、そしてそのひもは創造神たるスパゲッティーモンスターに行きつくと……

 奴は神と言われる全能の存在であるが、その実は外宇宙からの使者である可能性も微粒子レベルで存在する」


 そう、まったくのでたらめだ、科学的ではない。

 当時、ネットで流行ったオカルトの知識を言う。


 俺は物理学など全く詳しくない、だがSFは好きだった。


 信じるか信じないかはあなた次第です。そう、最後にこれを言えばオカルトが肯定される。


 そんな時代であった。


 だがアイちゃんの反応は違う。


「おや、マスター。素晴らしいですね。少し見直しましたよ。

 あれですか? 勉強してないふりをして実はめちゃくちゃ勉強してたタイプですか?


 ちなみに、マスターの回答に対する現代での解をいいますと。そのスパゲッティーモンスターは既に撃退しておりますのでご安心ください。


 そして、なんと、その戦いに貢献したのが我が船、アマテラス級戦艦、一番艦のアマテラスです。そう私ですっ!」

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