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 鉱石の入手。どちらかと言えば冒険者に依頼すべき案件なのだろうが、アヴェニルと呼ばれる町で買い出しをしていたシルシエは、研究者のローブと名乗る男に突然声をかけられ今に至る。


「ドライフルーツの買い出しから鉱石の採取かぁ。どこでどう繋がるか世の中は分からないものだね」


 シルシエは依頼者であるローブから借りたロジウム鉱石を見つめる。


「人類の進化に貢献できる、なんとも素敵な依頼だけど僕にできるかな」


 ロジウム鉱石を布で包んで、リュックへ入れたシルシエは、ダンジョンの奥へと進んでいく。


 途中何度か壁に触れ、岩肌にわずかに覗いている鉱石らしきものを見て観察する。


「石に特化したダンジョンは多いけど、ここは質も種類も豊富そう。難易度が高くて、致死率が高く地下四階以降の突破記録がないだけに質も悪くないといったところかな」


 岩肌から覗いている、薄く青い線の入った何らかの宝石の原石に触れて呟くシルシエが、なにかの音に気づき耳をピクリと動かすと、壁に耳を当てる。


「近づいてきてる? 複数の足音と……なんだろ? この大きいのは」


 そっと耳を離すと音が近づいてくる方を見つめる。暗く長いトンネルのようなダンジョンの通路の奥で影が揺れる。


 やがて、けたたましい音と共に、揺れていた影が人の形を作りシルシエの方へと向かってくる。


 複数の影の正体は数人の男たちと、それを追いかける巨大な人型の物体。


「ゴーレムだね。見た感じ鉱石の比率が高いのは、ここのダンジョンで生まれたゴーレムの特徴なんだろうね」


 冷静にゴーレムを分析するシルシエに、走ってくる男たちが逃げろと叫ぶが、シルシエはそのまま向かって行き、大きく開くゴーレムの足の間をすり抜けていく。


 その行動に驚く男たちの視線を受けつつ、シルシエは先へ進む。


「ありゃりゃ、うまくいったと思ったのに、こっちにもいるんだ」


 急ブレーキをかけたシルシエに向かって振られる大きな拳を、しゃがんで避ける。


 そして突進してくるゴーレムをかわすと、先に拳を振ったゴーレムの股下をスライディングで潜り背後に回る。


 シルシエを捕まえようと、自分の足下に手を伸ばすゴーレムと、突進を避けられ慌てて手を伸ばすゴーレムとが衝突し豪快にコケてしまう。


 地響きと共に上がる土煙を横目にシルシエは、先へと足早に去っていく。


 シルシエが進むと、ツルッとした岩肌の通路に差し掛かる。

 他がゴツゴツしているのに、一部だけ凹凸がなく、トンネルのようになっている通路の手前に立つシルシエは、下に落ちていた石ころを拾うと前方へ投げる。


 カツン、カラカラと軽い音が響いたかと思うと壁や床から一斉に針が飛び出してくる。


「はぁ〜、あからさまに罠だと分かるけど、どうやったら先に行けるんだろ?」


 シルシエは、ゴツゴツした壁や床のあたりをしばらく探って腕を組む。


「迂回路があるわけでもなさそうだし、針を止めるスイッチがあるわけでもなし……ここの罠を突破した記録が残ってないのも頷けるね……」


 目をつぶって首を捻り考えるシルシエが、ふと目を開くともう一度石ころを投げる。


 再び一斉に突き出してきた針を観察し、ゆっくりと壁や床に戻るときを狙って再び石を投げると、針は戻るのをやめ一斉に突き出してくる。


「針が戻る瞬間を狙って駆け抜けるのは無理。そもそも200メートルはありそうだし、何秒で走れるかって話になるよね。全身を鎧に包んで針を防いで歩くのは、先人たちが試したみたいだし……」


 シルシエは入口からすぐのところで、鎧の破片と砕けた骨らしきものを見て呟く。


「となると……」


 シルシエは上を向いて天井を見つめる。


「針が出てこない天井を伝って行くしかないわけだけど、壁を登って天井にアンカーを打ちつつ進む。またはジップライン的な物を設置してて滑って行く……てのも考えるよね」


 周りに落ちているアンカーやハシゴ、その他道具らしきものを見て呟く。

 再び考え込んだシルシエが目を開け、ポンと手を叩く。


「まさかとは思うけど……いやあり得るね」


 なにかを思いついたのに、どこか浮かない表情のシルシエは、もと来た道を戻り始める。


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