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シルシエが自分に紐を巻き結ぶと先端に付いている鉄の輪に、岩の柱に結んだロープを通し再び結ぶ。結び目を確認しロープの先をクラックの下へ投げる。
「慣れたものだな。これは期待できそうだ」
「ありがとうございます。ご期待に応えれるよう頑張ります」
パスが声をかけるとシルシエは笑顔で応え、クラックの端に後ろ向きで立つとロープを引き強度を確かめ下へ向かって下りていく。
手に持ったロープを引いたり緩めたりしつつ、クラックの底へと下りていくシルシエを上で待つ三人は覗き込んで見守る。やがてシルシエの姿が見えなくなると、三人はその場に座り込む。
「あの子ボヌーを見つけれるだろうか?」
心配そうにフェールが呟くと、ラルジャは鼻で笑う。
「下にはあちこちに死体が引っかかってるらしいじゃねえか。あのガキ、ビビッて震えて見つけるどころじゃねえだろよ。おい、パスお前はどうなんだ? お前があのガキを雇ったんだからな、俺は金払わねえぞ」
「構わないさ。その分、今回の結果次第では俺が四割、お前ら二人が三割だ。文句はないだろ?」
「けっ、先行投資ってやつか。まあいいさ。さてと」
手をひらひらさせて、これ以上は話さないと態度で示したラルジャが立ち上がる。
「暇だし、その辺のモンスターでも狩って小銭稼いでくるわ」
「あんまり遠くへ行くなよ」
パスの呼びかけに、今度は同意の意味で手をひらひらさせたラルジャはその場から去っていく。
「パス、本当のところどう思う?」
「そうだな。あのシルシエって子供、普通じゃないとだけしか言えないな」
「元騎士団の勘ってやつ?」
「そんなところだな」
パスはクラックの底を見つめながらフェールと言葉を交わす。
ときどき無駄話を交えながら待つこと約二時間……
クラックの底へと伸びていたロープの揺れが大きくなる。そして擦れるような音が下から聞こえてきて黒い影が揺れる。だんだんと大きくなる影に色が付き、シルシエの姿へと変わっていく。
クラックの底から這い出て来たシルシエが額の汗を拭って、ポシェットに手を突っ込む。
「一先ずこれらを確認してもらえますか?」
シルシエがパスに手渡したものは、冒険者登録の番号と名前が刻まれたタグだった。そのタグを注意深く観察したパスは大きく頷く。
「間違いない。ボヌーのものだ。彼は今どうなっている? 遺品の回収はできそうか?」
やや興奮気味にシルシエの肩を持って強く揺するパスの手をシルシエが握る。
「あぁ……すまない。大切な友人が見つかって興奮してしまった。恥ずかしいところをみせてしまった」
「いいえ、ずっと探していたご友人が見つかったのですから当然です。それで、今の状況を説明しますね」
シルシエの説明を、いつの間にか帰ってきていたラルジャも真剣な表情で注目している。三人の視線を一身に受けシルシエは口を開く。
「まず、ボヌーさんの体の大きさで落ちれる、目一杯の底まで落ちています。右手を下に向け隙間に横になって挟まっている状態です。そして、遺品の回収についてですが、首にあった冒険者登録のタグ、腰に装備してあったナイフを今回は回収しました」
そう言ってシルシエが、ポシェットからボヌーの名が刻まれた鞘に入ったナイフを手渡す。
「右側が隙間にハマっている状態ですので、とりあえず回収可能と言えば、左足の靴と左手の指にあるリングでしょうか。ただ、左手は握ってますのでリングを取るには遺体を傷つけないといけませんから、それは勝手にはできないので今回はしていません」
「首にはタグしかなかったか? こう、ひし形のペンダントとかなかったか? ボヌーのヤツあれを肌身離さず持っていたんだ」
パスの問いにシルシエはゆっくりと口を開く。
「不確定要素を話して変な期待をさせてはいけないのですが、明かりを照らして調べた感じ右手に何かを握っているように見えました。ただ、隙間に手を突っ込んでいるので手が届きませんでした」
シルシエの説明にフェールが肩を落とし、ラルジャが舌打ちをする。
「そうか……」
「なので遺品の回収を断念して、遺体の回収を行いたいので手伝ってもらえませんか? さすがに僕一人では引き上げれないので」
シルシエの報告内容に暗くなったムードから一転、思わぬ提案に三人全員が驚きの表情でシルシエを見る。
「引き上げるって、ボヌーの遺体をか?」
「はい、一先ずロープに繋いでいるので、もう一度僕が潜って凹凸に引っかからないように誘導しながら皆さんに引っ張ってもらえれば可能かと思います。僕の依頼なのに手伝ってもらうのは申し訳ないですけど」
「いいや、構わん。助かるよシルシエ!」
シルシエの提案にパスが手を叩いて喜びを露わにする。
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