フラクタル2/3

 ――地球。


 母なる大地。

 3024年、地球はまだ青かった。



 俺達は地球連合国防省があるウォンバット宇宙基地にやってきた。

 ここはオーストラリア大陸にある宇宙一の規模を誇る軍事基地。


 全長1キロメートルを超える福祉船アマテラスを停泊させるのも余裕だ。


 21世紀の頃はほとんど未開発地域であったが、今ではすっかり開発されている。


 数百、いや数千の宇宙船を停泊出来るほどの大規模な基地になっている。


 ちなみにエアーズロックなどの観光名所は、自然のままに保存されているので用が済んだら観光に行ってみたいところだ。


 基地の地上部分は停泊している宇宙船や管制塔のみであり。

 それ以外の施設は全て地下にある。


 俺は船を降りるとそのまま地下施設へと向かうことにした。


 今日はユニバーサルクロークは着ていない。

 スーツにネクタイである。


 俺は軍人ではないので軍服を着る必要はないが、ノーネクタイだと失礼なのだ。


 

 エレベーターを降りると、事前の連絡通りに基地の中にあるVIP専用のラウンジで待つ。 


 少し緊張している。

 ウェルカムドリンクのシャンパンを楽しみながら少し気を落ち着かせる。


 これから会う人は俺の血縁関係ではあるのだが……それでも緊張してしまうのは仕方ないのだ。


 なぜなら……。 


「イチローおじさん、お久しぶりです」


 25歳の俺におじさんと呼ぶのは、俺よりも若干年上の女性だった。


 金髪のロングヘアに碧眼、タイトスカートのスーツを着こなすスタイル抜群の超絶美人さんの登場だ。 


 彼女の名前はクリステル・スズキ


 ちなみにハーバード大学卒である、才色兼備とはこのことだ。

 ……それに比べての俺である、緊張せざるを得ないのだ。


 どっからどう見ても欧米系のお嬢さんだが、彼女は俺の弟の子孫らしい。


 家系図はあるため、らしいと言うのは間違いなのだが……。

 それでも1000年後の子孫って、もはや他人だと思うのだ。


 ちなみにクリステルさんは何を隠そう、俺を冷凍睡眠から再生させた張本人で、今は俺の保護者ということだ。

 職業は福祉団体フリーボートの代表であるフォーマー・クロスロード上院議員の首席秘書官である。



 彼女は当然のように右手を俺の前に差し出す。


 そう、欧米なのだ、俺はズボンで手の平を拭くと握手を返した。


「お久しぶりですクリステルさん。この間言ってたアサシンドールの件できました」


「もう、おじさんったら、堂々とアサシンドールなんて言わないで下さい。条約違反の兵器のひとつですし、それに……あまりイメージが良くありませんわ」


「……ああ、そうだった、悪い悪い」


 そう、アサシンドールは人間のふりをして殺人をする非人道的兵器のひとつである。

 今回は無理を言って特別に用意してくれたし。迷惑をかけてはいけない。


 その後、ラウンジで改めて近況報告を済ます。 


「なるほど、アンプラグドの件はこちらの落ち度でした。本当に申し訳ありません。

 でも安心してください、マリーさんの件は責任をもって保障させていただきますから」


 俺達はラウンジを出るとクリステルさんが用意してくれた自動車に乗る。

 もちろん運転はクリステルさんだ。


 ちなみに地下施設なので全て電気自動車である。

 一応この時代にもガソリン車は普通にあるが、お高いので客層はレトロ好きのオタクか金持ちの趣味といった位置づけだ。


 車に乗ること数十分。

 ウォンバット宇宙基地、アンドロイド研究所にやってきた。


 事前に話が通っているのかセキュリティーは素通りに等しい。

 

 通された場所は調達課の一室だった。

 室内には小さな端末とマリーさんによく似たアサシンドールがちょこんと椅子に座っていた。


 まだ意識は無いため、普通の人形に見える。


 てっきり俺はSFよろしくの体中にケーブルだらけの姿を想像していたのだが……。

 まあ、受け取るのは当然完成品の状態なのだからこれが正しい。

 

 それに研究所と言っても、この部屋は普通の会社によくあるただの会議室だ。

 

 少しがっかりしたが、よくよく考えればそんな研究施設に俺を入れてくれるわけないし、その理由もないのだ。

 

 クリステルさんは携帯端末を取り出すと、画面をタップする。


「アマテラス、聞こえますか? こちらの準備はオーケーです」


 ちなみに今はアイちゃんとは連絡が付かない、軍事基地内なので部外者の携帯端末では通信できないのだ。


 クリステルさんの端末からアイちゃんの声が聞こえた。


『はい、クリステル様、聞こえております。ではこれよりアサシンドール、個体名マリーのバックアップデータを転送いたします。

 ちなみにマリーさんの要望で霊子フラクタルの最適化はしないでください。インストールに少し時間はかかりますが全て大切な思い出だそうですので……。

 あ、マスター、言い忘れてましたがスーツ姿がとても素敵ですね、会議室にいると企業戦士みたいでとってもお似合いですよ?』


「おいおいアイちゃんよ、企業戦士って、それは勘弁してくれよ。それは昭和の日本人への誉め言葉だぜ?」


 ……いやまてよ、たしかに今の俺は金髪の外国人相手にビジネスをしている日本人ビジネスマンにしか見えない。

 あの頃の同級生に自慢したくなるな、さしずめ外資系の営業マンって感じか。


 ふふふ、つまり俺は日本人としては勝ち組にあたるのでは。ふふふ、今日のアジェンダはオンスケで俺と一緒にトゥゲザーするでんすエビデンス。ふふふ。



「イチローおじさん。さっきから何をぶつぶつ言ってるんですか?

 ちなみにですが、マリーさんの人格および記憶を司る霊子フラクタルのインストールには約半日ほどかかりますが、どうしますか?」


 半日か、モバイル版とはいえさすがは霊子コンピューター、その容量は半端ないか。


 それにマードックさんとの思い出は30年以上あるらしいし。

 一つ残らずとなるとそれくらいはかかるのだろう。


「うーん、半日か……ここはオーストラリアだし……そうだな、せっかくだからエアーズロックに行きたいんだけど」


「わかりました、では頂上に景色が綺麗なお気に入りのカフェがありますので、そこで休憩でもしましょうか」

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