夢と現実

1

 モンスターコアから取り出せるエネルギーは、今や人の生活にかかせないものである。


 家の明かりや、作業場にある道具。時を刻む時計や憩いの場にある噴水に至るまで、モンスターコアを使用した機械と呼ばれる道具は、人々の生活に浸透して欠かせない存在となっている。


 だがモンスターコアがどのような過程を経て存在するかは、仮説でしか分からず、今もその謎を解き明かそうと躍起になっている人たちがいるのもたしかである。


 仮説でしか分からない状態ではあるが、抽出方法が確立し使用方法が分かる今は、どうやってできるかは、多くの人々にはさほど重要ではないのかもしれない。


 そんな中、モンスターコアの枯渇、またはダンジョンそのものがなくなる恐れを提唱する者たちがいる。

 無闇にダンジョンから資源を採取すべきではない、人間による資源の管理を! と声を上げる一方で今の生活に制限がかかることに苦言を呈し、使えるべきものは使うべきだという声もある。


 ━━シルシエは手に持ったモンスターコアを見つめる。

 黒い瞳に映るモンスターコアは、ダンジョンで見かけるような輝きを放ってはいない。力を感じない、静かに存在するだけのモンスターコアはガラスの器のようである。


「これで抽出率70パーセントなんですか?」


 シルシエはモンスターコアから目を離し、正面にいるメガネをかけた人物に話しかける。


「そうなんだよ。世間一般的にモンスターコアを使用するといっても、実際に使用できているのは全体の70パーセント程度。これは昔から言われていたんだけど━━」


 ズレた丸いメガネの位置を直しながら、ボサボサの髪と薄汚れた白衣の袖から出ている手で、身振り手振りを交え男は熱く語る。


 それをシルシエは興味深そうに相槌を打ちながら聞くので、男の語りは加速する。


「つまりは、モンスターコアの抽出率を上げる触媒がダンジョンにあるというわけですね。それを僕に採取してきてほしいと」


 白衣の男の話が途切れたところで、間髪入れずシルシエが口を挟む。すると、白衣の男は満足気に大きく頷く。


「最終確認ですけど、依頼内容は触媒になる可能性のある鉱石、ロジウムを取ってくることですね」


「そうそう、さすがはシルシエ君。僕が見込んだだけあって、理解力が高くて助かるよ」


「見込んだって、僕は食材を選んでただけなんですけど……」


 手を叩いてシルシエを褒める白衣の男に対して、シルシエ本人はどこか居心地悪そうな態度を見せる。


「シルシエ君がドライフルーツを選ぶときに見せた目利きの能力にビビッときたね。この子はできる! そう直感したんだ」


「ドライフルーツの目利きと鉱石の採取はあまり関係ないような気がするんですけど」


「いいや、物事ってのはね、関係ないようで全てが繋がっているんだよ」


 自信満々に言う白衣の男にシルシエは、少し困ったように笑う。

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