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 それは悲惨な状況だったと第一発見者は語る。


 布の上に横たわるボヌーの遺体を中心に倒れている三人。


 一人は顔面を剣で刺され、一人はのど元に刺し傷。もう一人はバラバラに……。


 どの遺体もダンジョンのモンスターが食い散らかして原型をとどめておらず、死因も傷口がハッキリとしているラルジャとフェールしか分からなかった。パスに至っては体がバラバラで遺体を全て回収することは不可能だった。


 クラックから引き上げられたボヌーの遺体が一番綺麗だというどこか皮肉めいたものを感じさせる事件。


 ***


 机の上で紙の束をトントンと叩き揃えた、強面の男が目の前にいる眼帯の少年に目を向ける。


「ご苦労様、もう帰っても大丈夫」


「はい」


 椅子から立ち上がって一礼したシルシエに、強面の男は自身の肩を叩きながら大きなため息をつく。


「君もとんだ事件に巻き込まれたね。あんまり、事件の内容はいえないんだけど、ラルジャとフェールには多額の借金があってね。パスがそこにつけ込みそそのかして、仲間のボヌーを殺害した……ってのが我々の見解さ」


 あまり言えないと言いつつ、べらべらと喋る強面の男をシルシエは目をパチパチさせながら見つめる。狭い部屋の中にいる、長い槍を持った警備兵の二人も呆れた顔で強面の男を見ている。


「仲間をクラックに落とし亡き者にして、隠していたお金を手に入れようとしたが、肝心の鍵がない。そこで遺体の回収をギルドに依頼し、君が仲間の遺体を見つけたことで三人が争って二人がパスに殺された。パス自身も反撃による深手を負っていたところをモンスターにやられ餌となった……なんとも呆れて言葉もない欲にまみれた自分勝手な事件だよ」


 再び大きなため息をついた強面の男が、机に両肘をつきシルシエに目を向ける。


「まあ、パスって男。なんでも隣の国の騎士団をやってたらしいが、冒険者になってから二人ほど仲間が消えている……なんて調査結果も出てきてな。とんでもない殺人鬼の可能性も浮上してきた」


「僕にそんなこと喋って大丈夫なんですか?」


「おおっといかんいかん。今のは忘れてくれ、いいね。よし、気をつけて帰りなさい」


 口を押えた強面の男を見て苦笑いをしたシルシエがもう一度頭を下げて、取り調べ室と書かれた部屋から出て行く。


 外に出たシルシエは太陽の光を浴びて大きく伸びをする。


「うぅ~ん、どうにも後味が悪いや」


 左目で空を見上げる。


「空はこんなにも青くて日の光は平等に降りそそいでいるはずなのに、影はできちゃうんだよね。だけども嫉妬や憎悪もまた人の感情なんだよね……。僕も復讐鬼の方へ加担したわけだし、文句を言える立場じゃないか」


 シルシエは眩しくて半分だけ閉じていた左目をつぶって、ゆっくりと目を開くとリュックを背負い直し歩き始める。

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