第二章 箱舟のアイドル

箱舟のアイドル1/2

※本編は同タイトルの短編と同じ内容になっております。

 短編統廃合のためコンテスト終了後には短編の方は削除いたします。


 -----本編-----


「……マスター。そんな平面の画面を一日中見ていて楽しいですか? 不健康ですよ?」


 AIのホログラムは宇宙船の船内で動画を見ている俺に話しかける。

 画面の中で歌って踊る、薄着の女の子の映像を凝視する俺を気遣っての事だろう。


 AIのアイちゃんは俺の健康管理もしてくれているのだ。 


 だが、言わせてもらおう。

 平面とは失礼だ。4K画質のプロモーションビデオは立体感があるのだ。

 そう、俺は今アイドルの動画を楽しんでいる。


「おう、楽しいぞ。しっかし、未来の人間は偉い。21世紀の映像作品をほぼ残してくれていたんだな。

 思い出すぜ、伝説のアイドルグループAK47のデビューシングル『セーラー服と自動小銃』。お年玉を全て使って買ったもんだ」


「おや、当時の音楽は貴重だったのですね。いや、マスターの時代だとそこまで高くない印象がありましたが」


「おう、一枚だけならな。……でもな、CDの中には投票券がはいっててな、貴重な一票を推しの子にってやつよ」


 その投票券で推しの子に投票するのだ。アイドル総選挙、今では暗黒の時代だと思うがその当時は何の疑問も抱かなかった。


「それで、マスターは全財産を投票券付きのCDに費やしたのですか? 金で投票するとか民主主義の崩壊ではないですか?」


 アイちゃんは辛辣だ。


「……ああ、そうだな、俺もあの時はどうかしてた。反省してる。だが当時、俺の推しの子がやや人気がなくてな。

 父親に借金してでもCD買わなくちゃって、お金がいるって親父にねだったんだ。

 AK47のCDを買わないと、現政権(フロントメンバー)を打倒するには弾(投票券)が全然足らないって。

 ……そしたら、親父にひっぱたかれた、テロリストになるつもりかってな」


 本気だった。俺はアイちゃんをフロントメンバーにするために勉学をおろそかにしてバイトをした。でも高校生では稼ぎも多くない。でも一生懸命働いたのだ。


「なるほど、動機はどうであれ働くのは良い事ですね。マスターの一途な性格はとても好ましい物です」


 さすが俺のAI。でも、正直俺の行動はおろかだったのだろう。……その辺は叱ってくれてもいい。

 いや、もしアイちゃんに罵倒されたら生きていけない。うむ……面倒くさいな人間は……。


 そして俺はアイちゃんに推し活の末路を告げるのだ。


「でもな、その子、彼氏とラブホテルで密会って、週刊誌でスキャンダルになってな。俺の勤労意欲は無くなったのさ。バイトもやめた。初めての失恋だった……」


 …………。


 AIが黙っている。さすがにあれだ。哀れみを通り越してパンクしているのだろうか。

 


 ピコン! モニターにメッセージがでる。


「マスター、もうすぐ目的地に付きますよ。仕事ですよ、仕事! 気分転換をしましょう」


「分かってるっての。まったく、仕事って憂鬱だなー。仕事って単語がよくないんだよなぁ。

 そう、仮に俺がアイドルだとするならば、アイちゃん。俺は今、宇宙というステージに立ってるんだよな!」


「はいはい、そうですね。マスターは素敵です。でもアイドルは大変ですよ? マスターの推しの子、その後の人生がどうなったのか、ご存じですか?

 ファンを失ったアイドル。……想像してください、あるいはその時こそ、ファンとしてはマスターが支えるべきだったのでは?」


「う……。聞きたくない。まさか自……」


「いいえ、それはないですけど、ほら、よくあるアニマルビデオに出演したり、暴露本を出したりと開き直りとも取れる行為は話題になりましたが。

 その後はすっかり世間から見放され、以降の情報はありませんね。一般男性と結婚したというのが週刊誌の続報、一ページほどの記事にのった程度ですかね」


「そ、そうか、アイドルの落ち目に付け狙うムーブをしていれば。俺だって……。いや、……やめよう、それってもう、ゲスを越して虚しい……俺は仕事人間になる! アイちゃんだっているしな」


「うふふ、マスター、今度は私が推しの子ですか? 照れちゃいますね」


 よくできたホログラムのアイちゃんはくるりと回る、揺れるスカートの質感はまるで本物だった。

 ポリゴンの時代とはクオリティーが違うのだ。


 だが、俺の気持ちは昔ほどの高ぶりを覚えない。


「いや、たしかにアイちゃんは可愛いし、好みのタイプだけどなんかな。こうして会話してると仲のいい友達って言うか、家族って言うか。なんか、そういうのはどうでもいいって思えてくるんだよなぁ」


「おやおや、それは女性に対して失礼なセリフですよ。生身の女性に言ってはいけないセリフですので気を付けてくださいね」


 こうして、暇な時間をAIのアイちゃんと会話をしながら過ごしていると今回の目的地についた。


 モニターに映るのは一隻の宇宙船だった。


 全長1キロメートル以上はあるだろう……もっとも第一次宇宙大戦以前の船で正確なデータは無いけど。

 それでも大きな船だ。もちろん太陽系外への航行が可能なのだからそれくらいはあるのだろう。


 福祉船アマテラスは亜光速で進む目標の船にゆっくりと近づく。

  

「なあ、アイちゃん、あれって攻撃してきてない?」


 その宇宙船からはビーム砲と思われる青やら緑、赤色の光線がこちらめがけて飛んできている。


「しかし、宇宙戦争って感じだなぁ。正直タキオンビーム砲は目に見えないから味気ないんだよなぁ」


 福祉船アマテラスの主砲、タキオンビーム砲は超光速。つまり映像に映らない。

 映えが無いのは兵器としてはリアルだが、やっぱビームは光ってなんぼだろう。


「それはそうでしょう。ちなみに今でもああいった旧式の荷電粒子砲は式典なんかで使われていますよ。

 ちなみに今回の船はそれが現役だったころの移民船です。亜光速外宇宙移民船ロナルドトランプですね。当時として最新鋭の技術の結晶。

 大富豪が集まって建造させたと言われる贅を極めた豪華な宇宙船です。

 報告では出航時には一万人が乗っておられたようですが……」

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